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幕間 ーーーーーーを継ぎし者?

 舞踏会騒動から4日後、エリスたちの潜伏拠点『マーズメルティ』。


 グロッサ王国の王都南地区で営業しているこの店は、現在臨時休業となっていた。その理由は、完全な私情。


 「あと3日っ‥‥‥お兄ちゃん、お兄ちゃ〜ん♡」


 諸事情で組織から離れていた自分たちの代表、『天帝』レスタが帰ってくるのだ。


 黄昏トワイライトの王国潜入組は、レスタを迎えるための準備を着々と進めていた。


 「リゼッタ〜! 一緒に買い出しいかない?」


 「いく、うんいく」


 カンナとリゼッタは外へ買い出しに。


 「おにい、ちゃん♡ お兄ちゃん‥‥‥♡」


 ミアはトリップしながら飾り付けを。


 「zzz〜んにゅ‥‥‥」


 アクアは寝ながら店内の気温調節を行っていた。


 エリスは本拠地に用があるため不在。そんな中、騒動は起きた。



 「ごめんなさい、少し遅れたわ」


 昼頃、会議を終えたエリスが『マーズメルティ』の扉を開けるとーーー。



 「ミアが1番合ってるでしょ!?

  ふざけんな青髪女!!」


 「違うー、あーしがいちばーん〜」



 ミアとアクアが言い合っていた。片方は店を壊しかねないほどの呪力を纏って怒鳴り、もう片方は椅子に身体を預けて欠伸をしている。


 エリスは思わず扉の前で足を止めてしまう。


 (アクアが相手の話を聞いて言い返してる?

  ‥‥‥興味を持つ話題って何なのかしら)


 今のアクアがあまりにも希少なものであると直感し、2人の言い合いに耳を澄まして彼女を引きつけた話題が何か探っていた。


 「エリス!! お願い助けて〜!!」


 「ちょ、ちょっと」


 すると目をうるうるさせたカンナがエリスに抱きつく。その様子からパニックになっているのは間違いない。


 「私のぜいなんだあぁっ! わだじのせいでぇぇっ!」


 「‥‥‥カンナ? ミストみたいに泣かれても

  内容が全く伝わってこないわ。落ち着いて話して?」


 彼女の背中を摩りながら平然と失礼なことを言うエリス。カンナはハッとして抱擁を解くと鼻を啜り、やがて経緯を話し始めた。


 「じ、じづはねーーーーー」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 それはエリスがやってくる30分前。


 カンナたちは着々と準備を進め、少しの間休憩を取っていた。


 カンナ、アクア、ミア、リゼッタの4人は同じテーブルに向かい合うように座って話をしていた。とはいってもミアは全く口を開かずに明後日の方向を向き、アクアは案の定寝ていたが。


 つまり、楽しく会話をしていたのはカンナとリゼッタ。


 2人はミルドステア公国で起きた騒動について話し合っていた。やがてどんな人物が関わったのかという話に転換し、ステラ王女とマリア・ディスローグの話が出る。


 「マリア嬢ってレスタくんのお姉さんだったよね。

  良いよねぇ〜昔からのレスタくんを色々知ってて」


 「たし、かし」


 「お姉さんの名前がマリア・ディスローグってことは。

  レスタくんの本名ってーーー」


 「アイト・ディスローグ」


 カンナとリゼッタはギョッとする(リゼッタは顔に出ていない)。寝ていたアクアが突然声を出して教えてくれたからだ。


 「あ、ありがとう! そっか家名はディスローグか〜!

  ‥‥‥下にも名前があるって、ちょっと憧れちゃう」


 カンナの声は最後の方が小さくなっていたためリゼッタには聞こえていなかった。


 カンナは拾われっ子ながら『無色眼』を宿していたため、謎の宗教団体に祀りあげられていた。


 家族との日常生活。そんなありふれた幸せを微塵も知らない。


 (家名か‥‥‥そういうのでも人と繋がってるって

  実感できるのかな。だとしたら羨ましいなぁ)


 それどころか彼女は両親が誰か、兄弟がいるかどうかも分からない。どこかで生きているかもしれないし、既にもうーーー。


 「かんな? どう、どう?」


 気分が暗くなっていると上目遣いのリゼッタが控えめに肩を揺すったため、すぐに首を振って意識を戻した。


 「‥‥‥ん〜ん! 何でもない!

