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【30万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
6章前編 魔闘祭

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君に用があって来たんだよ

 ゴートゥーヘルによる練習場襲撃から少し時間が経つ。『魔闘祭』まで残り2日となっていた。


 練習場襲撃から学園内で変わったことがある。アイトは登校がてら周りの生徒を見て、ボソリと呟く。


 「相変わらず金髪の女子が多いな」


 一年生たちを助け、大量の魔物たちと上級魔族を鮮やかに討伐した謎の金髪美少女、通称『金髪剣士』に憧れた者たちが金髪に染めるという事態。


 (絶対エリスのことだな‥‥‥あとで詳しく聞いてみよ)



 休み時間、そのことを話すとギルバートが苦笑いを浮かべた。


 「それは仕方ねえだろ。アイトは見てねえから

  気持ちがわからないかもしれねえが、

  あの女はとてつもない強さだった。

  同性として憧れるのは仕方ねえだろ。

  俺も思わず目を奪われたほどだったからな」


 目を瞑ってうんうんと頷くギルバート。


 「‥‥‥ぜったい、そのおんな、ころす」


 「く、クラリッサ? 大丈夫ですか?」


 「‥‥‥ゼッタイ、ソノオンナ、コロス」


 「も、戻ってきてぇ!!」


 するとクラリッサが理性を失いかけたので、ポーラが急いで両方を掴んで涙目で揺らしまくる。


 (ギルバートが褒め称えクラリッサが激昂し、

  そしてあのユリアが金髪に染めたいと言うあたり

  相当カッコよかったんだろうな)



 『エリスさんカッコ良かったんですよ!?

  私も金髪に染めてみたいです!

  どうですか! 似合うと思いますかね!?』



 アイトは金髪に染めたいと息巻くユリアを必死に宥めたことを思い出す。


 ポーラの声が届いておらず、目の焦点が合ってないクラリッサを見ても特に感想はないアイトだった。




 「失礼します」


 昼休み。1年Dクラスの教室に訪問者がやって来る。


 「お、おい。遂にこのクラスにまで来たぞ」


 入ってきたのは1年Bクラス、アヤメ・クジョウ。


 「あ、あの‥‥‥?」


 「‥‥‥ちがうわね」


 アヤメは男子生徒の顔をマジマジと数秒見つめ、違うと言って顔を離す。それを各クラスの男子に行う。


 これが襲撃後に変わったもう一つの出来事。


 アヤメ・クジョウが1年生の男子を1人ずつ確認するという謎行動である。見る人が見ればカツアゲに見れる行為。


 アイトは彼女の顔を見た途端に内心ドキッとする。


 それは恋の始まりではない。


 (つ、ついにこのクラスまで来た。

  大丈夫。バレてない、バレない、バレないで!!)


 不安の始まりである。内心焦っていると、アヤメはギルバートの顔を凝視し始める。


 「‥‥‥」


 「‥‥‥なんだよ」


 アヤメはギルバートの顔を見つめる。ギルバートは少し不機嫌そうに見つめ返した。


 「こんな男臭くなかったわね」


 そう吐き捨ててアヤメは顔を逸らす。


 「相変わらずよくわかんねえ女だな」


 ギルバートは怒らない。


 「なにあの女‥‥‥殺す女がまた1人」


 「クラリッサ落ち着いて!?」


 代わりにクラリッサの殺意が湧いただけである。


 そしてアヤメは、ギルバートの隣に座っていたアイトに視線を向ける。


 アヤメがジリジリとアイトに顔を近づける。


 「‥‥‥」


 「‥‥‥」


 だがアイトもその程度で動揺はしない。なぜなら数多くの美少女(主に黄昏の女性陣やシロア、王女姉妹など)と行動を共にしてきたという経験がある。


 アイトは無表情だが少しだけ?という顔を浮かべる。


 「‥‥‥」


 「‥‥‥」


 なかなか終わらない。


 「‥‥‥」


 「‥‥‥」


 全く終わらない。


 「‥‥‥」


 「‥‥‥あ、あの?」


 30秒が経過しても見つめ合いが終わらない。さすがにアイトが痺れを切らして話しかける。


 「‥‥‥あ、ごめんなさい。ぼんやりしてたわ」


 (人の顔見ながらぼんやりできるか!?)


