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やっぱりだ

 「ただいまー!! アイト戻ったわよー!!」


 「戻りました〜」


 宿屋。ヴァルヴァロッサ家を後にしたステラとマリアが戻ってくる。


 「っていない!? あの子どこいったの!?」


 「あらあら〜」


 アイトはいなかった。頬をぷんぷん膨らませたマリアは部屋の中を這いずるように探し始め、ステラは紅茶を2人分のカップに注ぎ始める。


 「もう日が暮れるのに! あの子ったら!」


 「まあまあ〜。そのうち帰ってきますよ〜」


 ステラは微笑みながら紅茶を飲み始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「あの〜私に何かご用ですかぁ?」


 ヴァルヴァロッサ家に並ぶ三大貴族の一角、ルルツ家の屋敷。


 招待されて豪華な椅子に座っているのは昼に行われた舞踏披露会で注目を浴びた少女、クロエ。


 対面に座っているのはルルツ家の当主、ファロン・ルルツ。


 「さっきの踊り、見事だった。

  いや見事という言葉でも足りないくらいだった」


 「ありがとうございますぅ〜♪」


 「君に頼みがある」


 ファロンが間髪入れずに要件を伝えるとクロエは首を傾げる。次に飛び出したのは、あまりにも突拍子のない言葉だった。


 「儂の娘になってくれ」


 「ふえ?」


 「養子として迎え入れたい。そして舞踏会にーーー」


 「あ、あの? 話が読めないんですが?」


 クロエは?を浮かべている。当然といえば当然だった。ファロンはわざとらしく咳をして、詳しく説明する。


 「ミルドステア公国では深い歴史のある舞踏会がある。

  そこで代表者を踊らせ、競わせるのが伝統なのだ。

  だが最近、娘に先立たれてしまってな。

  儂の家から出せる者がいなくなってしまった。

  この伝統を、絶やすわけにはいかないのだよ」


 クロエはなんともいえない表情をする。あまりにも重く、不謹慎な話だと感じた。


 「つまり、娘になれと言うのはファロン様の家の

  代表者として舞踏会に参加しろってことです?」


 「その通りだ。もちろん報酬は惜しまない」


 ファロンは即答する。クロエは顎に手を置いて考え、口を開く。


 「‥‥‥わっかりました! お引き受けしましょう!」


 「本当か!? 感謝するぞ、クロエ!」


 「了解!」と言わんばかりにウィンクしながらピースするクロエに、ファロンは頭を下げた。


 「報酬、期待してま〜す♪」


 「もちろんだ。舞踏会は明後日。

  それまでこの屋敷を好きに使ってくれて構わない。

  何か必要な物があれば言ってくれ。用意する。

  おい、この子を空いている部屋へ」


 「はい。クロエさん、こちらです」


 「どうも〜♪」


 クロエは召使いの後をついていく。それを見ていたファロンはハッとした顔になる。


 「待ってくれ! 言い忘れていた。

  念のため、夜は部屋から動かない方がいい」


 「ふえ? 何かあったんですか?」


 「最近、我が屋敷に侵入しようとした愚か者がいてね。

  雇っていた凄腕に追跡させている最中なのだ。

  もちろん、君への護衛もつける」


 「‥‥‥ふぇ!? そんなことがあるんですね〜!

  こっわ〜い! ぜったい守ってくださいねっ♪」


 クロエは口に手を当てて媚びた声を出す。


 「あ、ああ。約束する」


 それを聞いたファロンは少し惚けてしまい、クロエと召使いが出ていくのをぼんやりと眺めていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 日が沈み始めた頃。


 アイトは必死に宿に帰るべく走っていた。


 (やべぇ! 舞踏披露会の影響で帰りが混むなんて

  思ってなかった!!! 完全に予想外だ!!)


 「うわっ!! ついてねぇ!!?」


 姉のマリアの怒りの現れ(?)なのか突然天候が怪しくなり雷雨がアイトを襲う。


 「これじゃあ余計怒られるじゃん!! 最悪だっ!!」


 大声で叫ぶが雨の音が強すぎて周りには聞こえない。ていうか既に誰もいなかった。空は雲に覆われ、みるみる辺りが暗くなっていく。


 そして大雨が降り注ぐ中、アイトは突然前転する。決して足が滑って転んだのではない。



        「!? なんだこれ!!」



       雨に紛れ、針が飛んできたのだ。



 「ほう。今のを避けるか。ただの学生と聞いてたが。

  腐っても『迅雷』マリア・ディスローグの弟か」


 そんな声と共に、アイトの前に黒い陰が迫る。襲撃者の男は手に短剣をを持っていた。その短剣をアイトに振り下ろす。


 アイトはその襲撃者に対して反撃せず、ギリギリで躱し続ける。


 (ん? この格好‥‥‥どっかで見たことある??)


