新たな生活
ラルドとの激闘の末。
「‥‥‥ん?」
「アイト様! 目が覚めましたか!」
アイトはエリスにお姫様抱っこをされ、空を飛んでいることに気がついた。
「ターナの件、どうなった?」
「無事解決しました。組織も上手くまとまりましたよ」
「そうか、良かった」
「‥‥‥(ニコッ)」
「???」
アイトがそう言うとエリスが笑顔になる。アイトはなぜか全く気づいていない。
「それで、あの、アイト様。お話が」
「あ!!!!!!」
「あ、アイト様? どうしました?」
「まずいぞエリス、もう朝だ!!両親がもうとっくに起きてる!俺怒られちゃう!」
「‥‥‥アイト様、がんばってください」
エリスは、思考を放棄した。
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『ルーンアサイド』の本拠地から帰宅後、なんとか言い訳を両親に納得してもらえることに成功する。妹のアリサは号泣し、宥めるのに時間を要した。
夜。
アイトがいつものように両親と妹に【スプーリ】をかけるとエリスが部屋から出てくる。
「それじゃあ今日も特訓するか」
「あの、アイト様! お話があります!」
「お、おう。どうした?」
エリスの気迫にアイトは押されながら話を促す。
「私、しばらくアイト様から離れます!」
「‥‥‥え?」
何を言われたのか理解するのに時間がかかるアイト。
「‥‥‥どうして? 俺のこと嫌になったとか?」
「そんなことは神に誓ってあり得ません!!」
「じゃあ、なんで?」
「‥‥‥今の私が側にいると、危険な目に遭うからです」
「?? どういうこと?」
「あの女を透視すると、犯罪組織の一員であることがわかりました。組織名は‥‥‥ゴートゥーヘル」
「ゴートゥー、ヘル‥‥‥」
「世界を混沌に陥れようとしている組織です。その組織の目的を全て知ったわけではないですが、聖者の血を悪用しようと計画していることがわかりました」
「‥‥‥」
「アイト様に助けてもらった時に追われていた相手も同じ『ゴートゥーヘル』の一員でした。私はこの血を引いている限り、狙われ続けます」
「エリスが‥‥‥」
「今の私はアイト様、ご家族と生活してます。万が一私のせいでアイト様たちに危険が迫ると考えると、私は耐えられません」
「‥‥‥なるほど。理由はわかった。『しばらく』っていうことは、また会えるんだよな?」
「はい!私、もっと強くなりたいんです!不安に感じないくらい、安心できるくらい、アイト様についていくために、もっと強く!」
「‥‥‥わかった。それなら俺は止めない。でも1つ聞かせてくれ。どこに行くつもりなんだ?」
「ルーンアサイドの本拠地です。実はラルドさんから訓練に参加しないかと誘われていまして」
「え、すごいじゃん!」
「それに暗殺組織の本拠地となるとセキュリティは万全です。そこで、強くなりたいと思います」
「なら大丈夫、あのオッサンなら信用できる。俺から言うことは1つだけだ。エリス、がんばってこい。いつでも戻ってこい」
「‥‥‥はいっ!!!!」
エリスがアイトに抱き着く。アイトは受け止めて頭を撫でる。
最初は勘違いから始まった関係だったが、アイトはエリスのことを大切に思っていた。家族のように。
こうして2人は、しばらくの間このままだった。
「エリス、何か忘れ物とかないか?」
「はい。大丈夫です」
「そっか。それじゃあエリス、いってらっしゃい」
「はい、行ってきます。私、がんばって組織を大きくしますから!」
「がんばれ〜!!」
エリスの旅立ちを、アイトは涙混じりに見送る。見えなくなるまで、手を振り続ける。
(‥‥‥エリスが言うなら『ルーンアサイド』は大きくなるだろうなあ。少し寂しくなる)
ここで今まで史上、最大の勘違いが起きていることに2人は気づかない。
自分の意思を伝えることに集中しすぎて、組織立ち上げについて全く話していなかったことに気づいてないエリス。
だがアイトは以前から了承してくれた(深夜の時の空返事)と思っているため、話さなくても良いかという考えに至る。
そしてそのことにもちろんアイトが気づくはずもなく、エリスを送り出す。
こうしてエリスはアイトから離れ、新たな生活に足を踏み入れていく。
‥‥‥彼の知らないところで、組織の立ち上げは始まっている。