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悔いはない

 それから数分後。


 「申し訳ありませんボスっ‥‥‥この失態は腹を切ってお詫びしますぅぅ!!!」


 本物のミストが、腹に短剣が刺さって倒れているボスに泣きつく。


 「私が気付けなかった落ち度もある。全てがお前の責任ではない。だから、今あまり体を揺らすな‥‥‥」


 「え!!?血だらけじゃないですかっ、今すぐ手当しますぅぅぅ!!!!!」


 本物のミストは大慌てでラルドの手当を始める。



 彼女は、先ほど死んだ女に空間魔法で捕えられていたのだ。女が死んだことで魔法が解除‥‥‥下着姿の本物ミストが出てきたという仕組みである。


 服は犯人が変装のためにミスト本人から剥いでいたのだ。体格も似ていたため、変装の質は高かった。


 そして死んだ女はどうやら魔法で顔を変えていたらしく、死んだ事で素顔が露わになった。


 その顔は、金髪の30代くらいの女性。誘拐犯の1人の特徴と一致する。


 そしてもう1人の仮面をつけていたという人物はどこかわからない。


 「まさか組織のナンバー2であるミストが、本当はこんな年相応だったとは‥‥‥」


 「そう言ってやるなターナ。側近の位についてるがまだ子供だ。年もお前と近い。本来の性格を隠してたのだ。組織の威厳にかかわるとな」


 驚くターナにラルドが説明する。ターナはハッと気付いた様子で頭を下げた。


 「‥‥‥すいませんボスっ、本拠地を攻めてしまいました!組織が、ボスがヨファを誘拐するわけないと思ってましたが、事実を確認したく!!」


 「謝るなターナ。謝るのは私の方だ。良いように何者かに利用されてしまった。そしてヨファとお前を危険な目に‥‥‥すまなかった」


 「ボス‥‥‥」


 ターナが頭を下げた状態で泣き始める。


 (親玉、分別がある良いやつじゃないか。仕事に就くならこんな上司が良いな)


 そんなことを考えているアイトに、手当を受けている最中のラルドが話しかける。


 「少年。巻き込んですまなかったな。もしかしたら殺してしまってたかもしれん」


 「いやいやいや!こちらこそ腹に短剣ブッ刺してごめんなさい!医療費とか、払いますんで」


 「なんですって!!?あなたがボスにこんなケガ負わせたのですか!?許しませんンン!!」


 「グェッ」


 激昂したミストがアイトの首元を掴みかかる。その光景を見て、ラルドは高らかに笑い始めた。


 「ふっ、はっはっはっは!!!少年よ、本当に読めない男だな、貴公は。だが、貴公に負けたことに悔いはない」


 「ボス‥‥‥」


 「ぷはっ」


 ラルドの発言を聞いたミストがアイトから手を離す。


 「あれ‥‥‥」


 するとアイトは、突然疲労感に襲われて身体が傾く。このままでは、うつ伏せに倒れようとしている。


 「レスタ様!!」


 それをエリスが支え、そのまま床に寝かせる。そしてアイトに膝枕をするのだった。


 「さすがに少年も疲れたようだな。そして私は、歳だな‥‥‥敵の変装すら見分けられんとは」


 「ボス‥‥‥」


 「それに部下たちにも迷惑をかけた。これは、そろそろ潮時かもしれんな」


 「え? 潮時って‥‥‥?」


 「引退だ。この組織の地位を誰かに譲る」


 ラルドは、はっきりと宣言する。


 「っ、ぼ、ボス!!」


 「ボス‥‥‥」


 ミストが絶叫し、ターナが震えながら声を上げる。


 「‥‥‥別に、まだ引退しなくて、いいだろ」


 そう言ったのはアイトだった。エリスの膝の上で、ラルドに話しかける。


 「親玉、超強かったし。血液なんたら、あれずるいわ。死ぬと思ったのは、生まれて初めて‥‥‥」


 「少年‥‥‥」


 「みんなにも慕われてるし強いし、これからも続けて、いいだろ‥‥‥それでも引退するっていうから止めはしないけど‥‥‥」


 「いや、だがしかし」


 「引退するなら、失態の責任を取るとかじゃなくて、自分の意思で引退を決めるべきだと思う‥‥‥それに」


 「な、なんだ?」



 「引退する前に、【血液凝固】を俺とエリスに教えて欲しいくらい、だ‥‥‥」



 言いたいことを言い切ったアイトは、意識がぼんやりし始める。


 「少年‥‥‥ふっ。はっはっはっ!!!何十年も生きたこの私が、成人していない其方に幼稚だが、当たり前のことを教えてもらうとはな!!!」


 「ぼ、ボス?」


 ミストが心配そうに呟くと、ラルドは大声で宣言する。


 「決めた!! 私自身の意思に従おう!!」


 「‥‥‥そう、か‥‥‥」


 アイトはその言葉を聞いて安心したのか、やがて意識を失うのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「意思に従って、貴公に仕えたいと思う」


 「‥‥‥」


 アイトは意識を失っているためラルドの話は聞こえていない。


 「幼い身で私に勝った実力。暗殺が本業である私を何回も出し抜いた戦略性。勇者の末裔を部下にするほどのカリスマ性」


 ラルドは次々に、賞賛の言葉を羅列していく。


 「そして何より、言い表せない魅力。貴公に感服した。自分の意思に従って、貴公に仕えたい」


 「あの、ボスさん? レスタ様、意識を失ってますが」


 エリスは自分の膝に乗せているアイトの頭を優しく撫でながらラルドに伝えた。


 「む?そ、そうか。私を含む『ルーンアサイド』の全構成員がレスタ殿の傘下になろうと伝えようとしたのだが。では意識が戻ってから話そう」


 「いえ、私が聞いているので大丈夫ですよ。実は前から、レスタ様と()()を作ろうと言っていましたので」




 1週間前の深夜。


 『やはりアイト様の組織を作るべきです!アイト様は多くの人の前に立つお方!今すぐにでも行動しましょう!アイト様、組織作った方がいいと思いますよね!?』


 『ああ、うん。いいと思うよ?』


 これが眠たいアイトが適当に肯定した覚えがあった会話の内容である。




 エリスはその事を、ラルドに詳しく話した。


 「なに?この年齢で勇者の末裔である其方を部下に持つだけでなく、組織を率いるつもりだったとは‥‥‥はっはっはっ! 本当にこの少年は面白い!」


 ラルドは、嬉しそうに宣言する。


 「将来がこれほど楽しみな男はいない、やはり私はこの者についていきたい!」


 「ふふっ、ボスさんもレスタ様のカリスマ性に当てられたのですね。そのお気持ち、わかります!」


 興奮した様子で大声を上げて賞賛するエリス。


 「でも『ルーンアサイド』の皆さんが加入してくれるなら、組織の準備でレスタ様の手を煩わせることがなくなりそうです。すごく申し訳なかったので」


 「安心してくれ。我々が総力を上げて少年の組織立ち上げに協力させてもらおう。これから、よろしく頼む」


 「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 エリスとラルドが気を失っているアイトの上で握手を交わす。アイトが全く聞いていない今の状況で。


 「ウソだろ‥‥‥ボクが、こいつの部下に‥‥‥?」


 驚愕で声が出ないターナ。その目には絶望が。


 「え?ボス、この人の下に就くんですか??ボスが引退しないならなんでもいいですぅ!!」


 あまり状況がわかっていないミスト。


 こうして、アステス王国最大の暗殺組織、『ルーンアサイド』は少年と少女に敗北を喫した。


 そして‥‥‥新たな組織が結成されるのも、秒読みとなる。

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