幕間 『使徒』シャルロット・リーゼロッテの来訪
『使徒』シャルロット・リーゼロッテ。
約10年ほど前、魔王を倒したとされる伝説的パーティの1人であり、種族は天使。
長くて絹のように美しい髪に、透き通った肌、天使の名に恥じないどころか女神と言われても過言ではないほどの美貌を持つ。
まるで女神の遣い。もしくは女神の生まれ変わりとして世界に平和をもたらすために召喚されたという逸話が広がり、『使徒』という二つ名で称されるようになった。
そんな彼女が、当然周囲に目立たないわけがなく。
時は少し遡り、本編から5日前の朝。
(ここは‥‥‥たしかグロッサ王国。
魔王を討伐して以来だから、え〜と‥‥‥何年だっけ)
グロッサ王国内、王都北地区。
シャルロット・リーゼロッテは偶然にも、魔闘祭の当日に王国内へ足を運んでいた。
彼女が、ここにきた理由はーーー。
(偶然ここに来れたんだし、久しぶりに
アリスとグラリオサに会いたい。話したいなあ)
‥‥‥という、全くの偶然でやって来た。そして偶然舞い降りた再会の機会に、シャルロットは何年も会っていない2人に思いを馳せる。
アリスティア・ルーライト、グラリオサ・バイオレット。
どちらも魔王討伐の際の仲間で、パーティーメンバーとして冒険していた。
天使という種族は長命であり、何事においても少しずつ無頓着になっていく。
そんなシャルロットにとって、2人は今もはっきり記憶に残っている大切な存在だった。
それに異質な空気感と存在感から、周囲と合わなかったシャルロットにできた初めての友達でもある。
シャルロットは、2人のことを忘れることはないだろう。
(街並み、ずいぶん変わってる)
シャルロットは、王都を歩いていくうちにそんな感想が浮かんでいた。前に来たのは約8年ほど前。当然変化はある。
(王都なのに人が少ない‥‥‥何かあったの)
シャルロットはそんな疑問が浮かんでいた。
答えは『出場する学生を含め、多くの国民が魔闘祭に足を運んでいるため』だが、彼女が知るわけがない。
そして彼女の疑問は、すぐに別のものへと変わることになる。
(? なんか見られてる‥‥‥)
シャルロットは首を傾げる。すれ違う人たちが全員自分の方をガン見しながら過ぎ去っていくからだ。それどころか立ち止まって遠目から指を指している人もいた。
芸術品であるかのような美しすぎる長い金髪。誰もが見惚れてしまうほどの美しい顔立ち。そして天使の証である、背中の白い翼。
彼女の服装は純白のローブに丈の長い白パンツ、踝ほどの茶色いウエスタンブーツ(ローブは翼を外に出すための穴が空いてる特注品でお気に入り)というシンプルな物だったが、だからこそ彼女の美しさが際立っていた。
ちなみに、シャルロットは服のセンスが絶望的に悪く、今着ている服のコーデはかつての仲間、グラリオサに教えてもらったのである。
それを服に無頓着なシャルロットは鵜呑みにし、同じ服を何十着も自分の荷物入れ【異空間】につっこんでいる。
「ねえ、聞きたいことがある」
「は、はいっ!? なんでしょうか!?
天使様の頼みであれば何なりと!!!」
シャルロットが近くの女性に話しかけると、女性は頭を下げながら丁寧な口調で応えた。
相手の反応にシャルロットは首を傾げながらも聞きたいことを聞く。
「なぜかみんな私を見てくるけど、
どこを見られてる? 髪、それとも服?
私そういうの意識できないから、変なら教えて」
「と、とんでもありませんっ!!
