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長い付き合いになりそうですね?

 「ぎゃあぁぁぁ!!!!!! う、腕ぇぇ!!」


 パナマは剣を握っていた腕を斬り落とされて絶叫する。


 アイトが突然後ろを向いたのは完全にフェイク。戦闘中に意味もなくそんな行動をするわけないと思わせ、動揺させるのが狙いだった。


 そしてアイトの目線はパナマの方を向いていなかったが、下から斜め上に振り上げた高速剣が、パナマの左腕を斬り落とすに至る。


 これもアーシャから教わった技術である。


 「これで終わりだな」


 「ま、待てっ‥‥‥!!!」


 アイトはその場に膝をつくパナマに近寄り、聞く耳を持たずに剣を振り下ろした。


 相手は自分の平穏を脅かそうとした存在。しかも『ゴートゥーヘル』と関係している。一切の躊躇が無かった。



     「パナマさん、ヘマをしましたねぇ〜♪」


        「! な、何しに来た!!」



 だがアイトの剣がパナマの首に届く前に、当然異空間から現れた少女のナイフに遮られる。


 「お前は‥‥‥!」


 アイトは驚きのあまり、その少女を凝視してしまう。


 女の外見は黒髪サイドテールの低身長。ターナとあまり変わらない身長だった。


 そしてアイトには、この少女を最近見た記憶があった。


 「第三席のウチによくそんな口を叩けますね〜?

  目的通り、ちゃ〜と集められましたか?」


 「‥‥‥しっかり集めたわい!! ここにある!!」


 クロエと呼ばれた少女とパナマが話す間に、アイトは胸騒ぎを覚えた。


 「()()()‥‥‥?」


 アイトの声が聞こえたのか、クロエが正面を向く。


 「あれ、このクロエちゃんに見惚れちゃいました?

  もしくは、あの時の舞踏会にいたんですか〜♪

  あそこの水色髪の女の子、見たことありますもん。

  暗躍してたのはお互い様らしいですねっ♪

  これから長い付き合いになりそうですね?

  謎の組織の代表、レスタさん♪」


 「‥‥‥そうか。お前が舞踏会の首謀者、そしてーーー」


 クロエが目を見開く。視界の端からアイトの剣が迫り寄っていたからだ。


      「あのサイコ野郎の仲間か!!!」



         アイトは剣を薙ぎ払う。



           「無駄ですよ」


            「っ!?」


 アイトの剣はクロエの首に触れた途端に弾かれる。だが今のアイトはその程度で動揺しない。弾かれた瞬間には逆の手で魔法を発動しようとしていた。


     「あ、気をつけてくださぁい。

      ウチ、こう見えて外道なんで♪」


 クロエがそう言った途端に魔法を発動。それは、振動魔法だった。


          「【土旋回どせんかい】」


 地面を抉るほどの衝撃波がアイトの隣をすり抜ける。


 アイトはクロエが魔法を放った方角に心覚えがあった。ユリア率いる一年生が移動した方角。凄まじい音を立てて衝撃波が離れていく。


 「これで何人死にますかねぇ〜♪

  って死体が弾け飛ぶんで数えられないか。

  ‥‥‥って聞いてます?」


 クロエが話す間にアイトは放たれた衝撃波に回り込む。


        「【ブラックソード】!!」


 アイトの愛剣、聖銀の剣が黒くなる。アイトはその剣を持ったまま衝撃波へ飛び込む。その直後、剣の一振りで衝撃波が飛散した。


 「優しいですね? 甘いですね? 人間らしいですね?

  あんなの嘘に決まってるのに〜♪」


 アイトも一年生狙いで魔法を発動したのはデタラメだと感じていた。だが万に一つの可能性を頭から振り払うことができなかった。


 アイトはアーシャの修行を経ても変わらなかったものがある。


      それは、人としての思いやりだった。


 

 「そんな人が組織の代表なんて。

  面白いものも見えたし、帰りますね〜。

  レスタさんとその他の皆さん、お疲れ様でした〜♪」


 クロエが笑顔で手を振っていると、彼女の隣に再度異空間が出現する。その異空間は、闇属性魔力を孕んでいた。


 「そういうわけなんだ。じゃあねレスタ君」


 異空間の向こう側、そこにはアイトにとって忘れられない男が立っていた。銀髪で常にニコニコ笑っている男。


 かつてターナの腕を切り落としたその男を、アイトは1日も忘れたことがなかった。


 「お前は‥‥‥!! 待てっ!! この外道がっ!!」


 アイトが突撃した瞬間にクロエはパナマを連れて異空間に飛び込み、この場から離れた。


 「はぁっ!!!」


 アイトが距離を詰めて剣を振るが、もう自分と同じ空間にはいなかった。


 「‥‥‥逃げられた」


 相手の誘導に引っかかって逃げられたという事実が、アイトに後悔をもたらす。


 「くそっ‥‥‥くそっ、クソッッ!!!!」


 悔しさのあまり、アイトは奥歯を噛み締めるのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 結界の範囲外。


 (システィアさん、ジェイクさん。無事でしょうか。

  いや、アイトくんが暗躍してるはず!)


