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よろしくおねがいしま〜す♡

 ミルドステア公国。


 アイトたち3人は宿の前に立っていた。


 「舞踏会に必要な物は揃ったわね。

  今日はもう遅いし、ここで泊まりましょうか」


 「ふふ、今日も楽しみですね〜♪」


 マリアとステラは扉を開けて中に入っていく。アイトは遠い目をしながら後に続いた。


 「3名様ですね。ご案内いたします」


 「あ、2人と1人ね。1人はこの子」


 「痛い痛い!!」


 マリアはバンバンとアイトの肩を叩く。


 (はあ、やっと休める‥‥‥)


 「アイトくん、今日もありがとうございました」


 「いえいえ! これからもがんばりましょお!!」


 ステラ王女の微笑みに声が裏返るアイト。深く頭を下げながら部屋に入っていくのだった。そしてよほど疲れていたのかすぐに深い眠りに落ちていった。




 翌朝。


 「ふあ〜よく寝た」


 アイトは目を擦りながら宿の部屋を出る。マリアたちが宿泊している隣の部屋をノックするが返事はない。


 「‥‥‥?」


 中に入るが誰もいない。その代わりに部屋の扉の内側に小さな紙が貼られていた。


 「『舞踏会の主催、ヴァルヴァロッサ家の屋敷に

   挨拶に行ってくる。夕方には戻ってくるから

   適当に時間潰しておいて』‥‥‥先に言って!?」


 アイトは突然舞い降りた自由時間に心躍らせ、宿から飛び出していった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ヴァルヴァロッサ家が所有する舞踏会場。


 「ステラ王女、マリア殿。よく来ていただきました」


 そう言ったのはミルドステア公国の三大貴族の一つ、ヴァルヴァロッサ家の当主バルバ・ヴァルヴァロッサ。白髪混じりの茶髪のオールバック男性。


 彼を挟むように両隣に控えているのは息子のボルボ・ヴァルヴァロッサと娘のネコ・ヴァルヴァロッサ。


 ボルボは長い茶髪で20歳の青年、ネコは栗色の長い髪をまっすぐに下ろしている16歳の少女。


 「舞踏会のお誘い、ありがとうございます」


 ステラは洗練された所作で頭を下げる。顔を上げたステラの微笑みも合わさることで両端に列を作って並んでいた召使いたちは彼女に魅了され、息を呑む。


 そしてボルボは薄ら笑いを浮かべながら舐め回すようにステラ王女を眺めていた。その視線に気づいたのはステラではなくーーー。


 「お誘いありがとうございます。

  ここで舞踏会が開催されるのですか?」


 マリアはステラ王女の前に割り込みながら聞き返す。鈍感なステラは周囲を魅了するほどの自分の容貌に気づいていないのだ。


 割り込んだマリアに対してボルボは思わず舌打ちをしていた。マリアは全く意に介していない。2人の様子に気づいていないバルバは聞かれたことに答えていた。


 「そうだ。ここに大勢の人が集まる。

  とても有意義な時間になるはずだ。

  マリア殿も参加されるのだろう?」


 「はい。周囲に疎いステラ様を1人にはできませんから」


 「ひどいですマリア先輩〜」


 公の場であるためステラに様付けで呼ぶマリア。


 ステラはぷくぅと頬を膨らませ、マリアの背中を指でトントンとつつく。そんな彼女にマリアとボルボの睨み合いには気づくはずもない。


 (いやらしい視線でステラを見てくるあの男。

  あれが親の七光で有名なボルボね。

  絶対にステラには近づけさせない)


 (なんだあの女? 強気で生意気そうな女だが

  後ろで結っている黒髪はよく手入れされている。

  下級貴族にしては顔も体つきも悪くない。

  よし、ステラ王女のついでにあの女も俺の物に‥‥‥)


 マリアとボルボは周囲にバレないようにお互いを睨み続ける。


 屋敷を後にするまでマリアはボルボの視線からマリアを守り続けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 (ミルドステア公国もずいぶん賑やかだな)


 アイトはミルドステア公国を1人で歩いていた。


 「どうですか〜!!! 誰か披露していきませんか!」


 声がした方を向くと、小さめの舞台が目に入った。


 (ん? 『舞踏披露会』?

  踊りに自信のある人大募集、

  ファロン様のお目に留まれば金一封??)


 グロッサ王国で見たことがない催しにアイトは興味を持ち、舞台の下に集まる観客たちの後ろに控える。


 「なんだい兄ちゃん。お前も気になるのかい?」


 隣にいた髭を生やした老人がアイトに話しかける。


 「はい、初めて見たので。よく開催されるのですか?」


 「いや、儂もこんなもの初めて見るわい。

  まあ舞踏会には参加できない者からしたら

  こんな小さい規模でも、舞踏会で披露されるほどの

  踊りを見られるのは嬉しいことじゃよ」


 「え、こういうのは初めてなんですか」


 「? そうじゃが。お、そろそろ始まるぞい」


 老人は舞台に目を向けて会話を打ち切る。アイトもぼんやりと舞台を眺め始める。


 (初めてなんだな。舞踏会は歴史あるものなのに、

  こういう催しは初めてか‥‥‥何か引っかかる)


 アイトが考え込んでいる間に参加者が踊りを披露していく。観客は大いに盛り上がるが恐らく主催者であるファロンという男は静かに見ていた。


 (あの貴族のオッサンはこの披露会の主催者なのに

  全然楽しそうじゃないな。娯楽が目的じゃない?)