まるで女神様のように美しくございます!」
「? 何いってるの?」
相手の称賛の意味が分からず、シャルロットは怪訝そうに目を細める。
「あ、あのっ!! そこのお方〜!!!」
すると、遠くから1人の女性が走ってくるのが見えた。髪型はカールのついた茶髪のショートカットで、大人びた女性。服は白と黄色を貴重とした騎士制服。
周囲のひとは即座に誰であるか理解して騒ぎ始める。王国内でもかなり有名な女性だった。
(? この国の騎士? 私を一心に見つめて
必死に走ってくる。私、何かしたのかな‥‥‥)
シャルロットは、ただ自分が連行される要因を考え込んでいた。そんな間にも、騎士と思わしき茶髪の女性と対峙した。
「す、すいません! 少しだけ時間いいですか?
私は王国軍所属、『ルーライト』隊員の
エルリカ・アルリフォンと申しますっ!!」
(((それはみんなが知ってるよ‥‥‥)))
周囲にいた国民の、誰もが心の中で感じていた。だが、例外は目の前に存在する。
「るーらいと? ‥‥‥あ。それってアリスのこと?」
(((知らない!!!???)))
首を傾げながらつぶやくシャルロットに、国民たちは口を開いて唖然としていた。
エルリカも驚きのあまり目を見開いている。その理由は国民とは違ったが。
「その呼び方っ‥‥‥やはりあなたは‥‥‥!!
アリスティア総隊長のご友人で魔王を討伐された
伝説のお一人、『使徒』様ですか!?」
エルリカは感極まって少し目を潤わせながら、嬉しそうに頭を下げた。
「? しと? 私、シャルロットだけど」
本気でそんな返事をする彼女に、もはや国民は『会話の根本が違う。別次元のお方だ‥‥‥』と戦慄するのみだった。
ちなみに、真実はシャルロットが度の過ぎた、ただの天然なだけである。
「やはり!! 先ほど警備兵からあなた様が
来訪されたと報告がありまして!
ぜひ、どうか王城にいらしてください‥‥‥!!」
伝説補正が付与されているのか、シャルロットが変な発言をしてもエルリカは気にせず、懸命に頭を下げる。対してシャルロットはなぜ頭を下げられているのか分からなかった。
「君ってアリスの知り合い?」
「は、はいっ!! 最後に話したのは数年前ですが、
『久遠』アリスティア総隊長が率いる最強部隊
『ルーライト』に所属してからは私の上司でした!」
「それなら城に行くついでに教えて。アリスのこと」
「!!! 身に余る光栄っ!! ぜひ!!」
エルリカは顔を真っ赤にして、シャルロットの隣を歩き始める。そして城に着くまでの間、アリスティア・ルーライトの話をエルリカに聞いた。
だが彼女の話を聞いたシャルロットは少し違和感を感じていた。
それは、最近のアリスティアについての話が全く出てこないこと。
彼女の話の中で、最も現在から時間的に近いのは約3年前だった。それより現在に至る話が出てこない。
そして城に着く直前。
「アリスは今、どこにいるの?」
少し気になったシャルロットが質問すると。
「‥‥‥遠くで、待っていると思います」
エルリカは一瞬息が止まる。そして顔を下げ、小さく呟いた。
シャルロットはもっと詳しく聞きたかったが、城に到着したことで話が出来なくなり、玉座まで案内されるのだった。
その後、グロッサ国王ダニエル・グロッサと話をし、ぜひ魔闘祭に来ていただきたいと招待された。
彼の子どもたちで王子のルーク、王女のステラとユリアはすでに競技場にいると知る。とはいってもシャルロットは王族の彼らなど別に興味ない。
ただ魔闘祭については以前、アリスティアとグラリオサから話を聞いていたので興味があった。
せっかくだし見ていこうということで、飛び入りで競技場にVIP席を追加で1席用意されることになった。
ただの興味本位で魔闘祭を観ることになったシャルロット。
だがそこで彼女はアリスティア・ルーライトの死亡、しかも原因はグラリオサ・バイオレットだと知ることになる。
そして彼女にとって新たな一歩を踏み出すきっかけとなるのである。