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‥‥‥話します。

 「2人とも出ない。なんで?」


 魔結晶をポケットへ戻したアイトは気絶している襲撃者をとりあえず縄で縛り始める。


 (逃げられないようにして、と。

  さて、これからどうするか)


 今も雨が降り続ける中、男をどうするか考えるアイトは身動きが取れなくなっていた。


 (とりあえず何かあった時に動きやすいように、

  あの格好にはなっておこう)


 アイトは魔結晶を取り出しベルトの窪みにはめる。すると今の黒シャツと黒ズボンから一転、黒と白を基調とした特殊戦闘服へと変化する。そして染色魔法で髪を銀髪に染め、いつもの仮面を顔に付ける。


 アイトは約1ヶ月ぶりに『天帝』レスタとなる。


 (さ、とりあえず気絶したこの男をーー)


 「あ、あなた様は‥‥‥!」


 「!?」


 誰もいなかったはずの暗闇に微かに響く女性の声。


 振り向くと、そこにいたのは茶髪ポニーテールの女性だった。


 (やばい見られた!!)


 アイトは警戒を強め構えをとる、よりも早くーーー。


 「エルジュ戦力序列第27位、イシュメルでございます。

  天帝様、なんなりとお申し付けくださいませ」


 イシュメルと名乗った女性がその場に片膝をついて頭を下げる。今は雨が降っているため地面はびしょ濡れなのだがイシュメルは全く気にしていない。


 (っ! 昼に行った店の店員!?

  そういえばメルティ商会の店だったわ!?)


 間抜けな声が出そうになるアイトだが、相手の発言に味方だと気づく。そして必死に冷静を装う。


 「襲撃者を捕まえた。イシュメル」


 「‥‥‥! わかりました。

  すぐに連行し情報を引き出します」


 イシュメルは肩をビクッと震わせたがそれは一瞬。即座に頭を下げて了承した。


 「‥‥‥任せた」


 アイトはイシュメルに恐れられていると勘づき、短い言葉で返事を済ます。


 「! お任せください。

  必ず天帝様のお役に立ってみせます」


 (昼の時と態度違いすぎない‥‥‥?)


 明るく元気っ子(なんとなくカンナと似たタイプ)だと考えていたが、今の冷静で抑揚のない声を聞くとどっちか本当の彼女かわからなくなる。


 「失礼を承知でお尋ねしたいことがございます。

  天帝様は何用で、いつこちらに来たのですか?」


 (‥‥‥うん。なんて答えようかな!?)


 「いつ来た」というのは特に悩むことがなく正直に答えられるが、「何用」と聞かれると言葉が詰まる。そんなアイトの返事はーー。


 「‥‥‥私用だ。私用のため昨日来た」


 なんの説明にもなっていない返事だった。苦し紛れの言葉だと自分でもわかっているのか、唸るように低く呟いた。


 「! さすが、天帝様です」


 「ん?」


 するとイシュメルが再度頭を下げる。その意味がわからず首を傾げるアイト。当然頭を下げているイシュメルには彼の姿が見えていない。


 「構成員が襲撃されたことを誰よりも早く聞きつけ

  独自に動いてくれていたとは‥‥‥」


 「‥‥‥ん?」


 「オリバー様とミスト様も昨日来られました。

  ってそのことは知ってますよね、失礼しました」


 「‥‥‥ん??」


 「天帝様と《黄昏トワイライト》お2人の

  足を引っ張らないように全力で事に当たります」


 「‥‥‥ん???」


 「そこで気絶している男から聞き出した情報は

  オリバー様とミスト様にもお伝えします。

  いつでも『ジュピタメルティ』にお越しください。

  ルイーダ様も大変お喜びになります」


 「‥‥‥ああ」


 「それでは失礼いたします。

  この至福のひと時、絶対に忘れません」


 レスタ(アイト)の返事を待つ間もなくイシュメルは男を担いで姿を消す。


 アイトは顎に手を置いたまま考え込む姿勢を取る。人から見れば非常に様になっていて、構成員からしたらまさに『天帝』レスタと言われそうな光景。


 だが実際は、ただ理解が追いつかず棒立ちになっていただけである。


 (構成員が襲われたって何!?

