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任せてもいいっ!?

 ターナVSサラ、元同僚である2人の戦いはすでに始まっていた。


 「お前の差し金か。どおりで厄介なわけだ」


 ターナは短剣を構えて対峙した元ルーンアサイド、『希薄』のサラを睨みつける。


 「違う。私が厄介なのではない」


 そう言ったサラは、ターナの前から溶けて消え去った。


 「っ!?」


 「お前が鈍っただけだ!!」


 サラはターナの背後に立っていた。前に立っていたのはダミー、本人は後ろに回り込んでいた。


 サラは短剣をターナの背中へと振る。ターナは右手に持った自身の短剣で押さえ込む。短剣同士が軋み合う。


 「鈍ったのはどっちだ」


 ターナは左手に持っていた短剣を後ろへ振りサラの眼前へと迫り寄せる。


 サラはターナの左手首を掴んで投げ飛ばす。


 宙を舞ったターナは空中で体勢を立て直し、針を飛ばす。


 それはサラも同じだった。奇しくも狙った箇所も同じ。相手の右脇下。


 自分を狙った針を、2人は短剣で弾き飛ばす。その間にターナは地面に着地した。


 「っ消えた!」


 サラは姿を眩ました。彼女は、幻影魔法の使い手なのだ。自分の姿を誤魔化し、見破られぬまま標的を始末する。


 それが、『希薄』のサラ。


 「っ!」


 ターナは背中に激痛を感じ、それが伴う場所に手を伸ばす。針が刺さっていた。それを抜いて地面へ捨てる。


 (なるほど‥‥‥麻痺毒か)


 身体に広がっていく毒を暗殺者の身体は勝手に分析する。そして毒に耐性があるため麻痺には至らない。今すぐは。


 ターナは針が命中しないように走り始める。


 (かなり強い毒だな。時間が経てば動かなくなる)


 それがターナが出した結論。今は免疫と毒がせめぎ合っているが、時間が経てば毒に負けると判断した。事実、常人が受ければ即倒し、丸2日は動けなくなる代物だった。


 そう考えている間にも、数本の針がターナを襲う。それを躱しつつ針が出現する空間めがけてターナは針を飛ばすが当たらない。


 その後もターナは防戦一方。自身に飛んでくる針を弾き、躱し、反撃する。その繰り返し。


 「っ‥‥‥」


 だがその均衡は崩れた。ターナは突然、その場に片膝をついて動かない。


 (やっと回った。5分も経てば当然か)


 フッと息をついたサラは自身への幻影魔法をかけたまま、動かないターナに突進する。短剣を心臓に狙いを定めて振りかぶる。


 スンッ。


 確かに何かが貫通した手応え。それを、自分の脇腹に感じた。


 「なっ‥‥‥!?」


 気づくと脇腹にターナの短剣が刺さっている。サラの短剣はターナに届いていない。腕を掴まれているからだ。


 「相変わらず自分が有利になると勝利を疑わないな」


 ターナはサラの腹から短剣を抜き取り、首に突き立てる。


 「っ‥‥‥」


 「ボスの教えを忘れたお前に、ボクは殺せない」


 その後、ターナはサラの首に短剣を突き刺す。血が溢れ出すのを確認すると、逆の手で頭を掴んで地面へ押さえ込んだ。サラが倒れた音と共に、鮮血を溢れ出させる。


 返り血を浴びたターナのドレスは、真っ赤に染め上げられていた。


 「『息遣い、声、態度、姿勢、使えるものは

   すべて使って相手を惑わせ。

   だが、自分の心だけは何があっても惑わすな』」


 ターナは口、首、腹から血を溢れさせ虚な目をしたサラの耳元で呟いた。


 「それを忘れた、お前の負けだよ。サラ」


 「せ、せい、じゃく‥‥‥」


 「今は『死神』らしい。本当にダサいよな」


 そう呟くと、サラは目の焦点がずれていき、やがて瞼が落ちる。


 「お前とは仲間でいたかった」


 ターナの声が聞こえたのか、サラはフッと笑ったまま時が止まったかのように動かなくなる。


 それを見届けたターナは短剣を振って血を落とす。そしてーーー。


 (ミスト、あとはお前だ。覚悟を決めろ)



 後日、その場所に死体はなかった。あったのは埋めたような跡と、その上に突き立てられた誰かの短剣だけだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ヴァルヴァロッサ家、庭園。


 「しぶといっ!!」


 見えない相手の声が聞こえた方を向くが、マリアは肘を鳩尾に入れられ、吹き飛ばされる。


 致命傷は無いが全身切り傷だらけ、ドレスも泥がはねてボロボロ。対象法が見つからず防戦一方。


 (短剣の攻撃は避けてくる。野生の勘なのか?

