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もはや神だろ

 「へぇ〜可愛い子ね。ルルツ家のご令嬢かしら」


 入り口から歩いてくるクロエを見たマリアは少し興味を持った。三大貴族の娘なら気になるのは仕方ない。


 「ん〜。私、あの子見たことないです」


 だがステラは首を傾げて疑問を抱き始める。2人は昨日の舞踏披露会を見ていないためクロエのことを知らない。


 そのためクロエのことを知っているアイトが2人に説明をーーーしない。できなかった。


 (首にかかっている黒いペンダント‥‥‥まさか)


 アイトはクロエの首元にしか意識が向いていなかった。Aランク魔道具『暗黒平定』かもという疑念が頭をよぎる。


 そんな3人の前に来たファロンとクロエはすれ違う。まずは3人の中で最も前にいるアイトからーー。


 「〜♪」


 すれ違う瞬間、クロエはアイトにウィンクを置き逃げた。その後ろに控えるマリア、ステラには頭を少し下げる程度。ファロンはステラに頭を下げただけ。


 ファロンとクロエはアイトたちとすれ違った後、主催者側のボルボへと歩いていった。


 「あの子、自分を魅せるのが相当上手いわね」


 「え、そうなんですか〜?」


 ステラは何もわかっていない様子を見せると、マリアは彼女の両肩に手を置いた。


 「表情、息遣い、歩き方。

  まるで他人の目から常に見てるように

  自分自身を客観的に理解してる」


 「え、そうなんですか〜」


 話が見えないステラはとりあえず相槌を打つ。すると掴まれた両肩に掛かる力が強くなる。


 「ステラが身につければ最強よっ!!

  あの子を見てなさい! 良い勉強になるわ!」


 「は、はい〜」


 マリアの言うことは何でも二つ返事で聞き入れるステラ。ちなみにマリアの言ってることはまだ理解できてない。


 「ってあんたはなに惚けてるの!?

  まさかああいう子がタイプなのっ!? ねぇ!!」


 さっきから一言も発さないアイトはマリアに肩を揺さぶられる。マリアからすれば弟がクロエに見惚れているように見えたのだろう。だが実際はこうだった。


 (ペンダント‥‥‥間違いない、あれだ!!)


 アイトはペンダントしか目に映っていなかった。


 「っ、とーー」


 突然アイトの肩に衝撃が入る。マリアの揺さぶりが衝撃的だった、というわけではない。誰かとぶつかったのだ。


 「こんな所でぼーっとすんな。邪魔だ」


 アイトにぶつかったのは灰色髪を後ろにまとめた男。背が高く体格も凄まじい。アイトよりも二回り以上大きかった。 


 「はあ!? ぶつかってきたのはあんたでしょ!?」


 マリアは全く臆さずに大声で言い返す。相手が貴族だったら言葉遣いを意識しようと考えていたが、弟が関わると我を忘れてしまった。


 だが、それが面白かったのか、男はニヤリと笑う。そしてマリアの後ろに控えるステラに気づいた。


 「‥‥‥ハッ、なるほどな。今わかった。

  お前がグロッサ王国の最強部隊に所属する

  『迅雷』マリア・ディスローグか。大した度胸だ」


 「は? なんで上から目線なのよ。早く謝りなさい」


 マリアが言った途端にデストは少しだけ頭を下げる。


 「悪かった。これでいいか?」


 「え、ええ」


 威圧感を持つ男の素直な謝罪が予想外でマリアは面食らう。


 「んじゃ、ごゆっくり」


 そう言った男はマリアたちから離れていった。


 「よ、良かったじゃん。謝ってくれて」


 「ええ‥‥‥って違う!!

  あんたへの謝罪が無かった!! あの男っ!!」


 「え?」


 「今から連れ戻して謝らせるっ!!」


 「もういいっ!? いいからっ!?」


 「あらあら〜」


 鬼気迫る顔で走り出そうとしたマリアの腕を掴むアイトとステラ。


 さっきぶつかった男こと、デストが3人を眺めていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 (俺に全く驚いてなかったなあの男。

  『迅雷』の身のこなしを見たかったが、

  逆に面白いもんが見えたな)


 そう、デストはわざとぶつかった。そしてぶつかる標的はマリア・ディスローグのはずだった。


 だが偶然にもマリアに肩を揺さぶられていた男が数歩横にずれたことで先にぶつかってしまったのだ。


 そこでデストは違和感を感じた。2人の体格は雲泥の差であるにも関わらず相手はその場からよろめかない。逆にぶつかったデスト自身が少し横に逸れたほどだった。


 (ミスト、ターナ、銃の男、『迅雷』の他に

  興味を持つ奴がいたなんてな。面白いじゃねえか)


 笑ったデストは裏口から舞踏会場の外へと歩いていく。ポケットから魔結晶を取り出して相手に話しかける。


 「来たか?」


 『‥‥‥来た。3人』


 「よし。バレてねえだろうな?」


 『誰に向かって言っている』


 「はいはい『希薄』さん悪うございました。

  さあ、これで全員集まった。あとは実行するだけだ」


 『その時が来るまで潜む』


 「ああ、お互いな」


 連絡を取り終えたデストは笑っていた。


 (惜しい奴らが敵として死んでいくのは悲しいもんだ)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 舞踏会場。着々と参加者が集まりつつある。


