『エリア・ペネトレイト』1年の部 決勝戦 Dクラス VS Aクラス 開始
『試合開始!!』
審判の声と共に1年の部、決勝戦が始まる。盛り上がりは最高潮だった。
アイト、ギルバートの2人が敵陣に走る。
今回の隊形は前衛がアイトとギルバート、中衛がポーラ、後衛がクラリッサ。今回、クラリッサは杖を持っているため移動が遅くなるという理由から後衛となった。
前衛2、中衛1、後衛1は準決勝で戦った1年Bクラスと同じ布陣である。
「! おい、アイト」
「やっぱり向こうの布陣はこれまでと変わらずか」
アイトとギルバートは自陣と敵陣を結ぶ中間地点で、Aクラスの3人と鉢合わせた。相手は男子2人と女子1人。
「アイト、どうするよ」
「向こうの出方次第かな」
淡々と返事したアイトは相手の3人を見つめていた。特に視線を合わせたのは、1年Aクラスの紅一点。
(システィア・ソードディアス‥‥‥)
するとAクラス男子、モルチ・ラマが嘲笑を浮かべながら口を開いた。
「おいおい、そんなんで決勝の相手が務まるかぁ?
所詮実力で劣るDクラスってわけだ」
モルチはいかにもな口調で挑発を始めた。
「なに!?」
「ギルバート、安い挑発だ」
アイトは大剣を構えて怒るギルバートの肩に手を置き、冷静になるよう促す。
「で、でもよっ!」
そう言いつつもギルバートは納得のいかない様子で大剣から手を離した。
「これ以上何か言うと私が斬るわよ?」
「ひっ」
するとシスティア・ソードディアスが仲間のモルチを睨みつけた。
モルチは萎縮し何も言わなくなる。だがもう一人のAクラス男子、サージ・ヒトラが挑発を続ける。
「さっすが『迅雷』マリア先輩の弟なだけあるな。
そのコネでユリア様やシロア・クロート先輩で
飽き足らず、他にもいい思いしてるわけか。
実力が伴っていないのになあーーーうっ!?」
サージが突然苦しげな声を出す。突然距離を詰めてきたギルバートの大剣を必死に剣で押し留め始めたからだ。
「ぐっ‥‥‥!!」
「それ以上言ってみろ。後悔させてやる」
「っ! 調子に、乗るな!!」
ギルバートの言葉に青筋を立てたのか、サージは怒りの声を上げて大剣を押し返す。
「力はあるけど隙だらけね」
「うおっ!!」
力の押し合いにシスティアが割り込んでギルバートの脇腹を蹴飛ばす。吹き飛ばされたギルバートは木に激突した。アイトはそんな場面を見ながら何も動かない。
(男子2人は口だけで大したことなさそうだが、
システィアさんは躊躇なく隙を突いてきた。
やっぱり一筋縄ではいかないな、注意しないと)
「おいおい、ビビって体が動かないか??」
アイトが分析していると、モルチはまたも挑発を再開する。
「‥‥‥まだ?」
モルチに対して、アイトは心底興味なさそうに返事をする。
「なに??」
「時間ないから早くしてほしい。
立つのに疲れて本当に体が動かなくなりそう」
アイトにとってはかなり珍しく、挑発し返す。
普段は穏便な性格をしているが、それは波風を立てないため。
対して今は戦うことが決定している競技中。そんな状況で相手を罠にかけるために挑発が必要だとしたら?
そんな時、アイトは平気で挑発を行う。
それで実力を見せることなく勝利に繋がるためならどんな手だろうと行う。
要は、『自分がリスクを冒すことなく最善を尽くす』のがアイトにとっての最適解なのだ。
「ほら、そろそろ眠いって」
馬鹿にしている相手に挑発を返されたため、モルチは簡単に引っかかる。
「テメェ!!!」
モルチが声を荒げてアイトに迫る。そんなモルチの拳をアイトは余裕で躱して背中を押す。
「うがっ!!!」
モルチは正面から木に激突した。
「へえ?」
システィアは少し驚いた様子を見せて呟いていた。
(これがAクラス? 魔力はまあまあありそうだけど
動きが遅すぎる。人選ミスじゃないか?)
先ほどの挑発とは違い今回は馬鹿にしてるわけでもなく、アイトは本気でそう感じていた。
(これなら、あの作戦でいけるな)
そう判断したアイトはギルバートの方に手を置いた。
「ギルバート、行けるぞ」
「! よっしゃ!!」
ギルバートの元気な返事を聞いたアイトは右足を踏み込み、森の中を駆け出した。ギルバートも後に続く。
システィアたちを無視してそのままAクラスの円に向かって走り出したのだ。
「待てコラッ!!!」
「あのカスどもが!!!」
サージとモルチを無視してシスティアはDクラスの円へと歩き出す。
「いい加減にしてくれない? 邪魔よ。
これ以上恥を晒さないでくれない?」
冷たい口調で言い捨てたシスティアはアイトたちを追わずに逆方向へ、 Dクラスの円に向かって走りだす。
「‥‥‥わかったよ!!」
「っ、うっせえな!」
システィアの強さを知っている2人は文句を言いつつ、彼女の後を追いかけた。
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観客席。
「ねえエリス。Aクラス、人員ミスじゃない?