  それにオリバーとミストが公国内に来てる!?

  いったいこの国で何が起こってるんだ!?

  あとルイーダって誰!?)


 今のアイトの頭の中はこんな感じ。降り続ける大雨の中、アイトはずっと立ち尽くしていた。


 (あ、そうだ! オリバーに連絡すればーーー)


 そう気づいたアイトは魔結晶でオリバーに連絡を取る。


 「って! オリバーも繋がらないじゃん!?」


 そんなアイトの大声は、大雨でかき消された。



    (天帝様が‥‥‥私の名前を呼んでくれた♡)



 一方、男を運んでいたイシュメルは夢心地で目がとろ〜んとなっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ヴァルヴァロッサ家、屋敷付近。


 襲撃者の男、デストとミストの投げた針同士がぶつかって弾け飛ぶ。


 「いっ!?」


 「おいおい、その程度かよっ!!」


 接近したデストの裏拳がミストの右腕を弾き飛ばし、彼女の持っていた短剣が音を立てて地面に落ちる。


 ミストは咄嗟にデストの腹を蹴り飛ばした反動で距離を取る。


 「その呼び方やめてくださぁぁい!!」


 そして叫びながら前転し、弓(分解して太ももに巻いていた部品を速攻で組み立てたもの)を構える。


 「おせえ!!!」


 だがデストは縦蹴りでミストの弓を蹴り飛ばす。強い衝撃を受けた組み立て式の弓は音を立てて分解する。


 「ぴゃあ!? せっかく組み立てたのにぃぃ!?」


 「おいおい、マジかよ」


 呆れた声を出したデストは弓を手放して叫んでいたミストを蹴り飛ばす。ミストは7、8メートルほど地面を転がる。


 「ひっ!?」


 なんとか立ち上がったミストは先回りしていたデストに首を捕まれ持ち上げられる。2人の体格差が大きいためミストの両足は瞬く間に地面から離れ、なすすべもなく首を絞められる。


 「あ、ガっ‥‥‥」


 「おかしいよなぁ? ルーンアサイドの暗殺者が

  正面戦闘に磨きをかけてきたなんてなぁ。

  だが、それは全部あんたが言ってくれたおかげだぜ?

  前よりも強くなっただろ??

  『残虐』ミスト様の右腕になるべく

  これまで必死にがんばってきたのになあ??」


 「グっ‥‥‥で」


 「あ? なんて言ったんだ? 『残虐』ミスト様よお」


 首を絞められていることで口から唾液をこぼし、必死に息をするミストに話しかけるデスタは笑っていた。


   「‥‥‥その呼び方をしないでぇぇぇ!!!!」


 叫んだミストは限界まで伸ばした右足に勢いをつけて、首を掴んでくるデストの右腕を蹴り上げた。蹴り飛ばされたデストの右腕は勢いのあまり頭上で円を描く。


 「へえ?」


 デストは締めつけから解放されて咳き込んでいるミストに話しかける。ミストは首を押さえながらデストを睨みつけていた。


 「だが、もう動けそうにねえな。

  動きも冷静さも明らかに前より劣ってる。

  冷静沈着で完全無欠の、誰もが憧れ怖れていた

  『残虐』のあんたはやっぱりもういねえんだな。

  ならせめてもの情けとして、俺が殺してやるよ」


 デストは落ちていたミストの短剣を拾い上げ、今も立てない彼女の頭上に短剣を振り下ろす。


 「っ‥‥‥!」


 ミストは咄嗟に短剣を左手の平で受け止めて、そのまま握り締める。当然そんなことをすれば血が滲み出る。溢れた血は傷口から手首へ流れる。だが腕へと滴り落ちる前に雨で濁され、流されていく。