 招待状を受付に見せて会場内に新たな3人が入る。すると会場内がざわめき出した。


 「な、なんか目立ってませんかぁぁっ!?」


 「そうですね‥‥‥おかしいです」


 「おかしいのは、ボクの格好だッッ!!!」


 注目を浴びていたのは顔を真っ赤にした2人の少女と困惑顔の少年。


 そしてそんな3人をアイトは目の当たりにした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「うそ、だろ‥‥‥???」


 仲間の3人を見たアイトは思わず声を出していた。その言葉が出た要因は、2人の少女にある。


 ターナとミスト。どちらも幼い(ターナはダントツだがミストもそこそこ匹敵する)印象を受ける2人がドレスを着てくるとは思っていなかった。


 だがそれだけでここまで驚いたわけではない。驚いた主な理由は、ドレス自体にある。


 ターナのドレスはーーーーーー。


 (し、しろ‥‥‥? 白っ!? 白だっ‥‥‥)


 アイトはまるで見てはいけないものを見てしまったかのような反応をする。


 純白でフリルの付いたドレス。胸元についた大きめの赤いリボンが可愛らしい。


 アイトが見てきた中でターナが着る服の色は黒の印象が強かった。それを打ち破る白のドレスは彼女の印象をガラッと変える。


 (や、やばい。今日見てきた中で1番破壊力あるかも)


 あまりにも印象にない白だからこそ、刺さる。


 ドレスを選んだ人はセンスしかないとアイトは称賛していた。恥ずかしそうな当人に知られれば確実に消される。


 (でも、ミストのドレスもなかなか‥‥‥)


 ミストのドレスは向日葵のような明るい黄色のドレスだった。とても暗殺者には見えない。


 彼女の水色で簪でお団子にまとめた髪にもよく似合っていた。そして普段の印象とは全く異なる黄色のドレス。


 両手には肘までの長さがあるイブニンググローブを付けていた。負傷した左手を隠すためのものだろう。


 そんな衣装に身を包んだミストは普段とガラリと印象が変わり、純粋な可愛さが引き立っている。


 (2人のドレス選んだ人、もはや神だろ)


 アイトはウンウンと頷き、そんなコメントを残す。これも本人に聞かれると確実に嫌われる(すでに嫌われていることには気づいていない)。


 「これ、似合ってないかもしれないですね」


 オリバーは苦笑いをしながら自分の服に視線を落とす。


 落ち着いたベージュ色のタキシード。似合っていないなんてとんでもない。爽やか美少年のオリバーに大人らしさが混じり、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。


 当然、周囲の女性の視線を独り占めしていた。


 「見た感じデストはいないな。どういうことだ?」


 「わ、わかりませんっ!」


 ターナとミストは辺りを見回すが標的が見つからず声を漏らしている。男の参加者は話しかけたくてウズウズしていたが、2人は眼中になかった。


 「ね、君どこの出身? この国の中、それとも外?」

 「ちょっ! 抜け駆け禁止!

 「ここに来てるなら婚約者とかいないよね? どう?」


 そしてオリバーはぐいぐいと参加者の女性たちに引っ張られ、会話させられていた。


 「ええと、まあーーーー」


 オリバーはずっと苦笑いを浮かべて当たり障りのない返事をしている。


 (あの3人目立ってるじゃん!?

  これから動きにくくなるだろ!?)


 アイトは持っていたグラスをプルプル揺らしていた。


 「あそこの3人も目立ってますね〜」


 「そ、そうですねっ!」


 隣に来たステラに3人の話題を出されてアイトは声が上擦る。


 「あ、そんなに焦ってどうしたんですか〜。

  あ、もしかして‥‥‥2人のどっちか

  好みの子なんですか〜? 気になります〜♪」


 自身の動揺をステラに別の意味に捉えられ安心すると同時に返事に詰まる。


 「へぇ〜? あたしも興味あるわ。教えてっ?」


 「ひえっ」


 満面の笑みで胸ぐらを掴んできたマリアに悲鳴を上げているとーーー。


 「お待たせしましたっ!!」


 周囲の空気を切り裂く声と共に、1人の少女が舞踏会場に姿を現す。それは主催者側で当主のバルバ・ヴァルヴァロッサの娘。


 「おやおやネコ殿。今回もお誘い頂きありがとう」


 「こちらこそご参加ありがとうございます。

  ですがそういうことは私ではなく

  父に言ってください。喜ばれます」


 「ですが、其方の父上は今体調を崩して

  休んでおられると聞きまして」


 「えっ‥‥‥」


 栗色髪の少女、ネコ・ヴァルヴァロッサは息を漏らす。


 「さあネコ、早く行ってきなさい。

  みながお前を待っているぞ?」


 その声を掻き消すかのように話しかけた兄のボルボが先を促す。


 「‥‥‥はい」


 髪色と同じ栗色のドレスを身に纏ったネコ・ヴァルヴァロッサは小さく返事をしてファロンにお辞儀をした後、会場の中央へと歩き始める。


 それに釣られるようにクロエも歩き出す。やがて本日のメインと言える2人が会場の中央で対峙する。


 「‥‥‥よろしくお願いします」


 「はい♪ よろしくお願いします♡」


 2人はそれぞれ自分に合った構えを取った後、どこからか誘うような音楽が流れ始める。


 「長らくお待たせいたしました!!

  これより、舞踏会の開幕ですっ!!」


 ボルボの宣誓と共にネコとクロエは動き出す。参加者は息を呑んで見つめる。



         舞踏会の幕が、上がった。

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