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邪魔するなら、お前も消すわよ

 マルタ森中央付近。


 アイトはいつもの変装をして、空中に浮いていた。


 ここからは『天帝』レスタとして、行動を始めることになる。


 (もう、やるしかない!!)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 時は遡る。


 アイトはアーシャとの修行を終えた夜、地面に寝転がっていた。


 「はあ、はあ、疲れた〜!!」


 「こんなので疲れていてどうする。

  組織の代表ならもっとしっかりしろ」


 「うえっ」


 アーシャは座り込みながらアイトの額をパチンと叩く。


 「いや確かにそうなんだけど」


 「お前、まさか変装してる時も普段と同じ態度か?」


 「た、たぶん」


 「バカッ!!」


 「グォェッ!!?」


 アーシャの肘鉄が地面に寝転がっているアイトの鳩尾を捉える。アイトはしばらくその場で悶えた。


 「何すんだ!?」


 「そんなの変装してる意味がないだろうが!?

  話し方、言葉違い、態度、普段と変えろ!

  特に人目が多い時はな!! 絶対にバレるな!

  さ、今からその練習だ!!!」


 「わざわざ今から!?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 銀髪に仮面、そして組織の黒と白を貴重としたスーツ状の特殊戦闘服を身に纏ったアイトは息を大きく吸い込み、口を開く。


 ーーー『天帝』レスタとして。



 「私は『エルジュ』代表、レスタ!!

  この世界の平穏を望み、世界の闇を払う者!!

  覆面を被った秩序を乱す者たちよ!

  貴様らがゴートゥーヘルと言うことはわかってる!

  貴様らの極悪非道な数々の所業、

  あの世でしかと詫びるがいいっ!!!」



 アーシャと練習した演技を披露する。奇しくもエリスの宣言と似ていた。


 アイトは内心恥ずかしさで死にそうになっているが、普段のアイトが言わないことを言うことが大切なのだ。


 それに、ゴートゥーヘルの奴らが許せないというのは彼の本心でもある。



 「あれは、レスタっ!?」



 すると生徒を死守していたマリアは花火の轟音に合わせて目線が上を向き、空中に浮いているレスタ(アイト)を捉えた。


 マリアだけでなくルークやシロアなど、森にいる全員が彼を見ていた。


 上空にいるレスタ(アイト)に、真っ先に攻撃を仕掛けたのは皮肉なことに、姉であるマリアだった。



 「【雷鳴】!!」



 マリアが自身の刀に雷を纏わせ、上空のレスタめがけて振りかぶる。すると雷の斬撃がレスタ(アイト)に迫る。


 (危なっ!?)


 アイトは風魔法で突風を作り、身体を横に動かしてマリアの雷の斬撃を避ける。


 「はあああ!!!!」


 声と共に連続で飛ばすマリアの雷の斬撃は、10を軽く超えた。


 それをアイトは風魔法により回避していく。


 その光景がしばらく続くが、1発も当たらない。


 「落ち着いて。今彼を相手にしている場合じゃないよ」


 ルークがマリアに声をかける。マリアは我に帰り、ルークの方を向く。


 「も、申し訳ありません」


 「気にしなくていい。それよりも、これは好機だ。

  彼が現れたことで謎の覆面集団も

  戦力を割くことを強いられる。

  今の僕たちにとって彼はありがたい。

  存分に踊ってもらおうじゃないか」


 上空にいたアイトは、ルークたちと少し離れた地点に着地する。


 直後、大量の覆面集団が襲いかかる。


 アイトは聖銀の剣を右手に持つ。ものの数秒で、覆面6人を斬り捨てる。


 (まずは数を減らして生徒への負担を減らす)


 アイトは単独で大量の覆面集団を相手にし始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 競技場、観客席。


 「はあっ!!」


 響き渡る甲高い声と共にカールのついた茶髪を振り乱した女性が迫り来る覆面を蹴り飛ばす。


 「みなさん落ち着いて!!

  私は『ルーライト』隊員のエルリカです!

  観客席から外に繋がる出入り口は4つ!

  各自、最も近い場所から避難してください!!

  周囲の警備兵にも連絡は済んでます!

  皆さんは、必ず私たちが死守します!!」


 『金剛』エルリカ・アルリフォンは事態をすぐに察知し、迅速に観客の避難の準備を整えた。


 彼女の声がきっかけとなったのか、観客がそれぞれ最短の出入り口へと足を進め始める。


 だが当然、それを阻止すべく多くの覆面が襲いかかる。


 「戦えない人から狙うなんて、卑怯な連中ね!