  自分に家名があったらどんな感じか考えてたの!」


 「たと、えば?」


 リゼッタに首を傾げられると、カンナはドヤ顔でこう言い放つ。過去最大と言ってもいい火種になることを知らずに。



    「カンナ・ディスローグとかどうかな〜!」


          「は?????」



 カンナの発言から1秒にも満たない間で返事が飛ぶ。その声はリゼッタじゃない。


 声の主は、今まで全く会話に参加してなかった黒と白髪が混じった少女。カンナに殺意を向けてギロリと睨んでいる。


 「み、ミア? 急にそんな声出されると怖いよっ!?」


 「は?? 何よその顔???

  あんたが意味不明なこと言ったからじゃん。

  お兄ちゃんは、私のなんだから」


 ミアは顔を下げていて耳付近の長い髪が視線を遮っている。そのため今どんな顔をしているか分からない。


 だが、声には明らかに威圧感が乗っていた。


 「別にレスタくんは誰のものって話してないよ!?

  思いついた家名がレスタくんのだっただけで〜!」


 カンナは両手を必死に振って早口で弁明する。ミアは全く聞く耳を持っていない(普段から)。


 「ね!? リゼッタもそう思うよね!」


 思わずリゼッタに助けを求めて視線を向けるとーーー。


 「りぜ、たでぃす、ろーぐ。いい、かも」


 リゼッタは、ほんの少しだけ口角を上げて呟いていた。


 (リゼッタも過敏に反応してるっ!?

  ど、どしたのリゼッタ!

  普段はそんな子じゃないでしょ!!)


 そんなリゼッタに驚いていると、ミアの耳がピクリと動いた。


 「なに紫女、あんたも死にたいわけ?」


 「? ミア、どしたの、こわこわ」


 ミアの圧でようやく我に返ったリゼッタは怖くて震え出す(無表情は変わらない)。


 「お兄ちゃんの家名は、ミアに1番合ってーーー」



        「あーしが1番合ってる〜」



 ミアに被せて言った少女は、長い青髪を振って頭を机からゆっくり上げた。


 (アクア!? 自分のこと『あーし』って呼ぶの!?)


 カンナが驚くポイントはどこかズレていた。


 「あー、し?」


 リゼッタも同様だった。ともすればズレているのは2人ではなくむしろアクアの方かもしれない。


 それほど彼女は組織の中で異質で謎が多い存在である。会話がろくに成立しないのが主な原因だが。


 「はー??? 青髪女、何か文句でもあるの??」


 ミアがアクアに額を寄せて、至近距離から睨む。予想通りと言うべきか、アクアは全く動じていない。


 「あるよー。あーしはあるじに養ってもらうからー。

  だからアクア・ディスローグは譲れないー」


 こんな爆弾投下な発言を平気で行うほどの空気の読めなさである。


 「はぁ!? ふざけんなっ!!」


 「ふざけてないー」


 「ふざけんなっ!!」


 ミアが指でアクアの頬を押して突き放すと、アクアの頭がゆらりと揺れる。


 「ふざけてな‥‥‥んぁ」


 「寝んなっ!!」


 「落ち着いて〜!!!」


 カンナの声が届いていないミアは痺れを切らして呪力を飛ばすと、アクアの右手に魔法陣が浮かび上がる。右手から飛び出した水が壁を作り、ミアの呪力を包み込んだ。


 「っ! 【ムラサキ】!!」


 椅子から立ち上がったミアは紫色に変化した呪力の塊を連続で放つ。だが、アクアの右手から発動される水魔法により、悉く防がれた。


 「zzz‥‥‥あくあ‥‥‥でぃすろーぐぅ〜‥‥‥♪」


 しかもこの攻防の中、アクアはずっと眠ったまま。


 「〜〜!!! 呪い殺すッ!!!!」


 ミアが出力を上げて大量の呪力を纏い始める。


 「待って待って待って落ち着いてぇ〜!!!」


 「どう、どう」


 カンナとリゼッタの声は2人に届かない。これがエリスが来るまでの出来事である。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「‥‥‥へえ、そんなことが」


