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応援してますからっっ

 準決勝第一試合終了後。


 「く、クジョウさん?

  よくわからないけど、離してくれない?」


 ギルバートを運ぼうとするアイトだが、左腕にアヤメが絡みついて離れない。


 「‥‥‥そんなに私とくっつくのが嫌?」


 「はっ?」


 あまりにも唐突な質問すぎて、アイトは少しぶっきらぼうに声を漏らしてしまう。それによってアヤメは少し悲しそうな顔になる。


 「いや?」


 「いやギルバートを医務室に運びたいんだけど」


 「‥‥‥わかったわ」


 すぐに離れてくれると思ったアイトだったが、全く離れる気配がない。


 アヤメは倒れているギルバートの近くの地面に指で触れる。


 「えっ、まさか」


 「耳を塞いで」


 アヤメはそう言った途端に指を鳴らす。


 ギルバートの耳元で小さな爆発が起こる。


 「うるせっ!!!」


 至近距離からの騒音によってギルバートが飛び起きた。


 「ギル!」


 「うえっ!?」


 「はわわっ‥‥‥」


 クラリッサがギルバートに勢いよく抱き着く。その抱擁を見てポーラは両手で顔を隠していた(指の間からバッチリ見てる)。


 「あれ? どういう状況だ?」


 状況が読み込めないギルバートはクラリッサに抱きつかれたまま辺りを見渡す。すると彼を見下ろしていたアヤメが淡々と説明した。


 「あなたが邪魔をしたから起こした。それだけよ」


 「は?」


 ギルバートは思わず額に青筋を立てているとーーー。


 「クジョウさ〜ん! 大丈夫でしたか!?」


 Bクラスのハル、フユ、ナツがアヤメへと駆け寄っていた。


 「大丈夫よ。あなたたちこそ大丈夫?」


 「大丈夫です!!! ところで、それは‥‥‥?」


 フユが少し不機嫌そうにアイトを睨みながら質問する。


 「ん? あ、なんで?」


 アイトはそんな声を出していた。気づけば右腕にアヤメが抱きついていたのだ。


 「! な、なんでもないわ‥‥‥大勢に見せるような

  ものではないわ。ええ、そうよ。きっとそう」


 アヤメがよくわからないことを言いながらアイトから離れる。そして視線を合わせてこう言った。


 「あの‥‥‥お名前聞かせてもらってもいいかしら」


 「ん? 俺?」


 「聞きたいのはあなたしかいない」


 「「「‥‥‥」」」


 アヤメの発言にその場が凍りつく。特にハル、フユ、ナツの3人は氷の中に入りたくなった。


 (何言ってるかよくわからないけど、まあいいか)


 終始アヤメの態度がよくわからないまま、アイトは自分の名前を言う。


 「アイト・ディスローグだけど」


 「私はアヤメ・クジョウ。名前で呼んで」


 「みんなクジョウさんって呼んでるから

  俺もクジョウさんってーーー」


 知り合ってすぐの相手を名前では呼ばない主義のアイト。


 「名前で呼んで」


 「え? えと」


 「アヤメって呼んで」


 「‥‥‥アヤメさん」


 「『アヤメ』って呼んで」


 (あれ、時間がループしてる??)


 全く同じ言葉を言われて、思わずそう錯覚するアイト。そんな状況を打破すべく、言われた通り名前で呼んでしまう。


 「‥‥‥アヤメ?」


 「‥‥‥っ!! こ、これで失礼するわ。

  それではアイトくん。決勝、応援してます。

  ‥‥‥誰よりも、応援してますからっっ」


 顔を真っ赤にしたアヤメが綺麗な所作でお辞儀をした後、背を向けて走っていく。


 「あ、ああ。ありがとう」


 アイトはただ遠ざかっていく背中にそう伝えるしかなかった。


 ちなみにハルたちも少し時間が経ってからアヤメの後に続いた。3人とも魂が抜けた状態で。


 Bクラスが去った後、ギルバートはアイトの背中をバシバシ叩く。


 「痛い痛いっ! なに!?」


 「お、おいあの女、完全にお前にーーーいてぇ!?」


 殴ることでギルバートの口を黙らせるクラリッサ。


 「何すんだ!!」


 「何も? もし言ったら殺すわよ???」


 「‥‥‥ギルバートくん。空気を読みやがれです」


 「お前もそんなこと言うのかよ!?」


 優しいと思ってたポーラにまで言われてギルバートは驚く。


 「なあ‥‥‥まさかクジョウさんって俺にーーー」


 さすがのアイトもアヤメの露骨な態度に気づいた。


 「まさか恋愛感情を抱いてるとか言わないわよね?」


 「ええっ!? あれって好きとかじゃないの!?」


 アイトは驚いた様子でクラリッサをガン見する。クラリッサはやれやれと手を振って話し始めた。


 「あんたに試合で負けて何で好きになるの?