 アイトはツッコみたくなるが我慢し、アヤメの顔が離れるのを待つ。


 (あれ、なんで私急にボーっとしてたのかしら。

  寝不足かしら。早くあの人を探さないと)


 その理由に気づけていたら、アヤメは今の時点で気づくことが出来たかもしれない。


 そんな千載一遇の機会を逃し、別の教室へ向かうアヤメだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 放課後、学園外の平原。


 「‥‥‥アイくん。げ、げんかい(ハァ、ハァ、うぇ)」


 「シロア先輩、あと4周!!」


 「‥‥‥お、おにぃ(ハァ、ごほ、へっ)」


 アイト、シロアの2人はいつも通り日課の特訓、ランニングを行っていた。そしてシロアの限界が来た所で難題を押し付けるのもいつも通り。


 「‥‥‥つい、た。しね、る(バタッ)」


 「シロア先輩!?」


 シロアが平原に昏倒するのもいつも通りである。




 アイトは平原に腰を下ろし、隣に座るシロアに話しかける。


 「あともう少しで魔闘祭ですね」


 「‥‥‥うん」


 「シロア先輩は何に出るんですか?」


 「‥‥‥エリアなんとか?」


 「『エリア・ペネトレイト』ですか!

  魔闘祭での花形競技らしいですね!」


 「‥‥‥うそ」


 「え?」


 「‥‥‥うそっ」


 シロアは隣に座っているアイトに詰め寄り、顔を近づける。無表情だが少し焦っているように見えた。


 「‥‥‥目立つ?」


 「た、たぶん目立つと思いますが」


 「‥‥‥(ちーん)」


 「せ、先輩?」


 シロアが落ち込んだ様子でアイトにもたれ掛かる。表情がますます無表情になっていた。


 「‥‥‥目立つの、いや」


 「え、でも先輩って」


 「‥‥‥私みたいな影の薄い人が目立ったら

  変な空気になっちゃう。

  だから目立たないよう、努力してきたのにぃ‥‥‥」


 「は、はあ‥‥‥?」


 (もしかして、普段から目立ちまくっていることに

  気づいていないのかな?)


 まるで自分は目立ってないと主張するシロアを見て、アイトの顔には?が浮かんでいた。


 だが落ち込んでる今のシロアに『すいません、普段の時点でかなり目立っています』とは口が裂けても言えないアイト。


 「先輩は『ルーライト』の隊員なんですから、

  競技で活躍すればもっとみんなから話しかけて

  もらえますよ! ‥‥‥たぶん」


 「‥‥‥ほんと?(ズイッ)」


 「は、はい(近いんですけど)」


 「‥‥‥ん、がんばる(フンスっ)」


 「そ、その意気です! がんばりましょう!」


 「‥‥‥? うん」


 シロアとの距離の近さに気まずくなったアイトは突然大声を出して立ち上がる。シロアは要因が自分にあると気づかずに?の顔を浮かべていた。


 「ちょっと!! なんであんたがついてくるのよ!!」


 「別にいいじゃないか。私も暇で死にそうなんだ」


 座り込んでいたアイトたちの方に向かって歩いてくるのは2人の女子生徒。


 制服のリボンの色でどちらも4年生だとわかる。というより片方の声を聞いたアイトはすぐに気づき、体を縮こませた。


 2人がアイトたちの前に立ち止まると、アイトはすぐさま立ち上がった。なぜかシロアもつられて隣に立ち上がる。


 「ね、姉さんなんでここに?」


 「‥‥‥(うんうん)」


 2人のうちの片方はアイトの姉、マリア・ディスローグだった。


 アイトが問いかけると隣のシロアもうんうんと頷く。シロアからすればマリアは『ルーライト』の隊員仲間で頼りになる先輩。


 そして友達であるアイトのお姉さん。とても尊敬しているのは間違いない。


 「今日は予定がないから2人の特訓を

  見せてもらおうと思ってね。

  あたしも何か教えられると思ったのに‥‥‥

  この女がついて来なければねっ!!」


 マリアが隣の相手を思いっきり指差すと、相手はフッと笑みを浮かべて口を開いた。


 「やあ、アイト・ディスローグくん。

  シロア・クロートちゃんは初めましてだな。

  私は4年Dクラス、スカーレット・ソードディアス。

  一応生徒会副会長だが席を置いてるだけだ」


 「舞踏会ぶりですね、ソードディアス先輩」


 「‥‥‥(ペコペコ!)」


 アイトは返事をしたが、シロアは焦って頭を高速で下げ始める。初対面で先輩、それも目を引く美しさを持つ女性。シロアが目を瞑って高速ペコペコモードに入っても無理はない。


 「そう怖がらないでくれ。

  君のことはマリアから聞いてる。

  ぜひ手合わせしてみたいものだ」


 スカーレットがそう言って微笑むと、シロアはもう一度だけ頭を下げる。


 「さ、これで自己紹介は終わったな。

  私がここに来たのは、アイト・ディスローグくん。

  君に用があって来たんだよ」


 「せ、先輩が俺に?」


 「なっ! ちょっとスカーレット!

