表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

136/347

『クラッシュボール』

 「勝者、ルーク・グロッサ!」


 審判の声と共に歓声が鳴り響く。


 「はあ、お兄様が勝ってしまいましたか。

  マリアさんでも敵わないなんて」


 「ギル‥‥‥負けたのに嬉しそう」


 「な、何が起こったのかほとんど見えませんでした」


 (まさに悔いはないって感じだな)


 アイトはそう思いながら立ち上がり、2人に話しかけた。


 「次は『クラッシュボール』だから早く移動しないと」


 「あ、そうですね! ほら行きましょうクラリッサ!」


 ポーラがクラリッサの腕を掴み、立ち上がらせる。


 「‥‥‥そうね! ギルの分まであたしが頑張って、

  そして勝つ! 目指すは優勝よ!!」


 「あ、わたしも出場するのでご一緒します!」


 アイトたちは移動を始めた。


 (え? ユリアも出場するの?)


 「負けませんから! 正々堂々勝負です!」


 ユリアはニコニコ笑い、アイトは少し億劫になっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 観客席。『バトルボックス』が終了した後。


 ミアがジト目で呻き始める。


 「ねぇ〜お兄ちゃんの出番はまだなの〜?

  じゃないと全く興味ないんですけどぉぉ〜〜〜」


 「まあまあ、そろそろ出てくるって!

  ほらアクア、そろそろ起きて〜!」


 カンナは即座にフォローし、それに加えてアクアを起こそうと試みる。


 「zzz‥‥‥」


 だがアクアは全く起きる気配がない。カンナは少し涙目になった。


 「エリス〜、アクアが起きないんだけど」


 「‥‥‥」


 エリスが1番頼りになると思って話しかけたが、彼女はどこか上の空だった。というよりも視線が1箇所に固定されているようである。


 「ど、どうしたの? 顔が怖いよっ?」


 「‥‥‥なんでもないわ」


 カンナに指摘されたエリスは表情を意図的に戻す。


 「そう? 何かあったら言ってねっ!

  私は相談雑談怪談恋バナなんでもOK〜!」


 「ふふっ。ありがとうカンナ」


 お礼を言いながらも、エリスは誰にも相談できないことが頭の中に広がっていた。



 エリスはルークを自分の目で見るのは初めてだった。そして見た瞬間に『共鳴』が起こる。



 アイトに初めて会った時以来、一度も『共鳴』は起こっていなかった。つまりルークはアイトと同様、自分の運命に大きく関わる存在であるということ。


 そして『共鳴』により、これから起こる未来を一瞬だけ見たエリスは決心した。



     (ルーク・グロッサ‥‥‥早く消さないと)



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 競技場内、ステージ上。


 「『クラッシュボール』を始めます。

  DクラスとAクラスはコート内に入ってください」


 次の競技、『クラッシュボール』が始まろうとしていた。


 学年別であり、最初は1年生。それもアイトが所属するDクラスからである。


 「さ、がんばりましょ!」


 「そうですね!」


 クラリッサ、ポーラがやる気満々でコートに入っていく。アイトもその後に続くと、とある歓声が耳に入る。


 「来た!!! お兄ちゃん〜!! がんばれ〜!!」


 「がんばれ〜!! ファイトぉ〜、オ〜〜っ!」


 「zzz‥‥‥ふぁ〜? あるじの出番?」


 「‥‥‥」


 (ミアとカンナの声がはっきり聞こえてくる‥‥‥

  頼むから俺の名前と『天帝』レスタって

  単語だけは出さないでくれよ。後生だから!!)


 アイトが内心祈っている間に、ルール説明がされていた。


 ・制限時間は8分

 ・ボールは一個

 ・生き返りはなし

 ・魔法そのもので相手を傷つけるのは禁止

 ・魔法をボールに付与するのはOK

 ・相手クラスを全員OUTにしたら勝利

 ・制限時間以内に終わらなければ、

  内野の人数が多い方が勝利


 簡単にまとめられた説明を受けた後、審判の合図と共に競技が始まる。


 (警戒すべきはユリアとジェイク・ヴァルダン。

  そして‥‥‥システィア・ソードディアス)


 アイトは数日前に頼まれたスカーレットの依頼を思い出していた。


 (ーーーできればここで終わらせておきたいっ!)




