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『エリア・ペネトレイト』1年の部 決勝戦 Dクラス VS Aクラス 打開

  Dクラス中衛地点。


 「はぁ、はぁ、はぁ」


 ポーラは息を切らしながら森の中を走っていた。走る速度はお世辞にも速いとは言えなかった。


 だが、彼女にそんなことを気にする時間はなかった。というより、もう気にしていなかった。


 (早く、早く着かないと!)


 手のひらを強く握り締め、ポーラは森の中を必死に駆け抜けて行く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  Dクラス後衛地点、円周辺。


 円を守るのは、クラリッサ・リーセルだった。


 「すぅ〜‥‥‥はぁ〜」


 長い杖を両手で掴んで地面に座っている。両目を瞑って深呼吸を繰り返していた。


 円周辺は静寂に包まれており、風で木が揺れる音が耳に残る。鳥のさえずりもどこからか聞こえてくる。


 そんな自然を感じられる音を遮るかのように、草木を踏み鳴らす音が耳に入り込む。


 「ーーー来た!」


 クラリッサは立ち上がって杖を構える。



 囲まれた木々の中から、システィア・ソードディアスが駆け抜けて現れる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  Aクラス後衛地点、円周辺。


 体勢を立て直して地面にしゃがみ込んだアイトと、倒れた姿勢から片膝をついてから立ち上がるギルバート。


 そんな2人と対峙しているジェイクは油断せずに出方を伺っていた。


 (これじゃあ埒が開かない!)


 アイトは剣を地面に突き刺して立ち上がる。


 「おいアイト」


 すると近くに来たギルバートに小声で話しかけられた。


 「オレたちの切り札はーーー2つだったよな?」


 「ああ、ギルバートがそう言ったんだろ」


 「まだあるだろ」


 「? 何が言いたいんだよ?」


 横目でアイトが問いかけると、ギルバートが真剣な眼差しで口を開く。


 「‥‥‥お前ならジェイクとあの土人形に勝てるか?」


 「それは、()()でってことか?」


 「ああ、()()()()()()()()()()()()()()()


 誰にも見られていない状況でジェイクと土人形を倒せるか。アイトの答えは一つだった。



        「‥‥‥負ける理由がないな」



 一切茶化さずに淡々と宣言したアイトに、ギルバートは嬉しそうに笑う。


 「へへっ。やっぱお前はすごい奴だ。

  その言葉に嘘がないってはっきりわかる。

  だからオレも言う。オレはたぶん勝てない」


 「だから、いったい何が言いたいんだよ?」


 ギルバートは大剣を両手で握り締めて、ニカッと笑った。


 「オレは今から自分の切り札を使う。

  そしてお前に託す。安心しろ、目立つのはオレだ」


 「! まさかーーー」


 「オレたち、全員が切り札ってことだっ!!」


 ギルバートが大剣を振り回した後にズシリと構える。その後に続くのは、大きな声。



     「うおぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



 気迫のこもった声と共に、ギルバートは自身の全魔力を大剣に集め始める。


 「させるとでも?」


 当然それを見逃さないジェイクが土人形2体でギルバートを狙う。


 「ぐっ‥‥‥!!!」


 するとアイトがギルバートの前に割り込み、土人形2体の攻撃を剣を横にして受ける。


 「アイト!!」


 「勝手に託されても困るんだよ!!

  そんなこと言われたら勝つしかないだろ!」


 「おう!! 勝つぞ!!」


 ギルバートは再度ニカっと笑う。


 そして大剣に全魔力を集中させたギルバートは魔法を発動し、大きく跳躍する。発動した魔法は振動魔法。


 大剣にヒビが入るくらいの大きな振動。ジェイクはそれを察知して距離を取る。



          「【大破壊】!!!」



            「っ!?」



 ギルバートが狙ったのは、真下の地面。ジェイクは意味がわからず、思わず動揺した声を漏らす。


 地面が大きく揺れ、破裂する。そしてその破裂に比例した粉塵が空を舞う。そのことで、周りがほとんど見えなくなる。


 「へへ‥‥‥頼んだ‥‥‥」


 ギルバートは着地の直後に膝が曲がりその場に倒れて、動かなくなった。


 そして競技場の画面で、Aクラスの円周辺の光景だけが粉塵で見えなくなった。


 (まさかあんな大技を目眩し目的で使うとは!!

  だが、そんなことしていったい何が狙いーーー)



          グシャッ。



    突然、1体の土人形が操作不能になる。



          グシャッ。



    そして2体目も同様に操作ができない。



 (まさか壊された!!? ありえない!!