  同じ人間だと思うと、こっちが泣けてくるわっ!」


 エルリカは普段の自分らしくない、馬鹿にしたような口調で覆面たちを挑発する。


 それに触発された一部の覆面たちが、一斉に襲いかかる。


 「はあっ!!!」


 エルリカは硬化魔法を付与した拳で床を叩く。すると床が陥没し、同時に粉塵が巻き上がる。



 その粉塵の中、彼女は瞬く間に覆面たちを殴り飛ばした。



 一時の恥をかいてでも、手段を選ばずに最優先で人々を助ける。そんな彼女は、正に『ルーライト』の隊員だった。


 だがエルリカは今、意識の一部を別のところに割いていた。


 (あの金髪女剣士、怪盗捕縛の邪魔をした強敵‥‥‥)


 一部の意識は『エルジュ』の代表代理、エリスへと向いていた。彼女はすでに観客席から姿を消していたが、彼女と同じ特殊戦闘服を着た仲間たちは今も覆面集団を倒し続けている。


 (エルジュ‥‥‥それがレスタ率いる組織の名前。

  今のところ標的は覆面だけみたいだし、

  放置するのは癪だけど今は猫の手も借りたい)


 彼らの強さは十分に理解しているエルリカだが、今は争っている場合ではない。


 むしろ共通の敵である覆面を潰してくれるため、今は自身の気持ちを後回しにして放置すると決意したのだ。



 「うおぁぁぁぁぁ!?」



 すると、そんな声と共に反対側の観客席の椅子が吹き飛んでいく。すぐに確認したいエルリカだが、周囲の覆面の対処に追われて視線を移せない。


 (いったい向こうで何が起こってるの!?)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 同時刻。


 「うおぁぁぁぁぁ!?」


 吹き飛ばされる身体。殴っている側が吹き飛ぶという奇妙な光景が、すでに8回は起きている。


 『黄昏トワイライト』No.5、カイルは背中から勢いよく観客席に突っ込んだ。


 「ん? あ〜あの騎士制服、ルーライトの隊員さん♪

  どおりで向こうの襲撃がうまくいかないわけだ〜」


 ゴートゥーヘル最高幹部『深淵』(アビス)第三席、クロエ・メルは自身の黒髪サイドテールをいじりながらニタリと笑う。


 反対側の観客席を見ていて、カイルの方を見ていない。余裕の態度である。


 「ったくなんだあの女!? 何かしてるのか!?」


 カイルは立ち上がりながら驚きの声を出す。しかし顔は、笑っている。


 「なんで笑ってるんですか気持ち悪いですよ〜?

  ウチには勝てないと言ってますよね?」


 それに気づいたクロエは嫌そうな顔を浮かべ、「うへぇ」と舌を出していた。


 「だからそれは俺を倒してから言えやっ!!」


 カイルは両足で床を蹴って剛速でクロエに迫る。


 だがクロエは見えていないのか、それとも見えていて避ける気が無いのか。その場から一歩も動かない。


 カイルの左拳がクロエの鳩尾に命中する。


 (まただっ。当たってるのになんか()()()()()()!!)


 「んぇ〜♪」


 カイルがそう感じた瞬間、クロエは舌を出してウインクしていた。


 カイルはまるで跳ね返されたかの如く後方に吹き飛ばされる。彼の背中が観客席の椅子を破壊していく。


 「なんなんだいったい!?」


 そう言って起き上がったカイルだが、奇妙な光景を見る。


 「おっと〜」


 周囲の椅子の破壊により、飛んできた破片をクロエは一歩下がって避けていた。


 (まさか、俺のパンチより破片の方が危険ってか!?

  なめやがって!! 俺の方が絶対強えだろ!?)


 痺れを切らしたカイルはまたも突進し、クロエに攻撃を仕掛ける。


 「ぬお!?」


 だがクロエの直前にあった壊れた椅子に足が引っかかり、前のめりに身体が浮く。


 「っ!」


 クロエはその場から離れてカイルの突進を避ける。カイルは勢いが止まらず今度は胸から観客席の椅子に激突。椅子は完膚なきまでに破壊された。


 だが、カイルはこれまでと違う笑みを浮かべていた。


 (ーーーあっ、そういうことか!

  なるほどな、今のでわかったぜ!!)


 そして確かめるべく、クロエに突進するのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 競技場、観客席。


 オリバーは混乱に乗じて人目が少ない最後尾座席にまで移動し、背中に背負っていたスナイパーライフル(エルジュが生産している特注品)にサイレンサー(特注品)を付け、構える。


 そして片目に【血液凝固】を発動し、遠くを見渡す。


 (これは僕の失態‥‥‥まさか舞踏会のあの子が

  覆面を束ねるゴートゥーヘルの幹部だったとは!

  それもカイルが苦戦するなんて、かなりの強敵。

  今から援護射撃できますが、後で怒られますし‥‥‥

  他には、!? あれは!?)