  くそっ、隙だらけなのにもどかしいっ!!)


 焦り始めた相手はマリアを蹴飛ばす。マリアが背中から倒れたのは花の上だった。


 花の上に倒れ込んだマリアは口元を拭い、夜空を見上げる。


 (あー‥‥‥いった。せっかくのドレスもボロボロ)


 マリアは最近の出来事を思い出していた。


 ルーク・グロッサの婚約者来訪の際に城への侵入者、レスタに敗北したこと。


 怪盗襲来の際に謎の茶髪女に邪魔をされ、取り逃したこと。


 そしてーーーー。


 (そうだ。あの金髪の女‥‥‥

  あいつを倒すまで、私はっ!!)


 屈辱を思い出したマリアは歯を噛み締め、よろめきながら立ち上がる。そして目を瞑って立ち尽くした。


 「やっと諦めた? じゃあ、死ねっ!!」


 どこからか響く声。実際はマリアの正面から聞こえるのだが、幻覚魔法を受けたマリアは相手の位置がわかっていない。


 相手は短剣を右手に持ち、マリアへと突進する。マリアは目を瞑ったまま微動だにしない。


      短剣がマリアの腹に突き刺さる。


 マリアは口から血を溢れさせ、片膝をつく。


 「はぁ、随分手間取ったわ。

  あとはステラ・グロッサの身柄を引き渡せばーーー」


 違和感を感じて口が止まる。相手が短剣を引き抜こうとするが腕が動かない。マリアに腕を掴まれているのだ。


 動かないと思っていた矢先、マリアの腹から短剣が引き抜かれる。彼女自身が掴んでいる相手の腕を引き抜いたのだ。


 「最後の、悪あがきかーーー」


 ドゴッ。


 そんな鈍い音が相手の頬から響く。


 「はっ‥‥‥?」


 相手は頬に伴う激痛に訳が分からず声が漏れる。殴られたと気づいたのはマリアの拳が鳩尾にめり込んでからだった。


 「グハッ」


 相手は殴打の衝撃が吹き飛び、はしなかった。マリアの右腕が相手の右腕を掴んでいるからだ。


 「視界なんて、関係ない。掴んでいればねっ!!!」


 そう言って腹と口から血を流すマリア。当然だ。腹にナイフを突き立てられて出血しているのだから。


 だが彼女は左手に雷魔力を纏って神経を刺激し、反射速度を強制的に引き上げる。そこから殴打の速度を上がっていき、執拗に殴りつける。


 右手で相手を掴んでいるため、零距離だ。完全なインファイト。相手はマリアの拳の速度についていけずに好き放題殴られる。だがマリアも限界が近い。


 どちらが先に力尽きるか、言わば我慢くらべになっていた。


 「ゔあぁぁぁぁぁ!!!!」


 マリアは鬼気迫る表情で相手を殴り続ける。相手は血か唾液はわからない物を口から漏らし、息も絶え絶え。マリアは腹からの出血が止まらない。


 (ぐっ‥‥‥なんて威力っ!?

  だがこっちは耐えるだけっ!! もうこの女はーー)


 「っ‥‥‥」


 マリアは吐血し殴りつけていた手が止まる。ついに彼女にとっての身体の限界が訪れた。そして、相手を掴んでいた手も緩みーーー。


 「死ねっ!!」


 それを好機と感じ、短剣をマリアに振り下ろす。その刹那。


 マリアは相手を見ていなかった。不意に視界に入った自身の脇腹を見ていた。当然血が流れている。


 ーーーーーッ。


 ふと思い出す。怪盗騒動の際、自分を脇腹を浅く切って「気づいた?」と言わんばかりに不敵な笑みを浮かべていた金髪の女を。



    『もういいでしょ? これ以上は無駄よ』



 全てを見透かすような目をした、金髪の女をーーー。


        「うるさいわよっっ!!!!」


 声と共に無意識に繰り出した斬り払うような足払い。相手は完全に足を取られ宙に浮く。


 「あの女、絶対ぶちのめしてやる!!!」


 気づけば、そんな声と共に相手の鳩尾めがけて左肘を押しつけ、そのまま地面に叩きつけていた。


 「ヴァッ‥‥‥」


 相手の唸った声がした直後、マリアの視界が固定化された景色から真新しいものへと変化した。幻覚魔法が解けたのだ。


 相手は微動だに動かない。意識を失っていたのだ。だが、動かないのはマリアも同じ。


 「はぁ‥‥‥はぁ、っ」


 マリアは脇腹を押さえて座り込んでいた。動かないのではなく、動けなかったのだ。


 「そうだ、私は‥‥‥」


 マリアは思い出したかのように声を漏らす。金髪女に与えられた絶望を、屈辱を、挫折を。


 「あの女を倒すまで‥‥‥死ねなっ‥‥‥」


 マリアは背中から地面に倒れ、そのまま動かなくなった。


 瞼が閉じる前に、黒く輝き始めた空が見えた気がした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ボルボは握りしめていた黒いペンダントを空へかざす。禍々しい気配と共に、黒い光が空を割る。