 「よく止めたな? だが痛えだろ??」


 「っ‥‥‥いたく、ない」


 ミストは何かを堪えるように顔を歪ませる。その光景が見たかったのかのようにデストはニヤリと口角を上げる。


 それを遮るようにバチンッと火花が散ったような音が響く。ミストが左腕に【血液凝固】を施したのだ。少しずつだが着実に短剣を押し返していくーーーー。


         「‥‥‥がっかりだぜ」


 バチンッと火花が散ったような音が響き渡る。そして時間を巻き戻すように短剣がミストへと押し戻されていく。


      「俺も使えるんだから意味ねえだろ」


 ミストは短剣が手の平に刺さる感覚を生々しく感じた。その感覚を溶かすかのように、自然に溢れ出す血が短剣に纏わりつく。


 やがて短剣を握りしめたミストの左手は彼女自身の左肩に乗っかる。


 「‥‥‥はあ。本当にがっかりだぜ。鈍ったな。

  やっぱりお前は『残虐』ミストじゃねえ」


 ため息をついたデストはそのままーーーーー。



          「っぶねえな!?」



 短剣を押し込むことはできなかった。回避行動を取ることになったからだ。


 デストは短剣から手を離し、音速を超えて目の前に迫る小さな球をバックステップで回避する。小さな球、いや銃弾は鈍い音と共に地面にめり込む。


 (この雨だと軌道がずれる!!)


 少し離れた位置から拳銃を構えていた少年は動けない少女へと走り寄る。


 「ミスト!!」


 意識が朦朧としていたミストは、目の前に緑髪の美少年が自分を覗き込んでいることに気づく。


 「お、オリバー‥‥‥?」


 「大丈夫ですか!? 早くその手を!」


 「誰だお前はぁ!?」


 オリバーは声がする方を咄嗟に振り向き左手で拳銃を構える。声の主デストはオリバーが拳銃を放つ前に彼の鳩尾に拳をめり込ませ、なかった。


 オリバーは咄嗟に拳銃を持ってない右手でデストの拳を払いのけ、拳銃を放つ。火花が散る。


 「っ、間一髪か!!」


 デストは銃弾が頬を掠めたことに冷や汗をかく。


 (【血液凝固】!? なんでこの男が使える!?)


 オリバーは予想外のことに一瞬頭が真っ白になる。


 デストは【血液凝固】で強化した両眼でデストの銃弾を見切って顔を逸らした。だが至近距離だったため完全には回避できなかった。


 オリバーは左足でデストを蹴飛ばして距離を作る。


 (まずいですね‥‥‥そもそも僕とミストは

  正面戦闘は不向き、それに彼女は今動けない。

  しかも敵は【血液凝固】を使う。

  僕の銃はほとんど見切って躱される)


 オリバーは冷や汗を流しながらも拳銃を構え続ける。


 「‥‥‥チッ、もう時間か」


 「なに?」


 デストが舌打ちすると、オリバーは再度警戒し直す。


 「おい、これやるよ」


 デストはズボンのポケットから取り出したものをミストへと投げ飛ばす。


 それは音を立てずにミストの足元に落ちた。


 「来るも来ないも自由だ。

  だが来なかったら翌日、何か事件が起こるかもな?」


 「勝手に話を進めるな!」


 オリバーが威嚇するように拳銃を突きつけると、デストは笑う。


 「お前は誰か知らねえが、ついでに殺してやるよ」


 冷たい眼差しでオリバーを睨んだ後、デストは両足に【血液凝固】を発動して跳躍しその場から離れていった。


 「‥‥‥あの速さで動かれると狙いが定まらない」


 オリバーは愚痴りながら拳銃を腰のホルダーに戻してミストへと駆け寄る。ミストは既に短剣を手のひらから抜いていた。


 「ミスト! とりあえず濡れないところへ!」


 オリバーがミストの左手の傷を確認し、自分の背中へ背負って走り始める。傷口が雨に当たることを懸念していたのだ。


 「ありがとう、ございます‥‥‥あの」


 「後で聞きますからーー」


 「今聞いてくださいっ!!」


 ミストのはっきりとした声にオリバーは足を止めそうになるが、走るのを止めずに耳を傾ける。


 「さっきの、人のことです」


 「‥‥‥【血液凝固】を使ってましたよね?

  もしかして、元ルーンアサイドの」


 オリバーの質問に答えるかのように、ミストはか細い声を出す。


 「‥‥‥元ルーンアサイド、『撃墜』デスト。

  正面迎撃に特化した戦闘スタイルで実力も確か。

  ルーンアサイド次期幹部候補で、私の部下でした」


 オリバーは何も言わない。ミストにはまだ話したいことがあると察したのだ。


       「‥‥‥話します。私の過去」

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