  鉄製武器で殴られてもびくともしない強度だぞ!?

  それを全壊なんて、1年生ができる芸当じゃない!!

  もしかすれば、『ルーライト』の隊員にさえーーー)


            「!?」


    背後に感じた気配に恐怖し咄嗟に盾で庇う。



           ーーーーソード



      ジェイクにはそう聞こえた気がした。



           「うぐっ!?」



     そして、ジェイクの両盾は粉々になった。



      (くそっ、間に合わない‥‥‥!!!)



   だが、盾を破壊したアイトは歯を噛み締めていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 Dクラス後衛地点、円周辺。


 「‥‥‥来た!」


 クラリッサは身構える。


 真っ先に視界に入ったのは駆け抜けてきたシスティアだった。


 「1人ね。さっさと終わらせるわよ」


 システィアが走る速度を上げ、クラリッサに迫る。


 「危なっ!」


 システィアの突きをクラリッサはかろうじて避ける。


 「! 今のを避けた‥‥‥」


 躱されたことに少し驚いたシスティアだが、すぐにAクラスの追撃がクラリッサを襲う。


 「【ウィンド】!」


 「っ! きゃあっ!」


 クラリッサはモルチによる風魔法の突風をまともに受け、吹き飛ぶ。


 「うっ、‥‥‥」


 彼女は近くの木に背中からぶつかり、動かなくなった。Dクラスの円は目の前にあり、もう何も阻むものはない。


 「おいおい、もう終わったのかよ」


 「やっぱり所詮Dクラスだな」


 「‥‥‥早く入るわよ」


 システィアはそう口にしながらも、どこか腑に落ちない点があった。


 (あまりに順調に事が進みすぎてる。

  私たちを無視するなら前衛の2人はなんで

  最初は抵抗してきたの? 何かを探っていた?

  それに無視した中衛は今、どこにーーー)


 「うごっ!!!」


 突如、サージが間の抜けた声を上げて吹き飛び、地面に倒れて気絶した。彼を倒したのは、杖を持った少女。


 「な!? お前、いったい何をーーー」


 モルチがそう口にする間に少女は杖を目にも止まらない速さで振り回す。


 「うごぉぁ!?」


 合計10箇所に杖の乱打を叩き込まれたモルチは絶叫して倒れた。



 「‥‥‥そういうことね」


 「か弱い女の子に3人がかりのあんたたちが悪い」



    クラリッサは杖を持ち直してそう言った。


 アイトたちにとっての1つ目の切り札が、ついに切られる。



        それは『クラリッサの杖術』。



 前に見たのは6月の『ギルド合同、魔物討伐体験』の時であり、それ以外の場面では誰にも見せていなかった。


 クラリッサは元々の身体能力がずば抜けて高い。これまでの学校生活や、実際に『クラッシュボール』でもその片鱗は見せていた。


 杖は魔法の補助のための道具。それに加え後衛で待ち構えた少女。まさか杖で物理攻撃をするとは誰も予想できなかっただろう。アイトたちDクラスの3人を除いて。


 クラリッサは見事にAクラスの2人を討ち取った。


 「さあ、これで一騎討ちよ。本気で行くわ」


 「‥‥‥まさかDクラスにこんな奴がいたなんて」


 高らかに笑ったシスティアがーーーその場から消えた。


 「うぐっ!!?」


 クラリッサは杖に伝わる衝撃を抑えきれず、足を地面に押し込んで後方へ数メートル引きずらせる。


 やがて勢いが収まると、自分の靴底が地面を抉っていた。茶色の地面が自分に向かって4足分伸びている。


 (速っ!? ほとんど見えなかった!!)


 クラリッサが額から汗を流して正面を見るとシスティアが剣を構え直していた。


 「杖を斜めに構えて防いでくるとは、正直驚いたわ。

  相当な反射神経ね。お前、名前は?」


 「‥‥‥クラリッサ・リーセル」


 「クラリッサ。ようやく私はこの競技を楽しめそうよ。

  私にとって凄く良い経験になるわ、だってーーー」


 システィアは僅かに、笑っていた。対してクラリッサは冷や汗を流して杖を振り回して構え直す。


 システィアは、嬉々とした表情で猛然と突っ込んでいく。


 「ーーー物理杖なんて初めてだものっ!」


 「あんた絶対性格悪いでしょ!?」


 クラリッサの杖術とシスティアの剣術、各々の武器が音を立ててぶつかり合う。



 2人の対戦は観客席はルークVSマリア以来の大盛り上がりを見せていた。

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