  あたし、そんなこと一度も聞いてないわよ!」


 「初めて言ったんだから当然だろ」


 驚いて文句を言いそうなマリアをアイトが落ち着かせると、「むぅ‥‥‥」と声を漏らして静かになる。それを見ていたスカーレットが笑うと、続きを話し始める。


 「用というのは、私の妹のことだ。

  君と同じ1年生なんだけど、知っているかな?」


 「いえ全然知らないです」


 「ふっ、ハハハハっ!!」


 アイトが即答すると、スカーレットはケラケラと笑い始める。彼女にとってはよほど面白かったらしい。


 アイトは練習場襲撃の際、メリナが担いでいった2人を目にしているが、その片方の少女がスカーレットの妹とは情報がないため全く気づいていなかった。


 「君は本当に面白いな。ああ、すまない話を戻そう。

  システィア・ソードディアス。

  1年Aクラスに在籍している、生意気な妹だ」


 「Aクラス? すごいじゃないですか。

  Aクラスなら俺と関わりは全くないですよ。

  それで、本題は何ですか?」


 「単刀直入に言う。魔闘祭で妹を負かして欲しい」


 スカーレットの発言にアイトは思わず首を傾げる。会話を聞いていたシロアとマリアも同じ反応をしていた。


 「妹さんを負かす? どういうことですか?」


 思わず問いかけると、スカーレットは苦笑いを浮かべて話し始める。


 「私の母は、元は帝国の名家出身らしくてな。

  家名にある通り、剣に重んじているらしい。

  妹はその教えに従い貪欲に剣の道を進み始めた。

  だが私はあいにくと剣を使う性分じゃなくてね」


 「素手でボコスカ殴るバーサーカースタイルだもんね」


 マリアが淡々と失礼な物言いをするが、スカーレットは気にせずに話を続ける。


 「本人のものなのか、あるいは血筋なのか。

  妹は剣の素質があるらしくてね。

  今まで出場した剣術大会で、同学年に負けなし。

  そのことで、どんどん増長しているように見える」


 「さすがあんたの妹じゃない。そっくりだわ」


 またもマリアの横やりが入るが、スカーレットは話を続ける。


 「もちろん自分より年上の実力者に負けることはある。

  だがそれで妹は反省しなかった。

  『相手の方が鍛える時間が長いから当たり前』。

  そう考えているらしい。私には何もできない」


 「‥‥‥つまり、先輩や姉さん、シロア先輩に負けても

  何も変わらない。同学年の俺が負かすしかないと?」


 「その通りだ。私が妹と最後に決闘したのは1ヶ月前。

  ボコボコにしてやったんだが、

  なぜか拗ねるだけでむしろ態度は悪化してしまった」


 (それはもうあなたが原因なのでは???)


 アイトは思わず先輩であるスカーレットにジト目を向けてしまう。マリアも同様にスカーレットをガン見していた。シロアだけオドオドして視線を逸らしている。


 「だからアイト・ディスローグくん。

  妹を、システィアを負かしてくれないか?」


 「いや、俺だとその妹さんには敵いませんって」


 「何もあいつに剣で勝てと言ってるわけじゃない。

  魔闘祭のどれかの競技で対戦し、

  君がシスティアに勝ってくれればいい。

  他の横やりが入らない状況で、

  文句が付けられないように勝ってくれれば」


 (めちゃくちゃ要求高いな!?

  ほぼ決闘と条件と同じじゃねえか!!)


 「ちなみにあいつは『バトルボックス』、

  『クラッシュ・ボール』、『エリア・ペネトレイト』

  の3競技に出場する。どうだ、何か被ってるか」


 「‥‥‥『クラッシュ・ボール』なら」


 「ちょうどいいな、なら頼んでいいか?」


 アイトは目を瞑り、ため息をついてスカーレットを見つめて口を開く。


 「‥‥‥なんで俺なんですか?

