幕間 『残虐』な彼女の出来上がり
『エルジュ』が結成する前。
グロッサ王国の隣国、アステス王国内の最大暗殺組織『ルーンアサイド』。
まだ若年でありながら天才と称賛され、凍りつくような視線と冷静な態度、任務を淡々にこなす少女はこう呼ばれていた。
「よぉミスト! 俺、この前重要任務を遂行したぜ!」
「そうですか、相変わらずですね。名前は‥‥‥」
「デストだっ!! いい加減覚えやがれ!!」
ラルド・バンネールの側近、『残虐』ミストと。
ミストは自分の腕を磨くことを一切怠らない。
「今日の分、がんばりますよぉ!!」
自身の水色の髪を纏め、いつものお団子ヘアから短いポニーテールにしたミストは気合を入れる。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ!!」
まず、彼女は朝早くから走り込みをする。
「おやおや嬢ちゃん、精が出るねえ」
「あひゃい!? おはようございますぅぅ!!」
散歩していたお婆さんに話しかけられて驚くのもしばしば。
「やっ! やっぴゃぁぁぁぁぁ!!!?」
次に森の中で暗器の投擲をする。それで飛び立つ鳥たちに大声を上げることもある。
「‥‥‥びゃぁぁぁぁぁぉぉぉ!!?」
その次に座禅を組んで精神統一をする。鳴り響く魔物の呻き声に飛び上がる時もある。
「ほっ、ほっぷぁふぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」
足場の悪い箇所を移り渡る訓練で足を踏み外して大声を上げたり。
「‥‥‥っーーーぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!?」
足音を立てないように忍び寄る訓練で、練習に活用している聴覚の敏感な魔物に至近距離で振り向かれて叫んで走り去ったりすることもある。
「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そして突然の騒音に驚かない訓練を行って。
「よ、よし‥‥‥今日の分、終了です‥‥‥」
朝からやりすぎとも言える、日課の特訓が終わる。
「早く行かないと、遅れちゃいますね‥‥‥
ふぅ、早歩きを意識して向かわないと‥‥‥」
ミストは普段よりも低い声を出し、手の甲で額の汗を拭いながら、『ルーンアサイド』本拠地へ戻っていく。
「よぉミスト! 朝から汗だくじゃねえか!」
「わ、うるさいですよ‥‥‥デスト、静かに」
こうして、誰も知らぬ間に『残虐』な彼女が出来上がっていくのだ。
『ルーンアサイド』から『エルジュ』へと組織が変わった時には、教官のラルドに毎朝の過度な特訓は禁止とされたのだった。