 襲撃者はまるで黒装束といった格好。確かに見覚えのあるアイトは攻撃を回避しながら考えにふけこむ。


 「な、なぜだ!! なぜ当たらない!!」


 「! そうか!」


 2人の声が重なる。アイトは辺りを見渡し誰もいないことを確認する。


 「なっ!」


 男の短剣の突きをすれ違うように躱した勢いで男と背中を合わせながら指を男の後頭部に構える。


 「【デコピン】」


 振動魔力を込めた指によるデコピンを後頭部にぶつける。


 襲撃者は声を出す間もなく意識を手放したのだった。




 アイトは大雨の中、倒れている襲撃者の黒いコートを凝視し、確信する。


 「やっぱりだ。これ‥‥‥ルーンアサイドの紋章だ」


 ルーンアサイド。かつてラルドがボスを務めたグロッサ王国とりんこくで同盟関係にある、アステス王国内最大の暗殺組織。アイトが代表を務める《エルジュ》が結成される前の組織と言ってもいい。


 (どういうことだ? エルジュが結成された時点で

  ルーンアサイドは無くなったんじゃないのか?

  そう思い込んでたからラルドに聞いてなかった)


 アイトはひとまず襲撃者を路地裏へ隠す。


 (とりあえずルーンアサイドのことを聞くなら

  ターナかミストだな)


 かつてルーンアサイドの構成員だった2人ならわかると思い、アイトは魔結晶で先にターナへ連絡を取る。


 「‥‥‥出ない。忙しいのか?」


 ターナは連絡に応じなかった。仕方ないとアイトはこれまであまり接点のない(正確には自分のことをよく思われていない)ミストに連絡を取る。


 「‥‥‥あれ?? ミストも出ない」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「今日もターナは見つかりませんでしたね」


 「し、心配です」


 夜。オリバーとミストは公国内を歩いていた。情報収集をしたが、これといった収穫は無かった。


 「ですがターナにとって尋常ではない状況なのは

  確かです。同じような噂が流れていますし」


 「き、昨日の夜の噂ですよね」


 ミストが言う噂とは、『三大貴族の屋敷付近で血痕が見つかった』というもの。


 その噂だとオリバーは頷き、突然ミストの肩に手を置く。


 「うぇ!? どどどうしましたっ!?」


 「今から行きましょう。何かわかるかもしれません」


 「こ、こんな暗いのにぃぃ!?」


 「暗いから、ですよ!」


 その後も怖い怖いと叫ぶミストを落ち着かせつつも手首を掴んでオリバーは走り出したのだった。




 それから数分後、2人はヴァルヴァロッサ家の屋敷付近へ到着する。


 「ここに何もなければルルツ家に行きましょう」


 「は、はい。は、早く見つけましょうぅぅ」


 (暗殺者なのに暗いの苦手なんですね‥‥‥)


 オリバーは今にも泣き出しそうなミストにジト目を向けつつも辺りを入念に探し始める。


 すると、新たな展開へと移り変わる。



          グゥゥゥゥッ〜〜〜。



          「‥‥‥ミスト?」


       「違うんですこれはぁ〜〜!?」


 オリバーは後ろから聞こえた音の方へ振り向くとミストが自分の腹を両手で押さえてしゃがみ込んでいた。彼女の顔は真っ赤で今にも泣き出しそうである。


 確かに腹から音が鳴りそうなほどに適した時刻だと言っていい。


 「‥‥‥これから長期戦になるかもしれないので

  僕何か買ってきますよ。ミストは何かいりますか?」


 考えうる限り自然で完璧な気遣いをしたオリバー。


 「わ、私お腹なんて空いてません〜〜!!!」


 だがミストは彼の気遣いを台無しにする返事をする。場合によっては避けることができた気まずい空気が2人を襲う。


 「‥‥‥それでは勝手に買ってきますね。

  もしその中にミストの欲しいものがあれば

  言ってください」


 「え、でも!」


 「この前のお礼兼お詫びです。それでは」


 オリバーは微笑んでその場を離れていく。ミストの返事に何も答えずに用件だけ伝えて去ったのは彼の優しさか、それとも単にどう返事すればいいかわからなかったのか。


 「‥‥‥ありがとう、ございます‥‥‥」


 暗闇の中、俯いた少女のか細い声が微かに響く。もちろんオリバーは既におらず、周りにも誰もいないため独り言になる。



          「おアツいねぇ」



 はずだった。暗闇の中、返事をする男がいなければ。


 (!? 後ろっ)


 不意をつかれたミストは声が後ろから聞こえたため咄嗟にしゃがみながら足払いを繰り出す。


 「さっすが元ルーンアサイドの側近様だ」


 男はそれを読んでいたかの如く跳躍して足払いを躱すと、そのまま回し蹴りをミストの頬にぶつける。


 「ッ」


 声にもならない声を上げて後方へ吹き飛ぶミスト。


 「ハッ、自分から後ろへ飛ぶことで勢いを流したか。

  またしてもさすがと言うしかねえな!

  おい、その連絡は出なくて大丈夫かあ?」


 口から垂れる血を手の甲で拭くミストに対し一方的に話しかける男。



 男の言う通りミストが持ってる魔結晶が輝き、誰かから連絡が来ていることがわかる。だが、ミストはそれどころではなかった。


 「! あ、あなたはぁ!?」


 長い灰色髪をゴムで後ろ結びにしていて、体格が大きい男にミストは見覚えがあった。


 「デスト!? なんでこんな所にいるんですかぁ!?」


 「光栄だな。あの『残虐』ミスト様が覚えてるとは」


 デストと呼ばれた男は素手のままミストへと突進していった。

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