 「次の方! 舞台にお上がりください!」


 アイトが考え込んでいる間にも次の参加者が舞台に上がる。


 「クロエで〜す! よろしくお願いしま〜す♡」


 次の参加者は黒髪のサイドテールで愛らしい顔と幼い体つきの少女。


 その少女の媚び媚びの声が聞こえ、ふと舞台へと視線を移す。そしてそのタイミングで少女が舞台で踊り始める。


 少女はしなやかに腕を伸ばし腰を逸らす。足取りは軽やかで、まるで舞っているかのよう。クロエという少女は自分の身体をよく理解しているのか、全身を使って表現する。


 「〜〜♪」


 そんな少女の表情は宝石のような輝きを持つ笑顔。わざとなのか少しあざとさを感じるが、逆にそれがギャップとなって踊りを引き立たせる。


 まるで彼女のために開催されたのではないかと錯覚してしまうほどだった。少女を見ていた観客が魅了されていく。ただ1人を除いて。


 (すごいけど、エリスの方が流暢だな)


 美しく力強いエリスの舞うような【剣戟ブレイドダンス】を何回も見てきたアイトは目が肥えていた。厳密に言えばエリスのは踊りではないが、そんなことがアイトにわかるわけがない。


 少女が両手をまっすぐ真上へと伸ばして踵を浮かせて華麗に回り出す。いよいよ終わりが訪れようとしていた。


 終わってほしくない。誰もがそう感じていた。


 「〜〜てへっ♡」


 少女はウィンクしながら首を傾げて観客へと右手を伸ばす。


 華麗な踊りには似合わない媚びた猫撫で声。それがトドメだった。


 「ありがとうございました〜♪」


 少女は予測していたかのように、大勢の歓声と拍手を手を振りながら笑顔で受け止めた。


 そして披露会の主催者、ファロン・ルルツは席から立ち上がっていた。


 「あの子を呼び出せ」


 後ろに控えていた召使いに小声でそう言ったファロンはニヤリと笑っていた。


 (自分の可愛さをよくわかってる子だったな。

  ってそろそろ戻らないと怒られる!?)


 そして姉に怒られないように足早に走り去るアイトだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ミルドステア公国内の三大貴族の一角、ヴァルヴァロッサ家の屋敷。


 「本日、舞踏披露会というものが行われていました。

  主催者はファロン・ルルツ殿です」


 ヴァルヴァロッサ家に仕える侍女がそう報告すると、現当主バルバ・ヴァルヴァロッサは眉を顰めた。


 「あの男が? いくら娘が死んで錯乱してるとはいえ、

  それはいささか不謹慎だな。

  今回の舞踏会に参加できない八つ当たりか?」


 「それが‥‥‥これが先ほど送られてきた書状です」


 遠慮した様子で侍女は右手に持った書状をバルバに渡す。受け取ったバルバは書状を広げて書かれている内容を確認する。


 「なに‥‥‥? 参加の要請だと‥‥‥!?」


 書かれていた内容は、舞踏会への参加要請だった。バルバは怒りで書状を握りつぶす。


 「良いだろう‥‥‥これまでと同じようネコに

  敗北する姿が楽しみだっ! 送っておけ!!」


 「かしこまりました」


 侍女はバルバが出ていくまで恭しく頭を下げ続けていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ヴァルヴァロッサ家の屋敷、2階廊下。


 「お兄様!! あの態度はなんですか!?」


 「ああ?」


 ネコ・ヴァルヴァロッサは長い栗色の髪を揺らしながら兄であるボルボ・ヴァルヴァロッサに問い詰める。


 「あの態度は何ですか!?

  グロッサ王国の第一王女と最強部隊の隊員ですよ!?

  国家間での問題になればどうするのですか!?」


 ネコはボルボ性的で蔑んだ視線をステラとマリアに向けていたことに気づいていた。


 「お前が俺に許可もなく話しかけんな。うぜえんだよ」


 ボルボは聞く気がないのかズカズカと歩き出す。ネコは彼の先に回り込んで両手を伸ばす。


 「聞いてください!! お兄様は次期当主なんですよ!

  もっとそのことを自覚していただかないと家がーー」


 「あ??」


 「きゃっ!!」


 低く怒った声を出したボルボはネコを蹴飛ばした。ネコは尻餅をつく。


 「部外者のお前が余計な口を挟むなぁっ!!」


 「部外者って‥‥‥兄妹じゃありませんか!」


 「へえ? どっかから拾われたお前が妹だって??」


 「!!」


 ネコは何も言い返せない。それは彼女にとって1番心に刺さることだった。


 「伝統である舞踏会で踊れる女がいないから

  偶然拾われたお前が、家のことを語るな。

  少し踊りに長けてるからって調子に乗りやがって」


 「‥‥‥」


 「俺が当主になったらすぐにお前を追い出してやる。

  ま、俺の寵愛を受けたいなら足を舐めて

  懇願すれば考えてやらんでもないぞ??

  見てくれだけはマシな方だからな? どうだ?」


 「‥‥‥っ、失礼しますっ」


 両手で口を押さえたネコは足早に去っていく。それを見たボルボは高笑いして逆方向へと歩いていった。


 (なんで‥‥‥なんで私がこんな目に‥‥‥!!

  このままだと、この家は終わる‥‥‥!

  それならもういっそ私が‥‥‥私がっ!)


 ネコは両目に涙を溜め、嗚咽を漏らして部屋へと戻った。

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