 「ってわけでエリスお願い! 力を貸して!」


 カンナは両手を合わせて頭を下げる。しばらくの間エリスの反応を伺っていた。


 「‥‥‥」


 「あ、あの? エリス? ど、どうしたの?」


 だがエリスは声を発さない。疑問に感じたカンナは頭を上げると、もう視界に彼女はいなかった。


 「やめなさい2人とも、みっともないわよ」


 そしてアクアとミアの間に割り込み、お互いの手を掴んで押さえていた。


 (さっすがエリス! 本当に頼りになるっ!)


 カンナはエリスが女神に見えていた。いつにも増してエリスが美しく見える。


 「エリスっ、ありがど〜!!」


 カンナは目をうるうるさせてエリスに抱きつこうと足を動かしていた。



   「なに的外れなことを言い合っているのかしら」



          「‥‥‥べっ???」



      ーーーエリスの言葉を聞くまでは。


 カンナは訳がわからないと言った様子で動けないでいると、無表情のエリスが淡々と述べる。


 「エリス・ディスローグが1番合ってるわ。

  異論は誰であろうと認めない。わかった?」


 (‥‥‥エリスもあっち側だったぁぁぁぁ!!!?)


 どこか挑発するように言い放つエリス。カンナは頭を抱えてよろめいていた。


 そしてこれまでの中で最大の険悪な雰囲気が辺りを包む。すでにリゼッタは端っこで震え上がっていた。


 その空気を切り裂くのは、エリスの発言に納得のいかない2人。


 「は??? とうとう本性出したな金髪女。殺す」


 「えー、エリス相手はめんどくさいよー」


 「でもあなたたちに引く気はないでしょ?

  だから今から訓練場で白黒つけましょう」


 「ハッ! 上等よ、皆殺しにしてやるっ!!」


 物騒な言葉を放ち、握り拳を作ってエリスを睨むミア。


 「じゃあ連れてってー」


 「なんで私!?」


 「今パシリいないんだもーん」


 そしてカンナの背中に飛び乗ったアクア。明らかに人の背中に飛び慣れていた。


 ちなみに、アクアの言うパシリには全員心当たりがあった。誰も彼女の名を出さなかったが。


 「り、リゼッタ〜? リゼッタも一緒にーーー」


 「‥‥‥やめ、やっ!(ブンブンブンブンブンブン)」


 カンナが尋ねるよりも早く、リゼッタは超速で首を横に振り続けていた。




 エリス、カンナ、アクア、ミアの4人が本拠地に転移すると、エリスが真っ先に歩き始める。


 「行くわよ」


 「命令すんなっ!!」


 「れっつごー」


 それに文句を言うミア、カンナに歩けと急かすアクア。


 「お、おいっ! あのお方たちは!!」


 「『黄昏』の4人よ!! はぁ〜神々しいっ!!」


 「ち、近づけねえ」


 本拠地にいる構成員たちが驚きと感嘆の声を漏らす。エリスたちは『天帝』レスタに次ぐ存在なのだ。


 (や、やべぇ〜! どどどうしよぉ〜!)


 カンナは冷や汗を流していた。そして背中にアクアを乗せたままエリスたちの後ろを歩く。


 (うぅ‥‥‥なんでこんなことに。‥‥‥あっ!

  アクアとミアの技を見れる機会なんて滅多にない!

  むしろ、これはチャンスなのでは‥‥‥! やった!)


 気付けば手を握り締めてガッツポーズをするカンナ。こんな極限状態でも前向きな彼女は『黄昏トワイライト』、いやエルジュで1番能天気ーーーいや心が強いかもしれない。



 エルジュ本拠地、訓練場。4人が、向き合う。


 「さ、始めましょうか」


 「お手柔らかに〜!」


 「ふわぁ〜んぅ〜」


 「殺す殺す殺す‥‥‥」



   勇者の末裔VSコピー使いVS水の達人VS呪術師。



   豪華すぎる4人によるバトルロワイヤルが始まる。


    その結末は、当事者の彼女たちしか知らない。

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