試合開始!
「試合開始!」
審判の声が響き渡り、1年Dクラスと1年Eクラスの試合が幕を開ける。
審判の声が聞こえた直後、アイトとギルバートな走り出す。クラリッサとポーラは自陣の円を守るためその場に留まったままだ。
『とりあえずはオレとアイトが前衛、
クラリッサとポーラが後衛だ。
3人が相手陣の円に入れたら1番楽だがそう甘くない。
だから相手チームを2人KOした後に安心して
3人で相手陣の円に入る。この作戦でいこうぜ!』
事前に提案されたギルバートの作戦通り、まずは相手メンバーをKOするためアイトとギルバートが移動を始める。
その光景が木に設置された魔結晶を通して競技場の画面に映る。
「! 隠れろっ」
「は? どうした?」
アイトの発言にギルバートが?を浮かべる。腕を引っ張られて隠れると、敵が2人近づいてきた。
(まさか、さっきの段階で気配を察知したのか?)
ギルバートは驚きのあまり隣で息を潜めるアイトをガン見していた。
アイトは組織の代表として様々な任務をこなしてきた(大半は強制的)。その影響で相手の気配に敏感になっていた。
(今なら2人倒せる)
「ギルバート、2人に突っ込んで注意を引いてくれ」
「おう、任せとけっ」
ギルバートが大剣を振り回しながら敵の2人に突っ込む。
アイトは木を伝って移動し、ギルバートに驚く2人の背後に回り込む。
「【スプーリ】」
睡眠魔法は相手の意識が逸れている時に行う催眠のようなものである。正面戦闘の際には効かない。不意打ちで行うのが前提の魔法。
その事を理解していたアイトは、1発で2人を寝かせた。
「やるじゃねえか。ずいぶん慣れてるな」
ギルバートの褒め言葉にアイトは少し微笑むと、立ち上がる。
「それじゃあ2人を呼んで来る。
ギルバートは先に行ってて」
アイトは大剣を背負ったギルバートよりも自分の方が身軽なため自陣に戻るのが早いと判断した。
「ああ、先に行ってるぜ!」
そこで2人は逆方向に移動し始める。
その後、アイトがクラリッサ、ポーラと共に敵陣付近に到着した頃にはギルバートが残りの2人を倒していた。
こうして初戦はアイトたちが勝利したのである。
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観客席。
「いや〜さっすが! あまり派手じゃないけど!」
「さすがお兄ちゃん〜♡」
「んぁ? あるじ勝ったの?」
カンナたちは組織の代表であるアイトの勝利を喜んでいた。
「おい! もう始まってるじゃねえか!」
そう言ってエリスたちの近くに座ったのはカイル。彼の後ろにはオリバーとミストもいた。
「カイル、そっちはどう?」
エリスが飲み物を渡しながら聞くと、カイルは「サンキュ」と飲み物を受け取った。
「今のところ怪しい奴はいねえな。
は〜ギルドの依頼ってのも大変だぜ」
カイルたちはギルドメンバーとして競技場周辺の警備を行っているのだ。もちろん本命はエルジュの任務のためである。
「さっきやっと自由になれたわけだ。
おいアクア、お前そろそろギルドに戻ってこいよ」
「いやー」
「こっちはお前がいなくなって3人で
ギルドの依頼こなしてんだ。大変なんだぜ」
「やー」
「‥‥‥お前、さては喧嘩売ってるな??」
「それはどうか〜ん。こんな脳筋バカでも
必死に脳みそ足りない頭動かして仕事してんのに、
青髪女は少し舐めすぎ。消すわよ?」
カイルの発言に乗ったのは、意外にもミアだった。
そして珍しく喧嘩腰じゃないミアに対して全員が驚いた(話を聞いてないアクアを除く)。
そして歓声が聞こえてくるにも関わらず、現在の試合を全く見ていないカイルとミア。
カイルの隣に座っているオリバーは微笑むだけで2人を止めず、リゼッタとミストは恐怖で身体を震わせている。
「‥‥‥お前、褒めてんのかケンカ売ってんのか?」
「まあまあ! みんながんばってるってことで!」
「は? あんたはいっつもドジばっかしてるくせに
よく言うわね」
フォローしてくれたカンナに対して即座に噛みつくミアである。彼女の協調性はアクアに匹敵するほど足りていない(話を聞いているのに協力する気がないため余計タチが悪い)。
「え! 私のことそんなに気にしてくれてる!