  『強い‥‥‥カッコいい♡ キャハっ♡』って

  考えるようなタイプじゃないでしょ、あの女。

  むしろ自分に惚れさせて恨みを晴らしてやろうって

  思うタイプの女でしょ、あれ。

  だってあの女、負けず嫌いみたいだし」


 「な、なるほど。つまり同族嫌悪ってやつ?」


 「はっ???? 何か言った??」


 「なんでもございません」


 アヤメの爆破魔法ばりのクラリッサの地雷を踏み抜いたアイトはすぐに縮こまる。


 「とにかく、すぐに勘違いしないことね。

  勘違いして本当に違ったら、死ねるわよ?」


 「そ、そうですよね」


 「まあさすがに『好き』って言われたら

  しっかりと返事してあげなさい」


 「は、はい。でもあれはさすがにーーー」


 「私の言うこと、間違ってたことあった???」


 「‥‥‥ありません。たぶん」


 アイトは怖いほど念ををされたため、自分の勘違いだと判断した。


 (あ! そういえば味方は王子様だけって言ってた!

  それじゃあ、あの態度は‥‥‥?

  うん、わからないことを考えるのはやめよう!)


 アイトは思考を放棄する。それがアヤメにとっては血の涙を流すことになると知らずに。


 (ちょっとクラリッサ!

  さすがにそれはあんまりではないですか!?)


 耐えかねたポーラがクラリッサと小声で話し始める。


 (確かにあの女が気に食わないのは95%くらいあるわ。

  でも別に今の段階で好きなのは変って言っただけよ。

  もしこれで万が一すぐにあの2人がくっついたら

  上手く行かずに終わるに決まってる。

  あの女はどうか知らないけど、

  アイトはあの女のこと全く知らないっぽいし、

  どう見ても察し悪いし。鈍感タイプよ、こいつ。

  もう少し親密にならないと話にならないでしょ。

  どっかのバカと同じで。あれはただのバカだけど)


 (クラリッサ‥‥‥恋愛師匠って呼んでもいいですか?)


 (むしろ私が相談したいくらいよ!!)


 クラリッサとポーラが小声で話し合っていると、アイトは「あっ」と声を上げる。


 「どうした? なんかあったか?」


 すかさずギルバートが聞くと、アイトは控えめに口を開いた。


 「クジョウさんたち、あっちへ走って行ったけど、

  競技場に戻る通路って真逆では?」


 「‥‥‥なんで4人とも気づかなかったんだよ!?」



 Bクラスの4人は競技場に戻るのが遅れ、準決勝第二試合は予定より数十分遅れて始まったのだった。



 こうして少し締まらない感じで、Dクラス対Bクラスの試合が終了した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 競技場。


 「グスっ‥‥‥アイト‥‥‥あんなに成長していたのね。

  お姉ちゃん、嬉しいわっ。

  アリサ、あんたのお兄ちゃんは成長してるわよ。

  あんたが入学してくる来年からが楽しみだわっ」


 マリアが涙目になりハンカチで目元を拭く。


 マリアは今、弟の成長に対する喜びと妹に会いたい気持ちでいっぱいになっていた。そう、彼女は弟と妹を溺愛している。


 涙を流して笑顔のマリアに『ルーライト』副隊長、ジル・ノーラスは話しかけられずにいた。


 「あっ‥‥‥副隊長! お疲れ様です!」


 「う、うむ。ディスローグもな」


 結局、彼は気付かれてマリアから話しかけられる形になった。


 ジルはマリアのことを苗字で呼ぶ。というよりジルはルークを除いた全ての人間に対して苗字で呼ぶ堅物である。


 「見回り、今のところどうですか」


 ジルは既に学園を卒業しているため、『魔闘祭』では率先して警備の責任者を担っていた。


 「特に今のところ、怪しい点は見つからない。

  だが油断もできん。注意を怠るな」


 「わかりました。ところで副隊長はさっきの

  試合見ましたか?」


 「ああ。貴殿の弟が出ていた試合のことだな?」


 ジルがそう言うとマリアの目の色が明らかに変わる。そしてジルは後悔した。自分が地雷を踏んだということに。


 「そうなんです!! さっきは最後に円に入って

  勝利を掴んだんです! 身のこなしも前より

  確実に上達していて、昔は背が小さかったのに

  今ではお姉ちゃんである私とほぼ変わらないし、

  本当に成長って早いですよね。

  あ、弟の名前はアイトって言うんです!

