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『エリア・ペネトレイト』1年の部 決勝戦 Dクラス VS Aクラス 決着

 アイトたちが立てた決勝戦での作戦はこうだった。


 まずアイト、ギルバートの2人が敵の前衛の実力を測る。


 だがシスティア相手はかなり厳しいので時間稼ぎができるかという条件に留まる。それでクラリッサの杖術で対応できると判断したら一目散に相手陣へと向かう。


 次に中衛のポーラは敢えて気づいていないフリをして前衛の敵を見逃し、中間地点を敵に見られていない状況を作り出す。


 その後は前衛のアイトたちと合流する。もし敵が攻撃してきたら後衛のクラリッサと合流。そしてどちらかに合流した瞬間、敵の背後からアイトの【ノア・ウィンド】を放つ。


 後衛のクラリッサは前衛3人のうち、最低でも1人倒す。結果的に2人落としたクラリッサの杖術は見事という他ない。


 土魔法を使うジェイクがいる限り、危険を冒さなければ数的不利は変わらない。アイトたちはクラリッサの杖術、ポーラの『共鳴』に勝利を賭けたのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 (なんて魔法の威力。しかも複数属性の同時発動。

  これを、アイトくんが作ったの‥‥‥?)


 ポーラはハッとする。今は試合中だったことを忘れていた。


 「アイトくん!! ギルバートくん!!」


 ポーラが倒れた2人の元へ駆け寄る。


 「だ、大丈夫‥‥‥」


 手で側頭部を押さえながら、アイトが微かに声を漏らす。


 ギルバートは意識を失っていたが、アイトはなんとか意識を保っていた。自分が作った魔法だから原理を理解しているため、対応方法もわかっていた。


 咄嗟に耳に低練度の音魔法をあらかじめ発動させておくことで【ノア・ウィンド】の爆音への耐性、心構えを付けたのだ。


 「でも、動くのはきついかも‥‥‥ポーラ?」


 突然肩を貸してくるポーラに驚くアイト。ゆっくりとだが、円の近くへと歩みを進める。


 「まだ試合中です! クラリッサが必死に自陣を

  守ってくれています! 早く円の中に!」


 後衛のクラリッサの様子がわからない以上、一刻も早く勝利すべきだとポーラは考えたのだ。


 「ごめんね!」


 そう言ったポーラはアイトの腕を掴んで、その手を円の中に入れる。これでアイトは円の中に入ったことになる。


 これで後は同じようにギルバートを円の中に入れて、ポーラ自身が入ればDクラスの勝利となる。


 「!? お、重いっっ!!?」


 すぐにポーラはギルバートの元へ駆け寄り、肩を貸して持ち上げようとするが全く動かない。


 ポーラの腕力は女子の平均とほとんど変わらない。意識があるアイトはともかく、体格がアイトより大きい上に意識がないギルバートを運ぶのは至難の業だった。


 「動いて! 動いてよぉ〜〜!!!」


 円に入ったアイトはもう何もできない以上、ギルバートはポーラだけで動かすしかない。


 運ぶのは無理だと判断したポーラはギルバートの両脇に手を入れ、後ろへ自分の体重をかけて引っ張り出す。少しずつだがギルバートの体が地面をすりながら動き始めた。



       (はやくっ!! はやくっ!!!)



 ポーラは我を忘れていた。足は土まみれ、額から汗が滝のように流れ身体が熱い。


 そんな彼女の心にはーーーみんなと勝ちたいという気持ちが溢れ出ていた。


 (みんな動けないほど必死に戦ったんだ!

  それにクラリッサは今もあの3人を相手に

  たった1人でがんばってるんだ!!

  私だけがまだ何も出来ていない!!

  今、勝ちたい!! これで勝てなかったら

  私はみんなといる資格なんてない!

  これからも一緒にいたい!!

  こんなにすごいみんなと、ずっと友達でいたい!!

  大好きなみんなと、絶対離れたくないっっ!!!)



      「ゔぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」



       ポーラは無我夢中で引っ張った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 Dクラス後衛地点、円周辺。


 「はあっ、はあっ、はあっ」


 杖を支えにして立ち上がったクラリッサは後悔していた。さっきの不意打ちで真っ先にシスティアを仕留めるべきだったと。


 いや、不意打ちでも仕留められたか分からない。そう思うほどシスティアの実力はズバ抜けていた。


 「まさかここまで動けるなんてね。どこでそんな力を」


 「バカな幼馴染の、受け売りよっ‥‥‥」


 不思議そうに声を漏らすシスティアに、クラリッサは不満そうな声で答える。


 「バカ幼馴染?

  よくわからないけど、そろそろ限界ね」


 「はあっ? まだまだ動けるしっ」


 クラリッサはそう言うが杖に体重を預けている。悟られないように虚勢を張っているだけ。システィアも当然そのことに気づいていた。


 「‥‥‥それじゃあ頑張ってもらおうかしらっ!」


 システィアはクラリッサが倒した、今も気絶しているAクラスの2人、サージとモルチを蹴飛ばす。


 「なにを‥‥‥!?」


 突然の行動にクラリッサは動くことができなかった。


 蹴飛ばされた2人はDクラスの円の中に収まる。


 「私が入ればAクラスの勝ち。もう後がないわね」


 そう言ったシスティアは楽しそうに笑っていた。


 だが、クラリッサも対抗するように不敵な笑みを浮かべる。


 「後が無いのはどっちかしら?