嬉しいな〜! それとドジばっかしてごめんねっ」
「‥‥‥チッ」
皮肉が一切通用せず、それどころか嬉しそうに微笑むカンナ。
毒気を抜かれたミアは舌打ちをして視線を逸らした。
「声が大きい。怪しまれるわよ」
そしてエリスの少し低い声での注意によってこの話は終わりとなった。アクアの話は知らぬ間にうやむやになっていた。
そしてこんな話をしている間に、一回戦の第3、4試合が終わっていた。
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「あ、あのシャルロット様。試合は見られないので?」
VIP席に座る。『使徒』シャルロット・リーゼロッテの近くを通りかかった運営委員が勇気を振り絞って話しかける。
それはシャルロットがずっと目を瞑っているからだ。
「ちゃんと見てる。全部見てるから」
シャルロットは目を瞑ったまま返事をする。運営委員の方には視線を向けずに。
「は、はあ。それならよかったです」
掴みどころのない雰囲気を醸し出している彼女に畏怖しながら、運営委員は即座に離れていった。
(‥‥‥パッとしない試合だった。実力差ありすぎ)
目を開けたシャルロットは残念そうな表情を浮かべ、心の中でそう呟いた。
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アイト、ギルバート、クラリッサ、ポーラの4人は待機席に座ってこれまでの試合を観戦していた。
「ジェイク・ヴァルダン率いる1年Aクラス
‥‥‥やべえ相手だな。隙がねえ」
ギルバートが小声で心情を漏らす。その小言の対象は先ほどの1年Aクラスの初戦。
彼らの戦法はアヤメ率いる1年Bクラスと同じ。1人が自陣を守り3人が相手陣に攻めるというもの。
だが自陣を守っていたジェイクがあまりにも鉄壁だった。
ギルバートの隣に座っていたクラリッサが少し驚いた様子を見せてこう言った。
「まさか、彼が土魔法の使い手だったなんてね」
土魔法。魔力を消費して土を生み出す魔法。そして自然に存在する土を操ることができる。
ジェイクは地面の土を利用し自分と等身大の人形を2体作り、それを操っていた。
つまり実質3人で守っているのと同じである。
「あんなのほぼ反則だわ。数的有利を作られるし」
「それに、攻撃の方はあの女かよ」
ギルバートは画面に映っているシスティア・ソードディアスを見ていた。
「あいつの剣で敵陣をこじ開け、
自陣はジェイクの土魔法で固める」
「まさに鉄壁ね。さすがAクラスって感じだわ」
「ど、どうしましょう?」
2人の会話に入り込むように動揺の声を上げたポーラに、アイトは落ち着かせるように声を出した。
「‥‥‥とりあえず次のBクラス戦のことを考えよう。
クジョウさんだっけ? あれも強敵だから」
ジェイクが守り重視と捉えるなら、アヤメは『攻撃は最大の防御』と捉えられる。
フィールドの中で爆発を引き起こす。威力と条件は一切不明。ただ発動範囲は主に彼女の近くということだけはわかる。
「あんな爆発まともに受けたら1発KOよ」
「こ、怖いです‥‥‥」
落ち着かせるどころかさらに不安げに声を漏らす2人に、アイトはこう切り出した。
「ーーー策がある」
そう言ったのはアイトだった。
ギルバートは「マジか!」と喜び、クラリッサは「ホント?」と聞き返し、ポーラは何も言わなかった。
その後アイトが3人に説明すると、全員がその策に賛成した。
そして準決勝第一試合、Dクラス対Bクラスの試合が幕を開ける。