あの2人、どう見ても弱いと思うんだけど!」
「お兄ちゃんの計算され尽くした動き、カッコいい♡
しかもまだまだ本気じゃない、末恐ろしい〜♡」
競技場の画面は音量が出ないようになっているため、サージとモルチのアイトへの罵倒は聞こえていなかった。
もし聞こえていればミアが現地に乗り込んで2人を消していたところだった。
「くう〜! 面白えなこの競技!
あのフィールドで動き回りたいぜ!!」
「カイル、君が動いたら周りに被害が出そうですね」
「おうよ!」
「あ、はは」
オリバーはカイルの返答に苦笑いする。被害を出す前提なのと、まるで褒められたような反応が予想外だったからだ。
「喉乾いた、買ってきて」
「ひどいぃぃ!! 私も見てたいんですけどぉ!!
アクアって本当に人使い荒いぃぃぃ!!」
ミストは自身の持っている所持金を確認し始める。
「リーが、代わりに、買う。おしっこ、ついで」
「リゼッタ天使ィィィィ!!!」
リゼッタはニュッと立ち上がり、ミストはあまりの嬉しさに観客席から立ち上がらんとする。
「ミスト、うるさいわよ」
「ひゃい!?」
エリスの注意で涙目になり手で口を押さえるミストだった。
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Aクラス後衛地点、円周辺。
最短距離でやってきたアイト、ギルバートは足を止める。当然、円を守る相手が待ち構えているからだ。
「来たか」
そう言って木に座り込んでいたジェイクが立ち上がり、土魔法で2体の人形を作り出す。
「アイト・ディスローグとギルバート・カルス。
予想通り君たち2人で攻めて来たか」
「どんな予想を立てられてるか知らないが、
そんなのは気にしてられねえな!!」
「その通り」
「やるぞアイト!!」
アイトが鞘から剣を抜き、ギルバートが大剣を構える。
今までの試合、全て素手だったジェイクはーーー盾を両手に構えた。
「盾2つ持ち‥‥‥!? あんなの試合で見てないぞ!」
ギルバートの驚いた声がおかしかったのか、ジェイクは口角を上げる。
「当然だ。今使うのが初めてだからな。
Bクラスに勝った君たちに油断はしない」
【ダブル・シールド】。ジェイクが扱う盾術。名前の通り左右の手の2つの盾を扱う。
「かかってこい」
そんなジェイクの声が聞こえる前に、アイトたちは駆け出していた。
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「そろそろ中衛地点ね」
Aクラス、システィア・ソードディアスはDクラスの中衛地点に到着していた。
「おい、誰かいるぞ」
そう言ったのはサージ・ヒトラ。システィアが視線を向ける。
そこにはDクラス、ポーラ・ベルが怖がる様子で辺りを見渡していた。
「1人じゃないか。しかも何の役にも立ってない女。
さっさと始末しようぜ」
「スルーよ」
「な、なんでだよ!」
「彼女はまだ私たちに気づいてない。
わざわざ知らせる必要は無いわ。
さっさと円の中に入って終わらせるわよ」
ごもっともなことを言うシスティアだが、真意は別にあった。
(この2人はどうせあの子を罵倒する。
それで泣かれたりしたらこっちが
何かしたと疑われて最悪反則負けになりかねない。
なんでこんな意味不明なリスクを考えないと
いけないのよ。はぁ、本当に人選ミスだわ。
私の邪魔したらタダじゃおかないわよ)
口にしても意味がないため、システィアは先を急いだ。だがそんな彼女も1つ勘違いをしていることに気づかない。
ポーラは、3人が移動したことに気づいていたのだ。
(‥‥‥つまりアイトくんの作戦通りに進んでる。
それじゃあ、私は‥‥‥!!)
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Aクラスの後衛、円周辺。
「くそっ!! やっぱりキツイな!!!」
「まだまだ来るぞ!」
アイトたちはジェイクと土人形2人組に苦戦していた。
(操っているだけあって、連携が取れてる。
数的不利でこのままじゃジリ貧だ)
「ぐおっ!?」
土人形の攻撃をギルバートは大剣で防御した途端、背後からもう一体の人形による蹴りが直撃する。
「っ!?」
その隙にアイトがジェイク本人を狙うも両手の盾で剣を捌かれる。
「がっ!?」
そして加勢に入った土人形に体当たりされて、アイトは吹き飛ばされるのだった。