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それだけですっ!

 「これで、よし」


 オリバー、ミストが泊まる宿屋。もちろんお互い1人部屋。だが今はオリバーがミストの部屋に訪れていた。ミストの手当てのためだ。彼女の左手には包帯が巻かれている。


 「あああありがとうございますっ!!」


 「うん、それだけ大きな声が出せるなら安心です」


 「う、うるさいってことですかぁぁ!!?」


 いつも通りのミストの叫び声に対してオリバーは懐かしげに微笑みながら両手で耳を塞ぐ。


 「ところで、これからどうしましょうか」


 オリバーの言葉は「新たな問題が出てきた今、どうやって行動していくか」と言う意味だった。


 「‥‥‥それなら、もう決まってますっ!」


 彼に見せつけるようにミストはホットパンツの尻ポケットから何かを取り出し、突きつける。


 「‥‥‥招待、状?」


 オリバーは眼前に突きつけられたものに書かれている文字を無意識に反芻する。


 「デストが私に投げたものですっ」


 「この招待状の家紋‥‥‥ヴァルヴァロッサ家の紋章?

  元ルーンアサイドが、ヴァルヴァロッサ家と

  繋がっている? 事態はかなり深刻ですね‥‥‥」


 オリバーが言った通り招待状の縁には、ヴァルヴァロッサ家の紋章が刻まれていた。


 「恐らく明日の夜に開催される、舞踏会ですっ。

  わざわざ2人分の招待状を渡されたってことは、

  ここに来いってことです。巻き込んでごめんなさい」


 「ミスト‥‥‥まさか行く気ですか!?」


 オリバーの驚いた声を聞いてミストはビクッとなりつつも、ゆっくりだが確かに首を縦に振る。


 「‥‥‥舞踏会には貴族や令嬢が多く集まります。

  もしかすれば他国の王族が来るかもしれません。

  そこで何かあれば国家間での争いに‥‥‥」


 「確かにそうかもしれませんが、

  正直言ってグロッサ王国以外の国のことなんて

  僕からすれば至極どうでもいい。

  ゴートゥーヘルの奴らが絡んでもない限りね。

  だがら僕からすれば、その理由に違和感があります」


 オリバーは別に正義の味方ではない。関係ない人のことはどうでもいい。全ての人間を助けることは不可能と考えるタイプだった。


 そんな彼の反論を聞いて、ミストは自虐するようにフッと笑う。


 「‥‥‥ダメですね。昔からつい隠そうとしちゃう。

  それで私はうまくいかなかったのに‥‥‥

  正直に言います! 貴族や令嬢なんてどうでもいい!

  地位と権力が自分の力と勘違いして力をつけず

  暗殺されてしまう紙同然みたいな人たちなんて!!」


 「いや、僕はそこまで言ってませんが‥‥‥」


 ミストはオリバーの顔を真っ直ぐ見つめ、口を開く。



    「デストを殺したい! それだけですっ!」


           「へ‥‥‥?」


 あまりにも予想外だったのかオリバーは間の抜けた声が漏れる。ミストは恥ずかしくなったのか視線を逸らして沈黙が起きないように口から声を出す。


 「今逃したら、エルジュの邪魔になりますっ。

  それにあの人たちはエルジュ構成員たちに

  手をかけました! 間違いなく故意!

  そう故意! これは故意ですっ!!

  憂いは早々に断ち切るべきですっ!

  この舞踏会で仕留め損なえば次はいつになるかっ!

  私が招いた事態は、私が解決しますっ!

  ほらついでに貴族たちも助けることになりますし!

  ど、どうでしょう!! どうでしょう!?」


 後半はミスト自身も何を言っているかさっぱりわからなかった。話していく間にどんどん顔が赤くなっていったのがその証拠だ。


 「‥‥‥ぷっ、アハハハッ!!!」


 数秒の沈黙が過ぎて、オリバーの笑い声が響き渡る。ミストはますます顔を下げて恥ずかしさに耐えている。


 「やっぱり、ミストは暗殺者ってことが分かりました。

  それも『残虐』ミストなんかじゃない。

  僕の仲間、『破魔矢』ミストってことが。

  協力します。仲間の窮地を放ってはおけません」


 「お、オリバー‥‥‥」


 顔を上げて目をうるうるさせるミストを見てオリバーはウンウンと頷く。


 「勝手に窮地って決めつけないでくださぁい!!?」


 (あ、ミストはこういう人でしたね‥‥‥)


 平常運転に戻ったミストを、オリバーは両手で耳を塞いで眺めていると、魔結晶が輝き出す。


 「あ! そういえば忘れてましたああぁ!!」


 ミストはホットパンツのポケットから魔結晶を取り出す。


 『‥‥‥えるか、聞こえるかミスト?

  近くにはオリバーもいるのか? 応答しろ』


 声を聞いた2人は聞き間違いかと必死に耳を澄ませる。そして確信した。


 「その声は‥‥‥!」


 「えっ!? 生きてたぁぁ! ターナぁぁぁ!!」



 連絡をかけてきたのは行方不明とされていたターナだった。



 オリバーは安堵の息を吐き、ミストは泣きじゃくる。


 『‥‥‥ふん、勝手に殺すな。聞きたいことがある。

  お前たちは今、ミルドステア公国内にいるのか?』


 「は、はいっ!! あの、なんで知ってるのでーー」


 『どこだ?』


 「へっ?」


 『ど、こ、だっ!!』


 (ターナが大声を上げるなんて珍しい。

  よっぽど余裕がないってことでしょうか)


 ミストがあたふたしている中、オリバーは冷静に俯瞰していた。


 「ひゃあ!? え、えっとそのーー!!」


 「ーーーの宿屋です」


 まだ焦っていたミストをフォローするようにオリバーは速やかに場所を伝える。


 『近いな。すぐ向かう』


 ターナはそう呟いた直後に一方的に連絡を切った。


 「た、ターナ元気そうでしたねっ」


 「ええ。そしてもうすぐ詳細を聞けますね」


 ターナが来るまでに2人はそんな話をしながら時間を潰す。


 ガンガンガンッ。


 「ひぇぇぇぇぇっっっ!!!?」


 その数分後、部屋の窓が叩かれたことでミストは叫び、オリバーは即座に窓を開ける。開けた直後に誰かが部屋の中へ勢いよく入り込む。


 「ちょっと物騒な入り方じゃない!?」


 「仮面つけたお前が受付にいったら目立つだろ!?」


 部屋に入ってきた2人が身も蓋もない言い合いを展開しそうになるところをミストの絶叫が割り込んだ。


 「な、なんでここにいるんですかぁぁぁぁ!!!?」


 ミストの絶叫はターナに向けられたものではなかった。


 「まさか、ここに来ていたなんて。お久しぶりです」


 オリバーも驚いた様子を見せる。銀髪で仮面をつけた男を2人が見間違えるはずがなかった。


        「ひ、久しぶりだな2人とも」


 約1ヶ月組織から離れていた代表、『天帝』レスタだった。

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