利用するなんてな
「はあ、はあ、はあ‥‥‥」
死闘を制したのは、謎の少年ことレスタ‥‥‥いや、アイト・ディスローグ。
疲労が限界まで溜まっていた。
「レスタ様!」
エリスが駆け寄って来る。アイトは意識が朦朧としていたため反応に遅れる。
「あ、ああ、エリス。か、勝ったぞ‥‥‥」
「はいっ!! さすが私の主です!」
「ははっ、そうだな‥‥‥エリス。あのボスを見張ってくれ。俺はターナに合図を送る」
「了解しました!」
エリスが、倒れているラルドの近くまで移動する。
(ぁ〜しんどかった‥‥‥)
そして、アイトは重い足取りで窓の方に向かう。
◆◇◆◇
暗殺組織『ルーンアサイド』本拠地、周辺の森。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
ターナは大勢の暗殺者を引きつけ、懸命に時間を稼いでいた。
「ハアっ、ハァっ、まずいな‥‥‥」
息が激しく乱れるターナ。彼女の体には、いくつもの切り傷。
(まだなのかっ‥‥‥)
ターナは睡眠魔法を付与した針や短剣を駆使して敵を眠らせ、森を動き回っていた。ターナに同僚を殺す気はない。
30分が経過した頃には、半分近くの敵を眠らせていた。だが、そろそろターナ自身の限界が近い。
「3人だけは、無謀だった‥‥‥」
アイト、エリス、ターナ。3人の中でラルドやミストと戦うとすれば、1番不利なのはターナ。情報を知り尽くされているからだ。
だから彼女は陽動役に回った。
作戦ではアイトVSラルド。エリスVSミストの構図になる。
(勝算が少な過ぎたかもしれない‥‥‥)
アイトがラルドに勝てると、ターナは正直思っていなかった。だがアイトの実力は、まだラルドに知られていない。
その有利性と、他にも何か力を隠している事に賭けたのだ。【打ち上げ花火】のような、奇想天外な魔法を使うアイトなら、と。
「森じゃなかったら、ボクも詰んでたな」
ターナは‥‥‥244人の追跡を躱し続けた。30分持ち堪えたことは、ターナだからできた芸当だった。
「いや、もう詰んでるか‥‥‥」
そして手持ちの針が無くなり、満身創痍で木の後ろに隠れる。
ドォォォォォンッ!!!
本拠地の窓から凄まじい音と光が炸裂する。ターナは、その意味を知っている。
(来たっ合図だ‥‥‥!! 本当にボスに勝ったのか、レスタっ‥‥‥!!)
ターナは待ち侘びたと言わんばかりに、本拠地へと足を進めるのだった。
◆◇◆◇
「よし。これでいいな」
アイトの必殺【打ち上げ花火】が、上空で炸裂する。これが、ターナと話し合って決めた合図。
アイトとエリスが、ラルドとミストに勝ったこと。
そして、本拠地を制圧したことを知らせる合図。
「しょ、少年。なにを、した‥‥‥」
床に倒れているラルドが問いかける。近くにいるエリスは、何かしてくるかもと警戒心を強く持つ。
だが、アイトは警戒する事なく素直に話した。
「合図だよ。ターナへの合図」
「あ、合図だと‥‥‥やはりターナと手を組んで攻めてきたというわけか。な、なぜだ‥‥‥」
「なぜって、そんなの」
そして、アイトは気づいた。
ここにある魔法や貴重品を掻っ攫うこと。そんな山賊みたいな理由、納得されるわけがない。
下手をすれば、ラルドが逆上して再度戦うことになりかねない。
「‥‥‥真相を知るためだ」
そこでアイトは、なんとなくの返事した。咄嗟に思いついた言葉を呟き、両腕を組んで壁にもたれる。
「ーーーさすがレスタ様です。やはり、気づいておられたのですね」
すると、エリスが嬉しそうに微笑む。
(ん‥‥‥?何に??)
アイトは視線を下げて冷や汗を流す。ただ思い付きで話しただけで、意図なんてない。
そんな事には気付かず、エリスの話が続く。
「ターナの弟を誘拐したのは‥‥‥彼ら『ルーンアサイド』じゃないことに」
「‥‥‥そうだ」
アイトは全くわかってなかったが、空気を読んでとりあえず肯定した。
「ターナの弟を、誘拐だと‥‥‥なんだそれは!? あいつは、ヨファは無事なのか!?」
ラルドがまるで初めて聞いたような反応を見せ、明らかに取り乱す。
「はい、無事です。その反応を見たところ、やはり無関係なんですね。では、私の仮説を説明します」
そして、エリスは全てを知っているかのように‥‥‥名探偵のように話を進める。
「まず、犯人はヨファくんを誘拐。『ルーンアサイド』の拠点の1つである、あのお屋敷に拘束して隠します」
(‥‥‥それで?)