  1年Dクラスで目立ってもない俺なんです?」


 「直感だよ。君はマリアの弟だし、それに‥‥‥

  なんて言うんだろうな。何か期待してしまうんだ」


 「はあ‥‥‥そうですか」


 ニヤリと笑うスカーレットに少し引いているアイト。


 「1つ質問です。1年生であれば別に俺じゃなくても

  いいんですよね? 他の同級生が妹さんに勝っても」


 「もちろんだ。だが私は、君に期待している」


 「あんたもたまには良いこと言うじゃない!」


 弟を褒められて嬉しいのか、マリアは笑顔でスカーレットの肩をバシバシ叩く。


 「ま、お姉さんの方も乗り気みたいだし、

  君に頼んでもいいかな?

  勝てなくても何も要求しないし、

  勝てばもちろん相応の礼はすると約束する。

  そうだな‥‥‥とりあえず生徒会副会長の権限を

  君の好きにしていいというのはどうだ?

  何か思いつけば他にも報酬は色をつける」


 「ちょっと何勝手に副会長の権利濫用してんのよ!!」


 マリアが怒るのも至極当然だった。副会長の権限は生徒会長であるルーク・グロッサの次。そんな権限だけを他人に譲るなんて危険もいいところだ。


 (‥‥‥めんどくせぇ〜)


 それを聞いたアイトの本音はこうだった。生徒会副会長の権限を使えるのは利益があるかもしれないが、頼みを引き受けたくほとではない。


 「‥‥‥(フンスッ!)」


 だが、目を輝かせたシロアが手を握って応援してくるため、アイトは八方塞がりとなっているとーーー。


 「あ、妹の弱点を君に教えよう」


 「あちょっ!?」


 スカーレットがアイトと肩に腕を絡ませて強引に引き連れて場所を変える。少し離れた距離で憤慨するマリアとそれを宥めるシロアを見ながら、アイトはスカーレットの言葉を待った。


 「これは独り言だと思って欲しいのだが、

  舞踏会の件、私はどうも腑に落ちなくてね。

  君が何かしたという気がしてならないんだ」


 彼女の発言にアイトは少しだけ反応したが、それすらも心の中に押し留め、聞くことに徹底する。これまで踏んできた場数による賜物だった。半ば強制的に身についたものだが。


 スカーレットの目から見ても、アイトが動揺しているようには見えなかった。


 「ステラ王女、マリア、君。3人全員が会場に

  いない時があった。それも長時間。

  だが、2人は君がずっと会場内にいたかのように

  話していた。明らかに不自然だろ?」


 (わざわざステラ王女にまで話を聞きにいったのか)


 「それに私の直感だが、突然こんな話をしても

  君の身体は全く反応した素振りを見せない。

  言っている意味がわからないただの阿呆か、

  それとも些細な反応すら隠しのける相応の実力者か」


 (この人‥‥‥かなり厄介だな)


 「君が私の頼みを引き受けてくれれば、

  私の疑問は誰にも話さない。約束する。

  それにもし、私の予想が当たって

  君が隠していた実力を発揮して

  妹を打ち負かしてくれたなら、

  君の秘密が広まらないように私が全力を尽くす。

  当事者の妹を口止めし、何もかも有耶無耶にする」


 つまり、スカーレットは脅しているのだ。引き受けなければ疑問に思ったことを他者に話すと。


 そこからズルズルいけば小さな違和感が重なり、最終的にはアイトが『天帝』レスタだと気づかれる可能性すらある。


 それはアイト自身もそれを察していた。


 「‥‥‥質問です。なんでそこまで俺に、

  いや1年生に妹さんを打ち負かしたいんですか」


 「そうだな。せめてもの誠意として

  もっと噛み砕いて教えよう。

  理由はさっきも述べたが、詳しく言えば」


 スカーレットは、ニヤリと笑ってアイトに視線を合わせた。


 「あの子は強くなれる素質がある。私か私以上にな。

  だが強くなるために必要な物が足りない。

  絶望だよ。絶望があまりにも足りていない。

  『自分より年上だから負けても仕方ない』?