 1年生たちと移動を始めたユリアは結界内に残ったシスティアとジェイクを心配していた。


 ちなみに崖から落ちたアイトは彼自身の演技だと思ってるため全く心配していない。


 「お、おいあれ見ろ!!!」


 男子生徒が声を上げた方を向くと、大量の魔物がこちらに向かって来ていた。


 (なんですかあの数‥‥‥!? このままだと‥‥‥!)


 「今は考えるよりも足を動かせ!!」


 ユリアの思考が止まった途端に、システィアとジェイクを抱えたメリナが一年生集団の少し前に降り立つ。


 「あ、あなたはさっきの!」


 「説明は後! この子たちを頼んだ!!」


 メリナは近くにいた1年生集団へシスティアとジェイクを投げ飛ばす。驚きながらも生徒たちは意識のないシスティアとジェイクを受け止めていた。


 (あの大量の魔物、私だけで討伐できるだろうか‥‥‥!

  とりあえず、今は一年生が逃げるための時間稼ぎを)



         「お疲れ様。後は任せて」



 メリナは突然聞こえた声の方を向く。すると空から1人の少女がメリナの前に舞い降りる。長い金髪にメリナと同じ特殊戦闘服を身に纏っていた。



            「エリス!」



 メリナの声に一瞬微笑んだ直後、エリスの両目は水色から赤に変わり、そのまま真紅へと変化を遂げる。


 そして瞳に刻まれた勇者の聖痕が明滅する。エリスが【魔戒まかい】を発動した。


 エリスの周辺には風が舞い始め、メリナはその光景を固唾を飲んで見守る。


 「ぐっ!」


 すると、エリスから突風が巻き起こる。メリナはその風圧に飛ばされないように膝を曲げて必死に踏ん張る。


 そして突風が魔物たちの間を通過する。その直後、大量の魔物は声を上げる間もなくその場に倒れて絶命した。


 「さ、さすがエリス。本当に味方で良かったよ‥‥‥」


 「‥‥‥まだね」


 エリスがそう呟くと、絶命した魔物たちの中から1匹だけ立ち上がる。


 「なんだお前はっ!! 今何をした!!!」


 立ち上がった魔物が怒声を上げて歩き始める。メリナはその魔物を見て顔を顰めていた。


 「っ‥‥‥!! なんであの群れに魔族が‥‥‥!?」


 「おそらく上級魔族ね」


 「うそっ‥‥‥!!」


 淡々と言ったエリスの発言にメリナは驚き、同時に恐怖を覚える。


 そもそも魔族は魔物の中でも上位に入る強さを持つ。下級魔族でも並の人間ではまず倒せない。


 そして上級魔族は、下級の比ではない。一匹で一国を殲滅しかねないという見解がこの世界での通説である。


 しかも前に出現した上級魔族は、アイトと『ルーライト』の隊員、シロア・クロートが共闘して倒したという情報をメリナは聞いていた。


 いくらそのときのアイトが力を隠していたとしても、2人がかりで苦戦したという事実がメリナをさらに恐怖させている。


 「落ち着いて。舞踏会の時に彼は上級魔族を

  秒殺したと報告があったわ。

  だから決して不可能なんてない。

  私が彼の隣を歩けることを今から証明する」


 「え、エリス‥‥‥」


 「メリナ、大丈夫だとは思うけど一年生を守って。

  彼の指示よ。失敗は許されないわ」


 メリナは今回のアイトの命令を思い出す。


 それは『1年生を守ること』、『無理をしないこと』。


 この命令を聞いた時、彼らしいなとメリナは微笑んでいた。その気持ちを呼び覚ましたことで落ち着きを取り戻したメリナが、はっきりと頷く。


 「代表の命令‥‥‥そうだったね‥‥‥わかった。

  私が絶対守る。それじゃあ、まさかエリスは」


 エリスはわかりきった返事はせず、メリナの前から突然と姿を消す。


   「無茶だ! さっきのでかなりの魔力をっ!!」


     そんな大声を出す、メリナのはるか先で。



      エリスの剣と魔族の爪がぶつかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 学園内。


 「失礼します! 不躾で申し訳ない!!

  3年Aクラス、シロア・クロートさんはいますか!」


 教室に入ってきた教師ともう1人に生徒たちが注目した後、全員が呼ばれた名前の少女を見ていた。


 「‥‥‥(ぐでー)」


 その少女は机に突っ伏してぼんやりしていた。


 「あ、あの。シロアさんですね?」


 声をかけに来た先生が動揺するほどシロアはのんび〜りしていた。


 「シロア!! 隊員としての任務よ! 行くわよ!」


 「‥‥‥(ガバっ、キョロキョロ)」


 聞き覚えのある声で呼ばれたシロアはすぐに上体を起こし前を見る。


 「‥‥‥(ハッ)」


 自分の前には先生と、マリア・ディスローグが立っていた。


 「‥‥‥(ガタンッ!)」


 すぐにマリアの隣に立つシロア。


 「シロア、隊服は自分の部屋でしょ?

  転移であたしも連れてって。

  そこで着替えた後、すぐに出発よ」


 「‥‥‥(ジ〜)」


 「大丈夫。任務の詳細は着替えながら説明するわ」


 「‥‥‥ぼそ(【メタ】)」


 聞きたいことが聞けて安心したシロアは自分の腕を掴んだマリアと共に自分の部屋へ転移するのだった。

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