 オリバーは異変を察知し照準を合わせ、そこに狙いを定める。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 競技場、ステージ上の舞台。


 「さあ話しなさい。お前たちが何者か」


 ゴートゥーヘル最高幹部『深淵アビス』第一席、ノエル・アヴァンスがミストの首を掴んで持ち上げる。


 ミストは手も足も出なかった。暗殺術はことごとく見切られ、弓を使う暇もなかった。


 かんざしもノエルに当たる前に地面に落ちた。それに戦闘中、ミストは自身の身体が急に重くなった。謎の魔法に対処できなかったのだ。


 しかし今の状況でミストは全く叫ばない。


 「は、話しません!!

  ていうかさっき話す時間はないってーーー」


 「黙りなさい」


 ノエルが逆の手でナイフを構えた瞬間、背後に銃弾が迫る。


 しかし、銃弾はノエルに当たる前に突然垂直落下し、地面と共に陥没する。


 「良い腕ね、厄介だわ」


 ノエルは淡々と述べるとナイフを、ミストの腹に突き立てた。


 「うッ‥‥‥」


 内部に侵入する刃物を感じた直後、刺さった箇所から血が溢れ出す。ノエルの右手がナイフと共に真っ赤に染まる。



 ノエルは敵に情けや情など微塵も持っていない。持っていれば犯罪組織の最高幹部、それも第一席に座ることなどできはしない。



 「ッ‥‥‥」


 ミストは声を上げずに、ただ口から血を垂らすだけ。滴り落ちた血がノエルの額にポツリと落ちる。


 「なぜ私たちの邪魔をするか。レスタとは誰か。

  話せることは全て話せ。喋れなくなる前に」


 だがノエルは血を拭き取ることなくただ口を開くだけ。


 「痛みは、慣れてますっ。日常、ですからっ。

  痛みに負ければ、私は私でいられなくなるっ」



 ミストにとって暗殺者は、命よりも重い誇り。その心構えを捨てるのは我慢ならない。



 「死ねば元も子もないでしょ、くだらない」


 「死んだ方が、マシですッッ」


 「ーーーなら死んで後悔なさい」


 「っあああぁぁぁ!!!」


 ノエルが何の躊躇もなく、右手のナイフを左右にぐりぐりと回す。


 あまりの激痛に、ミストはたまらず声を出した。


 腹から血が滲み出る。溢れる。ナイフの柄にまで染み込んだ血が、ポタポタと地面に落ちる。咳き込みながら口から吐血する。周囲が赤く染まる。吹き出した血でノエルの赤髪がさらに紅くなる。


 「ミストっ!!」


 はるか遠くにいたオリバーがその光景にたまらず声を上げて走り出す。


 「お、オリバーッ!!

  この人に、近づくのは危険ですッ‥‥‥!!」


 すかさずミストは相手の異質さを忠告し、オリバーが巻き込まれないように抵抗を試みる。


 だがオリバーは止まる気配がない。どんどん距離を縮めていく。


 ノエルは横目でそれを確認し、近づくオリバーもさっさと始末しようと判断する。



            「うるさいー」



 突如、近くから聞こえた声。迫力は全くなかったはずなのに、ノエルは危険を察知した。


 ノエルがミストから距離を取ると、ミストの真下から水の柱が出現する。



          「わゔあぷばぁあぶ」



 ミストは水の中でもがき、びしょ濡れになる。だが水の柱が破裂すると同時にナイフが地面に転がっており、脇腹の出血が止まっていた。


 「‥‥‥普段まったく働かないくせに、

  いざって時は頼りになる。はあ、憎いですね」


 オリバーは走りながら、安心した様子で笑う。そして思わず愚痴を漏らしていた。



        「あ、アクアぁぁぁぁ!!!」



 ミストの隣には、アクアが立っていた。相変わらず眠そうだが、機嫌が悪そうな表情を浮かべている。ミストが泣き始め、アクアの足にしがみつく。


 「うるさい。そのうるさい声が睡眠妨害」


 「さすがに今回は私は悪くないデスゥ!!!!

  あの人のせいなんですからぁぁぉ!!」


 「ふ〜ん。おいそこのお前ー」


 アクアは右手でノエルを指差す。睨みながら(機嫌が悪いため)口を開く。



  「あーしのパシリを殺すな。死んだらめんどくさい」



       「パシリじゃないぃぃぃ!!?」



 はたから見れば、今のアクアの表情とポーズはカッコよかったはずなのだ。台詞を除けば。


 ノエルは油断しているつもりはない。しかし、今回ばかりは少し動揺した。



       (何言ってるのこいつら‥‥‥)



 気づけばジト目を向けていたノエル。わざとらしく咳をした後、動揺を掻き消す。



    「ーーー邪魔するなら、お前も消すわよ」



          「ミスト、邪魔」



       「は、はいいぃぃぃ!!!?」



      『黄昏』No.4、『水禍』アクア


             VS


     『深淵』第一席、ノエル・アヴァンス。



 その開幕を告げるかのように、2人の周囲で水が弾け飛んだ。

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