 「あ、あれは‥‥‥」


 「天帝様! これはっ!!」


 「‥‥‥」


 ステラはその光景が信じられない様子。ルイーダは思わずレスタに問いかけるが彼は答えない。彼はただ無言で剣を取り、構えるだけ。


 「俺に逆らったらどうなるかわからせてやるっっ!!

  皆殺し、皆殺し!! 皆殺しぃぃ!!!

  潰され犯され泣きわめくがいいぃぃ!!!!」


 ボルボは正気を失っていた。ペンダントの力による影響か、もしくはただの現実逃避か。


 「‥‥‥頼みがある」


 「は、はいっ」


 ようやくレスタは声を出すと、ルイーダは絶対に聞き逃さないように耳を澄ませ、息を呑んでいた。


 「王女を連れて離れてくれ。

  それと近くに人がいれば避難を誘導させろ」


 「て、天帝様はどうするのですかっ!?」


 ルイーダがステラの腕を掴んで叫ぶと、レスタが答える前に黒い光からーーー。


 「天帝様っ!!!」


 魔物が出現した。ゴブリンが4体。ルイーダは思わず大声を上げる。


 「出たっ!!! やれっ!! あいつを殺せっ!!」


 ボルボは醜悪な笑みを浮かながらレスタに指を差してわめき散らかす。


 「お、おいっ!! こっちじゃない!! あの男ーー」


 だがゴブリンは、ボルボに襲いかかった。


 「ギャァアアァァ!! 助けろ、誰か助けろっ!!!」


 棍棒を持った4体のゴブリンに殴られて絶叫するボルボ。レスタはそれを見て助けようとはしなかった。


 「ステラ王女! 見ない方がいい!」


 「は、はいっ‥‥‥」


 レスタの助言を聞いたステラは目を瞑り、耳も両手で塞いでいる。彼女の隣に立っていたルイーダもそれが正解だと感じた。あまりにも惨く、気味が悪い光景が広がっていたからだ。


 そして10秒もしないうちに、ボルボの声は聞こえなくなった。そこにあるのは彼を形成していた物の集合体。


 ゴォォッ。


 声か何かもわからない音を発したゴブリンは攻撃をやめ、次は1番近い生物、つまりレスタに視線を向けて突進し始める。


 ボルボの死体に転がっているペンダントは今も黒く輝き続け、次々に魔物を召喚していく。


 (間違いない。あれがターナの言っていたA級魔道具、

  『暗黒平定』か。ボルボの死体から漏れ出した

  魔力を吸収して魔物が召喚されているのか!)


 レスタ(アイト)は最初の4体のゴブリンを斬り刻みながら確信した。しばらくの間、魔物が召喚され続けるとーー。


 「さっき言った通りだ! 早くしろ!」


 「ですが、天帝様!! こんなーーー」


 ルイーダは目を見開く。目の前の光景が信じられないからだ。


 ゴブリン、オーク、オーガ、コボルト、トロール、そして下級魔族。彼女の目には他の魔物もたくさん映っていた。


 少なく見積もっても100は下らない魔物の大群がレスタへと向かっている光景が目に入った。


 地獄のような光景から目を逸らせない間に、数十の魔物がレスタへ飛びかかる。


 手を伸ばして声を出そうとするが、全く声が出ない。恐怖で身体がいうことを聞かない。


 それはステラも同じだった。こんなの、助かるわけがーーー。



         「【ブラックソード】」



 黒い剣の一閃が見えた後、数十の魔物が一瞬で斬り払われた。


 聖銀の剣を黒く染めた、『天帝』レスタはフッと笑う。



   「君の、いや君たちの代表を少しは信用しろよ」



 ルイーダは胸が痛くなる。引き裂かれそうなほど気持ちが昂っていた。


 「ステラさん、離れますよっ!!」


 「え、でもあの方がっ!」


 「天帝様なら大丈夫です!!」


 そしてその昂揚を上手く抑えられないままステラを連れて走り出した。


 それを見送ったアイトは剣を構える。犠牲を出さないためにも、自分がここで食い止めるしかないと。


 (『暗黒平定』は俺がなんとかする。

  だから舞踏会はターナ、オリバー、ミスト。

  ‥‥‥みんなに任せてもいいっ!?)


 だが、未だにターナとミストの現状に気づいていないアイトだった。

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