  私以外の3人がAクラスの円に向かってる。

  言っとくけど、あいつらは強いわよ」


 「愚問ね。ヴァルダンくんの土魔法で

  今頃、お前の仲間たちは返り討ちにあってる。

  誰もお前を助けてくれると思わないことね?」


 そう言って微笑んだシスティアが瞬きをした瞬間。


 「ーーー聞こえてなかったの?

  私、あいつらは強いって言ったの」


 至近距離に飛び込んできたクラリッサが剛速で杖を振り、システィアの肩に直撃した。


 攻撃の余波で数歩後退したシスティアは、嬉しそうに笑っていた。


 「っ! 面白いわねぇ?

  煽ったら煽るだけ馬鹿力を発揮するのかしら?」


 「‥‥‥この女っ!! 腐ってる!! 性格が!」


 痺れを切らしたクラリッサは杖を回し始める。自分とは根本的に性格が合わない、自分が大嫌いな女だと確信し、ある感情が湧き上がる。


     『この女、ぜったいブチのめす』と。



     「見せてやるわよ!! でもーーー」



            「!?」



        システィアは目を見開いた。



      「あんたには見えないけどね!!!」



         ーーー杖が、消えたのだ。



 システィアは一瞬、自分の目がおかしくなったのかと硬直した。


 「はあっ!!」


 クラリッサが動けない彼女に接近して右手を振り下ろす。


 「うっ!」


 するとクラリッサの攻撃がシスティアの脇腹に直撃する。


 だが、クラリッサが振り下ろした右手にはいっさい当たっていない。


 (今のは間違いなく杖の感触‥‥‥! まさか!)


 「だから言ったでしょ!! 見えないって!!!」


 クラリッサは手を動かし、縦横無尽に手に持ったものを振り続ける。



           【幻影の杖(ファントム・ワンド)】。



 幻影魔法を杖自体にかけ、さらに目にも止まらぬ速さで振り続けることで相手から杖を見えなくするクラリッサにとっての切り札。


 この技はクラリッサの長い杖が見えなくなることで間合いの管理が難しくなり、注意も散漫になるという利点がある。


 だが幻影魔法を常にかけ続けながらクラリッサ本人の扱う練度の高い水準で杖を振り続けることは凄まじい集中力を要する。


 そのうえ今はアイトたちの様子、戦況が分からず不安が募っている。その状態で【幻影の杖(ファントム・ワンド)】を使うことは、精神にさらなる負荷がかかる。


 それに技の都合上、常に杖を振り続けないと相手に見えてしまう。


 だが後がないクラリッサは、この切り札を使うことを決心したのだ。精神摩耗で身体に拒絶反応が出る前に倒すと。


     (はやくっ!! はやく倒れろッ!!)


 クラリッサは連撃を行う。システィアは見えない杖にまだ対応が追いつかず、全ての攻撃が命中する。だが、彼女はまだ倒れない。


 「はあ!!!」


 クラリッサが手を交差させた後、右手を振り下ろす。


 システィアは剣を斜めに構えて防御に回る。


 だが、クラリッサの右手がシスティアの前で通過しただけだった。


 「っ! まさかっ」


 驚いた声を出すシスティアのこめかみに、()()に待った見えない杖の横薙ぎが直撃する。


 「ぐっ‥‥‥!」


 「フェイクよ!!」


 「意地の悪い女ねっ‥‥‥」


 (あんただけには言われたくないわっ!!)


 クラリッサは、攻撃を続ける。杖の動きに少しずつ対応してきたシスティアだが、まだ杖の攻撃は入り続ける。


 (倒す、押せ、さっさと倒れろ、はやく倒れろっ!!)


 クラリッサは歯を食い縛りながら、必死に、必死に杖を振り回す。


 杖を持つ手を適度に変えつつフェイントも織り交ぜ、大胆に、丁寧に、着実に攻撃を命中させる。彼女の身体能力と精神の強さ、そして度胸があるからこその業だった。


 だが、システィアはまだ倒れない。


 (たおれておねがいたおせはやくしねおしきれっ!!)



 クラリッサは思考がグチャグチャになっていた。ゴリゴリと精神が削れ、磨耗していく音が頭の中で鳴り響いていると錯覚するほどだった。


     「きえろしねおちろ、たおれろぉぉぉ!!」


 クラリッサは自分でも何を言っているか分からない状態で、無我夢中で願いながら必死に杖を振り続けていた。


 「ぐっ‥‥‥」


 薙ぎ払いを受けたシスティアが数歩後ろに下がった後によろめき、片膝をつく。


  (よしついたもうすこしあとすこしでたおせ!!)


       その様子を見たクラリッサは。



        杖が手からすっぽ抜けた。


           「あれっ?」


 彼女の手から離れた杖が自身の視界を通り過ぎて行く。


 そして杖が地面に落ちる。だが音は聞こえていない。


 何かがおかしいと思った瞬間、彼女の視界には土が広がっていた。


 「‥‥‥危なかった。初めて同級生に負ける所だったわ。

  これがDクラス? どこを判断して選んだのよ」


 (どうなってるのしかいおかしいかってたのになんで)


 システィアの独り言を、クラリッサは全く聞いていなかった。というより聞くことができなかった。


 精神の負荷が限界に達し、身体に拒絶反応が否応なしに現れた。


 「‥‥‥何かしようという気も起きないわね。

  でもお前の名ははっきり覚えたわ、クラリッサ」


 システィアは隙だらけのクラリッサに何もせず、歩いて横を通り抜ける。その後ろにはDクラスの円がある。



     『そこまで! 優勝、Dクラス!!』



 円の中に入る前に、魔結晶から審判の声が聞こえた。

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