  そんな言い訳で絶望を軽減すれば、

  それだけ成長速度も遅くなる。もったいないだろ?」


 (‥‥‥この人が言っていることもわかる)


 アイトは彼女の言っている絶望に心当たりがあった。


 数年前、ラルドと戦って初めて死を直感したこと。


 自分の不手際でターナがエレミヤに拉致され、彼女の腕を切り落とされたこと。


 アーシャに修行を頼んだ際の試験で、彼女の圧倒的な強さを目の当たりにした時のこと。

  

 そして最近、ゴートゥーヘルの最高幹部を取り逃したこと。


 アイトは、今も絶望を経験し続けていると言える。


 「だから君に勝ってもらい、あの子が言い訳できない

  状況に持っていく。そうすれば、私との手合わせで

  あの子はもっと貪欲に強さを求めてくるはずだ」


 (‥‥‥ただ戦いたいだけなのでは??)


 「さてと、これで私からの話は終わりだ」


 スカーレットは肩を組んだままマリアたちの所へ戻り、再度アイトに問いかける。


 「私の頼み、引き受けてくれないか?」


 スカーレットの頼みに対し、アイトは首を縦に振った。


 「‥‥‥わかりました。

  でも負けても文句言わないでくださいよ?」


 「そうか! 君ならやってくれると思っていたぞ!

  さっそく褒美だ! これから私のことは

  スカーレットって呼んでも構わないぞ、後輩くん」


 「‥‥‥わー嬉しいなー」


 アイトは社交辞令として喜ぶ素振りを見せる。


 「なに喜んでるの!? いいアイト!?

  この女だけはお姉ちゃん絶対許さないからね!!」


 (何がだよ‥‥‥まあいい。

  生徒会副会長の権限を得る機会が来てラッキーと

  思うことにしよう‥‥‥うん、ラッキー‥‥‥)


 こうして、アイトはスカーレットの頼みを引き受けてしまった。


 (ま、システィアを打ち負かしたら

  もちろん秘密は守るが、

  あの子に負けたら守る義務はない。

  負けた時の約束はしていないからな)


 スカーレットはニヤリと笑っていた。魔闘祭本番が楽しみで仕方ないとワクワクしていた。


 (それにバラせば開き直って実力を見せるかも。

  でもめんどくさいからそんな展開に

  させないようにしてくれよ、後輩くん?)


 スカーレットはアイトに熱い(?)視線を向けていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 一方、エリスたちの潜伏拠点、『マーズメルティ』。


 「ミスト、メリナはともかく

  俺とオリバーまで入ってよかったのか??」


 「いいんじゃない? 呼ばれたわけだし」


 悩んだ声のカイルに、メリナは気さくに話しかける。


 「そうですよ。エリスさんに呼ばれたんですから」


 オリバーもそれに便乗した。するとカイルは「おう、そうだよな」と言ってニカッと笑った。


 「ここが拠点ですかぁぁ! 初めて来ましたぁ!!」


 「うるさいぞミスト」


 「ターナ!? いつの間に背後ニィッ!!」


 ジト目を向けるターナと叫ぶミスト。彼女を始めとして、普段は店内に入ることがない5人が来ている。


 「さあ、これで全員集まったわね」


 エリスの声が店の中に響く。


 今、店内に黄昏トワイライトの全員が集結していた。


 「全員集まるなんて久しぶりだねっ!」


 「はあ、なんでお兄ちゃんがここにいないの」


 「ミア、おち、ついて」


 「zzz‥‥‥」


 各々が空いている椅子に座り、声がどんどん大きくなっていく。エリスが話しを始めてもオリバー以外は聞いていなかった。


 その後も話しかけるが一向に聞いてくれない。それがしばらく続いた後。



          「‥‥‥話を聞いて」



 エリスは【魔戒】を発動。勇者の魔眼に刻まれた聖痕を明滅させ、周囲に風が巻き起こり店内が揺れる。まるでエリスの怒りを表しているようだった。


 カンナ、リゼッタ、ミスト、メリナのような分別がある者だけでなく、あのカイルやミアまでも渋々だが話を聞く姿勢を取るようになる。


 「zzz‥‥‥ふぁ」


 そしてある意味1番の問題児と言えるアクアが起き、ぼんやりとだが話を聞く姿勢に入った。その光景にエリス以外の全員が目を見開き驚いていた。ミストは叫んでいた。


 「みんなを呼んだのは、近いうちに任務があるから」


 「任務? お兄ちゃんが関係しないならやらないから」


 「任務っ! 最近は忙しいね!」


 「え〜任務ぅ〜? 眠いしめんどくさい〜」


 「わざわざ全員集まったということは、まさか」


 メリナの呟きにエリスが腕を組みながら返答する。



       「黄昏トワイライト全員参加での重要任務よ」


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