ちなみに内心で問い返したのは、アイトである。それは完全に傍観者の振る舞い。当然、エリスは気付かずに話し続ける。
「そして、ターナに後日そのことを伝えて『ルーンアサイド』と衝突させるつもりだった。狙いは暗殺組織『ルーンアサイド』の力の削減‥‥‥いや、壊滅」
アイトは、以前に感じた違和感の理由に気づいた。
(言われてみれば、変だ)
それは‥‥‥ヨファを誘拐していたにも関わらず、見張りが全くいない場所に放置していたこと。
あれはヨファの誘拐を『ルーンアサイド』が行ったように見せるために、犯人が隠したのだ。
「ですが、この計画で誤算が生じた。まずターナが私たちを誘拐犯と誤解し、鉢合わせたこと。次に、私たちがヨファくんを救出してしまったことです」
(え、俺たちも関係してるの!?)
何も話についていけないアイト。分かりやすく説明するかのように、エリスは言葉を続ける。
「犯人の計画は崩れましたが、結果的にターナが本拠地を攻めることは変わらなかった」
ここでアイトは、何となく勘づく。
「だから放置したのでしょう。でもここで最大の誤算が生じた。それは、私に負けてしまったことです」
(‥‥‥つまり? あ、そういうこと!?)
そして、アイトは話の展開を理解した。殆ど答え合わせが終わった今になって。
「!? ではっ、計画を立てた犯人は!?」
ラルドが驚いた様子でエリスに発言を促す。まさに探偵に話を促す一般人のように。
そして、エリスは‥‥‥今も倒れている彼女に目を向ける。
「ええ‥‥‥あなたの側近、ミストさんです。正確にはミストさんに変装した誰か、ですけどね」
「‥‥‥変装、だと? あそこで倒れているミストはっ、別人だと言うのか!?」
「はい、間違いありません。明らかに顔に何か魔法を付与してるのが、はっきりと分かるので」
(勇者の魔眼、すご‥‥‥)
アイトは素直に敬服していた。真実を見通す力を持つ『勇者の魔眼』、まさに万能。
話を続けるエリスが、名探偵に見えて仕方がなかった。
「おそらく、魔法で顔を変えているのでしょう。そんな技術があるのは驚きですが」
「だが、私は気づかなかったぞ。確かなのか?」
ラルドが疑うように問いかける。
「間違いないです。私にはこれがあるので」
すると、エリスは自分の目の染色を解く。水色から赤色に変化し‥‥‥露わになった。
「‥‥‥もしやっ、勇者の魔眼‥‥‥!?」
ラルドが、彼女の両眼を見て限界まで目を見開く。そして、彼女の近くにいる少年へと目を向ける。
「ゆ、勇者の末裔が、この者の下についてるというのか‥‥‥!? この少年、何者だ‥‥‥!?」
歴戦の猛者であるラルドが慌てふためいめいる。魔眼持ちは、それほどの存在なのだ。
「なあエリス、魔眼のこと言ってよかったのか?」
これまで空気だったアイトは、思わず声をかける。知られたくないであろう、彼女自身の秘密を心配して。
「大丈夫です。私に考えがありますので」
(大丈夫なの? 広まったらマズイでしょ?)
でも、本人がそう言うなら『ま、いいか』と楽観的になるアイト。
「魔眼持ち‥‥‥しかも勇者の末裔、それは朗報だ‥‥‥!」
ここで、アイトにとって予想外のことが起きた。
「お前っ‥‥‥!!」
床で寝ていたミストらしき女が、勢いよく起き上がる。真犯人である彼女は卑しい笑みを浮かべ、部屋の外へと走っていく。
「しまっ!!」
急な出来事で疲労で体も動かないアイト。エリスは何も対処しない。
「ゴフッッッ‥‥‥!!? き、貴様‥‥‥!!」
女が廊下に出た瞬間、首から血を吹き出してその場に倒れる。そして、彼女はピクリとも動かなくなった。
「あっ」
死んだ女の隣に立つのは、満身創痍の姿である少女。アイトは思わず声を出して、自分の取り越し苦労を悟った。
「ーーーまさか、ボクを利用するなんてな。今死んだこの女も、そしてお前も」
現れたのは、凄まじい返り血を浴びたターナだった。全身真っ赤の彼女に対し、エリスは穏やかに微笑む。
「あら、今はあなたがその者と偶然鉢合わせただけですよ?」
「よく言うよ。その魔眼とやらで、ボクがここで聞き耳を立てていたのを知ってたんだろ?」
ターナの容赦ない追及が、エリスの笑顔を少し崩す。
「‥‥‥お互い利用したってことで、これで貸し借りなしですね♪」
そして、エリスは可愛らしく白状した。ターナがやれやれと息を吐き、近づいてくる。
「「‥‥‥」」
そして、この状況に全く対応できないアイトとラルドだった。




