表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/347

俺の作戦

 仰向けに倒れるアイトは、両手で挟むように自身の頬を叩く。


 (‥‥‥さっきの攻防を得て、感じてた恐怖は完全に消えてる。全然戦えてるじゃん、俺)


 距離が離れたことで、アイトは頭が冷えた。


 さっきは怒り狂って後先を考えておらず、捨て身だった。何を言っていたか覚えてないほどだった。


 (なんだこの高揚感、さっきは完全に俺の思う通りに行動できた。今までの自分とは明らかに違う。今ならなんでもできそうな気さえしてくる)


 「レスタ様! お手伝いします!!!」


 するとエリスが、血の流すアイトに話しかけた。


 「来るなっ、こいつは俺がぶっ倒す!!そこで俺が勝つ瞬間を目に焼き付けろ!!」


 高揚感に支配されたアイトは、普段なら絶対に言わないことを言ってしまう。


 普段の彼ならエリスの手助けを断ることは絶対にしない。そして『目に焼き付けろ』なんてセリフも吐くわけがない。


 彼にとっては間違いなく黒歴史。後で思い出して恥ずかしさで悶絶し転がる未来が確定していた。


 だがそのような言葉が口から自然に出るほどの全能感に、今のアイトは満たされつつあった。


 「!!! は、はい♡♡」


 そしてエリスは‥‥‥アイトの言葉に超ときめいていた。


 エリスはこの時、自分はアイトの部下である事に幸せを噛み締めていた。


 アイトがラルドに対して今も劣勢なのは変わりない。


 先ほどは冷静じゃない故の偶然が重なり有利を取れたが、ラルドはそれが何回も通用するような相手ではない。


 (しかも、俺には切り札がない。魔法も生活に役立ちそうなものしか覚えてない。火の玉飛ばしたり雷飛ばしたりできない)


 アイトは冷静に思考し、判断していく。


 (だがどうしてか負ける気がしない。倒すための策が思いついたし、今の俺ならそれができる)


 「まさかここまでの信念と度胸があるとは。認めよう少年、貴様は強い。手強い。だから野放しにはできない。貴様は、必ずここで始末する」


 立ち上がったラルドは、素直にアイトを賞賛する。アイトもそれに応えるべく顔を合わせた。


 「そりゃあどうも。でも決着つけないとな。ターナがいつまで踏ん張れるかわからない。だから‥‥‥これで決めてやる!!」


 アイトは確かな宣言を言い放ち、ラルドに向かって全力で走り出す。


 「来い! 最後の悪あがきを見せてみろ!!!」


 ラルドは先ほどの足払いを警戒し、蹴りは出さないと決めた。両手に【血液凝固】を施す。


 アイトは両手に【血液凝固】を施したラルドを見る。そしてその瞬間に。



          「【線香花火】!」



 ここに来てアイトは、相手が知らない魔法を発動させる。当然ラルドは警戒心を強めた。


 アイトが短剣を持っていない方の手から小さな赤い玉が部屋の天井付近、それもラルドの真上に打ち上がる。その赤い玉から、パチパチと火花が散った。


 (なんだあれはっ)


 ラルドは思わず自分の真上にある派手な赤い玉に視線を誘導された。


 (だが、これからの顛末は分かるぞ)


 ラルドは気づいている。これは罠だと。短剣による攻撃が本命だとこれまでの攻防でわかっている。


 だから罠にかかったふりをして意識はアイトの方に残しつつ、ギリギリまで視線を天井にある赤い玉に向けた。


 もしさきほどのように心臓を狙ってきたら右手でアイトの腕を掴み、動揺させようと考えていた。


 「ーーー!!」


 アイトは上を向いているラルドの心臓へ、右手に持ってる短剣で突こうとする。


 「かかったな!!!!」


 ラルドは勝利を確信してそう叫ぶと心臓に向かってくる短剣を自分の右手でアイトの右腕を掴んだ。


 あとは残っている左手で攻撃すれば自分の勝ちだとラルドは確信した。


 「終わりだっ!!!」


 ラルドが何の躊躇もなく左手でアイトの左頬に向かって振りかぶろうとする。


 ところがその時、ラルドに予想外の攻撃が襲う。


 それは‥‥‥天井に残っていたラルドの真上にある赤い玉。


 火花が止み、その赤い玉が真下にいるラルドの頭に向かって落ちてきたのだ。


 「ぬっ!?」


 ラルドは思わず視線が真上に誘導される。


 「小癪なことを!!」


 そしてラルドは反射的に自由な左手で顔に振ってくる赤い玉を払う。これがラルドにとって痛恨の痛手と知らずに。


 「悪あがきはーーーっ?」


 ラルドはすぐに視線をアイトに戻すと先ほどとは違う違和感がある。そしてその違和感に気づく。


 短剣が、アイトの右手から消えている。また、その短剣が自分の腹とアイトの腹の中間付近を落ちていることを。



      「かかったのは、おまえ!!!」



 アイトが放った右膝の膝蹴りが、宙にあった短剣を押し込む。


  そして短剣が、ラルドの腹に突き刺さっていく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺の作戦はこうだった。


 まず【線香花火】を親玉の真上に打ち上げて視線を誘導する。この際は本当に視線を誘導されようが誘導されまいがどっちでもいい。親玉の真上に打ち上げたことが重要だ。


 次に親玉の心臓狙って短剣を刺しにいく。これも本当に心臓に刺さろうが阻止されようがどちらでもいい。ここで重要だったのが阻止のされ方。


 親玉は今武器を持っていないから短剣そのものを素手で弾くとは考えにくい。だから俺の腕を掴んでくると考えた。そして予想的中。俺の腕を掴んできた。


 その瞬間に【線香花火】の終わりを示す、玉が落ちる現象。それを真下にいる親玉めがけて落とす。これが今回の作戦で最も重要だった。


 まさか陽動だと思っていた赤い玉が時間差で自分に向かって降ってくるなんて考えてなかっただろう。火花が散っていた派手な線香花火を見た時点で視線誘導のための魔法だと考えたはずだ。


 だからその予想外の攻撃に俺の腕を掴んでいない方の手で自分の顔に振ってくる赤い玉を払うと思った。その一瞬、親玉は自分の手によって視界が遮られる。


 その瞬間に俺は右手に持っていた短剣を放す。床に落下しようとする短剣が自分の膝蹴りで押し込める地点まで来た時点で、俺の勝ちが決まっていた。


 そして短剣を乗せた俺の膝蹴りが親玉の腹に命中。短剣が腹に突き刺さったというわけだ。


          俺の、勝ちだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「ヴァァァァァっ!!!」


 アイトは声を上げながら、短剣を押し込む膝蹴りを最後まで振り抜く。


 「ぐっ! がぁぁっ!!?」


 そしてラルドは腹に短剣が刺さったままアイトの膝蹴りを受ける。


 そして、後ろに吹き飛んで背中から壁に激突した。


 「このッ‥‥‥」


 壁に持たれるように倒れたラルドは、腹に刺さった短剣を抜こうとする。だが激痛で自分の手では抜けない。


 またどんどん出血することで、切り札である【血液凝固】の継続が不可能となった。


 「安心しろ、たぶん急所は外した」



 どちらが勝者か、誰の目から見ても明らかだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