  時々稽古してあげてるんですけど、あの子

  ちょっと反抗期で‥‥‥それは少し寂しいです。

  あ!! もし良かったら副隊長もあの子に

  稽古してくださいませんか!!

  アイトは後に必ず『ルーライト』に入りますので、

  その挨拶も兼ねて! どうですかどうですか!?」


 「‥‥‥考えておこう」


 生真面目なジルが、ほとんど話を聞いていなかった。


 「あ! あとアリサっていう妹もいるんです!

  来年から入学してくるので、あの子人見知りなので

  どうかよろしくおねがいします!

  あの子、かなり魔力の偏りがあってーーー」

  


 その後、マリアは次に妹のアリサについて話し続けた。何分経ったかジルは数えようとも思わなかった。



    その間に、準決勝第二試合が終わっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 アイトたちは試合直後そのまま第二試合を観戦した。今はその帰りである。


 「やっぱり勝ったのはAクラスか」


 ギルバートが期待してなかったような声で話す。Aクラスが勝利するのを最初から知っていた口ぶりである。


 「案の定、ジェイク・ヴァルダンと

  システィア・ソードディアスは化け物ね」


 クラリッサがそう言葉を漏らす。アイトも同感だった。


 ジェイク・ヴァルダン。


 土魔法で人形を2体作り、操る。そして操っている間も本人に全く隙はない。魔法、身体能力、判断力、統率力。どれも一級品。


 システィア・ソードディアス。


 1年の中で最強格の実力を秘める剣使いの少女。スカーレットの妹。しかも彼女はまだ試合の中で魔法を使っていなかった。もはや使うまでもないという雰囲気を醸し出していた。


 (2人はエルジュの構成員と互角に戦えそうだな〜)


 そんな現実逃避をしていたアイトたちはDクラスの休憩スペースに到着する。


 「あ!! 来たぞ!」


 クラスメイトの声がした後、アイトたちは大勢のクラスメイトに囲まれていた。


 「Bクラスに勝つなんて!! すげえな!」


 「いよいよ決勝だね! 応援してるから!!」


 (アイトくんってあんなにカッコよかったっけ!?)


 (バカっ! 本人に聞こえるでしょうが!!)


 クラスメイトの声援を聞いて(ひそひそ声はもちろん聞こえていない)、アイトは決意する。


 (でもここまで来たんだ。優勝しよう)




 「ギルバートくんのあの一撃、すごかった〜!」


 「クラリッサさんの飛び込み、カッコよかった!」


 「アイトくんがクジョウさんを助けた時、

  ‥‥‥いやなんでもないです!!」


 (そこで言わないのは気になるからやめて??)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 競技場の外。『エリア・ペネトレイト』で観客の熱狂が続いているため、外には人が全くいない。


 エルジュ精鋭部隊『黄昏トワイライト』No.1、エリスは魔結晶を取り出した。


 「メリナ、今連絡取れるかしら」


 『人目のないところにいるから大丈夫。なに?』


 連絡相手は同じく『黄昏』No.10、メリナだった。彼女は1年Eクラスに所属して、アイトの護衛と学園内の情報収集という特別任務に就いている。


 「今のところ周囲に怪しい点はないわ。

  生徒側の方はどう?」


 『こっちも今のところ特に無いかな』


 「わかったわ。でも一応引き続き警戒しておいて」


 『了解』


 手短に要件を済ませ、メリナとの連絡を終える。エリスは疑問を抱いていた。


 (まだ奴らが来ない‥‥‥いったい何が狙いなの?)


 その答えは出ないまま、エリスは競技場の中へと戻った。


     そしてエリスが戻ると1年の部、決勝戦。


      Dクラス VS Aクラスが幕を開ける。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「さ、そろそろかな」


 スカーレットは観客席へと足を運んでいた(生徒が観客席に来るのはNG)。


 そして最前列の空いた席にドカッと座り足を組む。手には指定された座席のチケットを握って。


 スカーレットは個人で観客席を予約していたのだ。それも自分が貯めている金を使ってまで。


 (後輩くん、君には期待しているよ)


 スカーレットは画面に映る黒髪の少年を見て笑っていた。

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