 「え〜い!」


 開幕は、ユリアの可愛らしい声と共に投げられるボール。


 「ブヘッ!!!」


 ただし、アイトのクラスメイトが爆速のボールごと吹き飛ばされた。


 「な、なんですかあの威力!?」


 「さすが新入生代表。魔力の出力が凄まじいわね!」


 ポーラが手をあたふたさせて驚く。クラリッサは少し感心していた。


 (ユリアのやつ、『賢者の魔眼』によって

  魔力出力が底上げされてる!?

  運動苦手な雰囲気出してたのに

  人を殺しかねない威力だぞ!?)


 アイトが驚いている間にも試合は当然続く。


 「お返しです! ユリア様、ご覚悟!」


 アイトのクラスメイトその2がユリアにボールを投げる。


 「はわわ!」


 ユリアはボールに驚いて身動きが取れない。


 (これでユリアはOUT。要注意人物が1人減る!)


            バシィッ。


 アイトがそう思ったのも束の間、ユリアの目の前でボールがキャッチされる。


        「ふう、大丈夫ですか?」


          「ジェイクさん!」


 ボールをキャッチしたのはジェイク・ヴァルダン。


           「ガァっ!?」


 そして次の瞬間には凄まじい速さのボールが返却され、クラスメイトその2もボールごと吹き飛んでしまった。


 「む、加減が難しい。当ててしまった人、すまない」


 その声は被害者に届いていない。


 そしてシスティア・ソードディアスは自分にボールが一切飛んでこないため、何もせずに待機していた。


 (くそ、できればこの競技で済ませたかったのに)


 アイトはスカーレットの依頼『システィアを負かせる』ということを意識していたが、既にそれは実現しそうになかった。


 その後も順調に試合が継続し、少しずつ内野を減らされるDクラス。


 Aクラス残り6人、Dクラス残り3人。


 Aクラスはユリア、ジェイク、システィアという要注意人物が全員残っている。


 対してDクラスはアイト、クラリッサ、ポーラしか残っていなかった。


 「どど、どうしましょう!」


 「ポーラ、落ち着いて!」


 (まずいな。押され気味の展開にポーラが動揺してる。

  このままじゃあすぐに当てられて終わりだ。

  ‥‥‥ルールに則れば、これは反則じゃないよな?)


 アイトはクラリッサが持つボールを見つめていた。


 「とりあえず1人落とさないと!」


 クラリッサが振りかぶってボールを投げる。狙いは、1番破壊力を持つユリア。


 その軌道をジェイクが読んで先回りし、キャッチする姿勢に入る。


           「うわっ!!」



 だが突然ボールの軌道が湾曲に曲がり、ジェイクの横を通り過ぎてAクラスの男子に当たる。


       「あれ、おかしいわね‥‥‥」


        「クラリッサすごい!」


 ポーラは手をぱちぱち叩いて拍手し、称賛した。


 対して褒められているクラリッサは自分が投げたボールを疑問に思う。それも無理はない。


 アイトが遠隔で最低出力の魔力を付与し、水平方向に押し込んだのだ。


 (他人の投げるボールに付与しても反則じゃないはず。

  だって魔法をボールに付与するのはOKなんだから)


 別にボールを操ったわけではない。魔力でボールを押し込んだだけである。魔力の付与を遠隔で行ってみせたのは離れ業と言うべきではあるが。


 「な、何が起こった? 投げたあの子がやったのか?」


 ジェイクは何が起こったのかわからず困惑している。


 「へえ?」


 システィアは少し口角を上げていた。


 「わあ〜!」


 そしてユリアは嬉しそうに目を輝かせていた。


 (今のは少しだけアイトくんの魔力を感じました。

  つまりアイトくんが遠隔でボールの軌道を変えた。

  さっすがアイトくん! 裏で暗躍する天才ですね!)


