久しぶりです〜
ミルドステア公国。
「ん〜! やっと着いたわね!!」
「ふふ、長旅なんて久しぶりです〜」
(も、もう疲れたわ‥‥‥)
アイトたちは1週間近くかけてミルドステア公国に到着した。
「さ! さっそく着替えるわよ!」
「「‥‥‥え?」」
アイト、ステラの2人は『さっそく着替える』の意味がわからず声が重なり、同時に首を傾げるのだった。
そしてマリアの言われた通り着替えた2人。
「な、なんで私だけこんな格好を〜」
両手で真っ赤な顔を押さえたのはステラだった。背中にはマント、服の上に鉄製の胸当て、左腰には短剣を付けている。いかにも冒険者といった格好である。
(絶望的に似合ってないな‥‥‥コスプレ感がすごい)
アイトは遠い目をしてステラをぼんやりと見つめる。
容姿があまりにも整いすぎているのと生粋のお嬢様オーラによって、『破天荒なお嬢様』感が滲み出ていたのだ。
「ステラは明らかに王女って雰囲気があるから
少しでも誤魔化さないと。バレたら騒ぎになるわ」
そう言ったマリアは『ルーライト』の騎士制服ではなく白のワンポイントTシャツに赤のスカートという私服だが腰には刀を帯びている。休日の日の冒険者といった感じだ。
アイトは白のシャツに黒のワークズボン、そして腰には短剣(市販のもの)をつけている。
人から見れば冒険者パーティに見えるだろう(ステラを除いて)。冒険者はどこの地にもいるものだ。
「舞踏会は2日後。急がないとね!
さ、今からドレスを買わないと!」
「はい。どんな服があるんでしょうね〜」
(え‥‥‥ハードスケジュールすぎない???)
「そこからかよ」と感じつつも2人の後をついて行った。
「これ可愛い! ステラに似合いそう!」
「この真っ黒のドレス、マリア先輩に着てほしいです」
ステラとマリアは何故か自分のではなくお互いのドレスを模索していた。アイトは端っこで欠伸をしていた。
3人はミルドステア公国内で最も大きい店舗、『ジュピタメルティ』へと足を運んでいた。そしてその店舗を運営しているグループ名を聞いてアイトは驚いていた。
(メルティ商会‥‥‥まさかここまで広がってるのか)
エルジュが資金確保、情報収集のために作り出した商会。着々に運営範囲を広げていたが、遂にグロッサ王国外にまでも及んでいた。仮にもアイトは代表なのだが、当然のごとく全く知らなかった。
「あの、何かお探しでごさいますか?」
ぼんやりしていると店員の女性に話しかけられる。まさか話しかけられると思っていなかったアイトは茶髪のポニーテールの店員をガン見してしまう。
「い、いえあそこの2人のドレス選びを待ってまして」
「失礼ですが、お客様も何かご希望の服は
ございませんか?」
「え? 別に俺は」
「お客様だけ服の印象が違うのはこの国では
よくありません。容姿の印象はとても大事です」
(なるほど。さすが舞踏会を伝統的に行う国)
納得した様子でウンウンと頷いていると、店員がパァッと笑顔になりアイトの手を引いていく。
「ちょい!?」
「それでは! こちらにどうぞどうぞ〜!!」
その後アイトは前世でよく見たタキシードを試着させられ、それを目撃したマリアが買い取った。
大した商売根性を持ったその店員は当然エルジュの構成員。
エルジュ戦略序列第27位、イシュメル。
後にメルティ商会を大いに支える存在へと成長することを誰も知らない。
もしアイトが『天帝』レスタだと知っていれば、彼が来店した時点で店員は瞬時に地面にひれ伏しただろう。
だがそれに似た衝撃を彼女は、いや店舗内で働くエルジュ構成員が味わうことになる。
服を購入したアイトたちが店を後にした数分後。とある2人客が訪れる。
「いらっしゃいまっ‥‥‥!? あなたたちは!?」
出入り口付近で受け付け窓口をしていた店員が深々と頭を下げる。それはエルジュ構成員にとって憧れの的である11人のうちの2人。
「お疲れ様。今いいですか?」
「きゅ、急に来てすみません〜〜!!」
エルジュ精鋭部隊《黄昏》No.7『瞬殺』オリバー。
同じくNo.9『破魔矢』ミスト。
構成員にとって憧れの的である2人が来店したのだった。