 『賢者の魔眼』を持つユリアはアイトの細工に気づいたのだ。


 「面白くなってきましたね! よ〜いしょ!」


 ユリアが変な掛け声と共に投げたボールは魔力が過度に付与されていた爆速。狙いは、ポーラ。


 「ポーラ危ない!!」


 彼女の前に割り込んだのは、クラリッサ。咄嗟に両手でボールを受け止めるも、勢いが止まらない。


 「何よっ‥‥‥これっ!!?」


 ボールが凄まじい回転と共に暴れ出し、手のひらが吹き飛びそうになる。そう感じたクラリッサは苦悶の表情を浮かべていた。


 「ーーーッラァッ!!」


 限界が来たクラリッサはキャッチは諦め、咄嗟にボールを真上に飛ばす。


 ボールが宙を舞う。さっきの弾き飛ばした反動でクラリッサは動けないでいた。


 「よしっ」


 するとーーーアイトが跳躍してしっかりと浮いたキャッチする。


 「アイト!!」


 「クラリッサ、いけ!」


 跳躍しているアイトがすぐさまパスを出し、受け取ったクラリッサが振りかぶってボールを投げる。


 (さっきとは違ってボールをキャッチした瞬間に

  俺の魔力を通した。これでまた押し込めば‥‥‥)


 アイトの魔力により、クラリッサの投げたボールが水平方向に押し込まれ、軌道を少しずつ変えていく。


 「!」


 しかし、途中で軌道が変わらなくなった。Aクラスの中で、ただ1人片手を広げて構えている者がいた。


 (ふふっ、アイトくん。初めての勝負ですね!)


 (まさかっ‥‥‥ユリアの仕業か!)


 それはユリアだった。さっきのアイトと同様に遠隔で魔力を通し、ボールの軌道を操作しようと企んでいたのだ。そんな芸当ができるのは、彼女が持つ【賢者の魔眼】の恩恵である。


 2人の魔力がボールの表面で拮抗する。お互い一歩も譲らない。


 (さすがユリアっ、魔眼羨ましいわ!)


 (さすがアイトくん、凄まじい魔力です!!)


 ボールは凄まじい回転を生むが、軌道は変わらなかった。


 そしてそのままジェイクにキャッチされる。


 「あの子が1番危険だ、これくらいなら」


 そう言ってジェイクが投げたボールが一直線にクラリッサへ飛ぶ。まるで大砲のような勢いだった。


 (これはーーーキャッチできない!!)


 「っぶな!!」


 そう感じたクラリッサは腰を逸らしてボールを避ける。回避した時に思わず声を漏らしていた。


 だが、彼女が避けた先にはーーーーポーラがいた。


 「っ! 危ないポーラ! 逃げて!!」


 (あの子にあのボールは‥‥‥! すまないっ!!)


 生真面目なジェイクは心の中で謝っていた。


 「あ、ああっ」


 ポーラはそんな声を上げるしかできない。ただ迫り来るボールを前にして身体が動かず、目を瞑ってしまう。


 誰しもが数秒後の惨劇を予想し、目を閉じそうになる。



            バシッッ。



 そんな音が自分の前から聞こえたポーラはゆっくりと瞼を開ける。すると自分の前に立った黒髪の少年がボールをキャッチしていた。



         「大丈夫か、ポーラ」



        「あ、アイドぐぅ〜ん!」



 ポーラは安堵で涙を流す。その事実に周囲の人々が驚く。


 (取れるのに今のボールを見過ごすのは、なんか違う)


 アイトはぽかんと口を開けた審判に話しかけていた。


 「審判、彼女はOUTでいいですか?

  俺たちは残り2人でもいいので」


 「は、はい‥‥‥構いません」


 審判も驚きで空返事になっていた。


 「ご、ごめんねアイトくん、迷惑かけてっ」


 「まあまあ、今は安静に。迷惑かけたと思うなら、

  それを吹き飛ばすくらいの応援よろしく!」


 アイトは親指を立てて片目ウィンクをした。すると観客席の方から「私にしてぇぇぇ♡」と声が聞こえ、少し冷や汗をかいていた。


 「‥‥‥うん!」


 アイトの気遣いに感謝したポーラは涙を拭きながら外野へと走る。


 これでDクラスの残りはアイト、クラリッサの2人のみ。


 「アイト、よかったの? 今まで隠してたのに」


 ギルバート、クラリッサの2人は入学後の一件でアイトの実力の一端を知っている。そしてアイトがそれを隠したがっていることも。


 アイトは少し誤魔化すように笑った。


 「いや、この競技が得意なだけさ。さあ、楽しもう」


 「‥‥‥ええ!!」


 返事したクラリッサは嬉しそうだった。


 (それにこうなった以上、

  スカーレット先輩の頼みも今済ましておきたい)


 せっかくなら今の事態を逆手にとって、この競技でシスティアを負かせたいと決心したのだ。


 「へえ? 今のを取るなんて、意外だわ」


 アイトにとっての標的である彼女は澄まし顔でそう呟いていた。そしてジェイクはーーー。


 「やっぱりただの生徒ではなかったか、

  アイト・ディスローグ。

  さっきのボールを止めてくれてありがとう」


 アイトに感謝を述べていた。


 「いやこの競技に似た経験があるだけさ。

  ただの火事場の馬鹿力、だな!!」


 せめてもの保険と、アイトはそんな言い訳を述べた。


 彼の投げたボールがAクラスの男子に命中する。これでAクラスは残り5人。


 「‥‥‥そうか。ならお互い、楽しもう」


 「面白くなってきましたね! 負けませんよぉ!!」


 ユリアが嬉しそうにボールを投げた。



 

 『クラッシュボール』は、この試合が1年生の中で最も白熱したという。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 試合終了後。


 「惜しかったな3人とも! いや〜アイト、

  お前はやっぱり最高だぜ!!」


 「ギルバート、苦しいから離れてほしい」


 結果はAクラスの勝利。どちらも人数が減らないまま制限時間が過ぎ、内野の人数差で負けたのだ。


 そしてAクラスはそのまま1年の他クラスを打ち破り優勝した。


 (結局、システィアさんには勝てなかったな。

  これで俺の出る競技は無いし‥‥‥はあ。

  やっぱり、()()をするしかないのか)


 アイトがそんなことを考え、ため息をついていた。クラリッサとポーラは彼の隣でさっきの試合についてずっと話していた。

  


 「よく頑張ったよみんな!」

 「アイトくん、あんなにすごかったなんて!」

 「クラリッサさんもカッコよかった〜」

 「ポーラさん、大丈夫だった??」


 すると大勢のクラスメイトに囲まれて話しかけられる。


 「お前、かなり注目集めてたぜ!

  お前の姉ちゃんなんて大声上げてたからな!」


 「それは普通に恥ずかしいからやめてほしい」


 姉が大声を出してる光景が目に浮かんだアイトは遠い目をして現実逃避していた。


 「すまない! ちょっと通してくれ!」


 すると突然、他のクラスの男子がDクラスの輪の中に入り込む。


 「Aクラス、ジェイク・ヴァルダンだ。

  ポーラ・ベルさんはここにいるか?」


 「え、私ですか?」


 名前を呼ばれたポーラはキョトンとし、ジェイクはポーラの方を向いて頭を下げる。


 「さっきの試合ではすまなかった!!」


 「え、ええ!?」


 「涙を流すほど怖い思いをさせて申し訳ない!」


 「い、いえ! ヴァルダンくんのせいではありません!

  大丈夫ですから、わざわざありがとうございます!」


 ポーラが両手を振って大丈夫なことを伝えると、ジェイクはホッと安堵の息をついた。


 「‥‥‥ありがとう。本当にすまなかった。

  それでは、失礼する」


 ジェイクはもう一度頭を下げた後、走って去って行った。


 「あいつ、真面目で良い奴だな」


 アイトは素直にそう評価した。それにポーラもうんうんと頷く。


 「はい、良い人ですね」


 「そうだな‥‥‥やっぱりこれしかねえよな」


 ギルバートが意味深な発言をすると、アイトは即座に聞き返した。


 「どうしたギルバート?」


 「アイトとポーラに頼みがある」


 「え、なに?」

 「アイトくんと、私に?」


 2人が首を傾げていると、ギルバートが真剣な眼差しで口を開いた。



   「エリア・ペネトレイトに出てくれないか!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