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久しぶりね???

 怪盗騒動から約1ヶ月後の9月初頭。


 グロッサ王国、王都南地区。


 黒髪の少年は南地区に佇んでいる華やかな店舗には目もくれず通り過ぎ、まっすぐ歩いていく。


 (王都も久しぶりだ。ずっと来てなかったし。

  ここ最近はーーーうっ、考えると目眩が‥‥‥)


 少年は自身の夏休みを思い出して身震いした。高笑いしながら襲いかかってくるドS銀髪女性を思い出し、必死にその記憶を封じ込める。


 『困ったらこの魔結晶に話しかけろ。

  どんな話でも少しくらいなら聞いてやる。

  あ、修行ならいつでもOKだぞ』


 そこでアイトは昨日言われたことを思い出したが、これ以上頼ると後が怖いため心の片隅に置くと決めた。


 「あ、一つください」


 「まいどー」


 まっすぐ歩いていた彼だが、ここ最近の王都の様子が気になったのか、売られていた王国記事を買って歩きながら読み始める。


 「はっ!?」


 すると少年は人目が多い王都の中で声を上げてしまう。視線が集まってきたため急いで近くの路地裏へと逃げ込んだ。


 (謎の集団、王都で暗躍!? 怪盗も行方知らず!?)


 出だしには怪盗ハートゥのことが書かれており、お目当ての宝は盗み出せなかったと大々的に載せられていた。そしてその怪盗は謎の集団の餌食になったかもしれないと。


 (ゴートゥーヘルか? だとしたらなんで怪盗を?)


 少年はすぐに犯罪組織ゴートゥーヘルのことを思い浮かべる。そう、彼にとって奴らは宿敵なのだ。


 そして自分が代表をしている組織のことは頭の中に少しも浮かんでこないのである。


 (エリスたち、元気にしてくれるかな〜)


 こうして謎の組織エルジュの代表『天帝』レスタこと、アイト・ディスローグは帰ってきた。



 アイトが目指していたのは、南地区で商売をしている『マーズメルティ』。


 南地区の中でも最近特に繁盛している店だが正体はエルジュの活動拠点の一つであり、アイトの部下(彼にそんな意識はない)が潜伏している。


 「あっ‥‥‥」


 その店を目指して最短ルートで歩くアイトに割り込むように、見知った顔が視界に入る。そしてその人物の顔がどんどんアイトの視界に接近していく。相手がズカズカ音を立てるように歩いてきたのだ。



       「あらアイト。久しぶりね???」



 黒髪を揺らしながら自分に話しかけてくる少女を見て、アイトは咄嗟に笑顔を作る。誰が見ても心の底から笑っていない作り込んだ笑顔だとわかる。ちなみに冷や汗は隠しきれていない。


 「ひ、久しぶり姉さん〜。朝早いねっ?」


 アイトの姉、マリア・ディスローグ。魔法は発動していないのに彼女の得意な雷が降りそうな威圧感を感じ取った。


 「今日から夏休みも終わって新学期。

  だから1ヶ月もいなかった弟も来ると思ってね?

  私1人で実家に帰ったら、アリサが

  『兄さんのバカぁぁ〜〜!!』って泣き叫んでたわ」


 「ゔっ」


 マリアの言葉は棘だらけで、心にグサグサと刺さる感覚に呻き声をあげるアイト。入学以来まったく会っていない妹のアリサのことを聞いて申し訳なさが込み上げてくる。


 「それじゃあ待ち合わせがあるから、これでーーー」


 耐えられなくなったアイトは背中を向けて走り出す前に、首に腕を回された。


 「ずいぶん勝手に動いたわね〜?

  『小遣い稼ぎのために友達と鉱石掘ってくる』って

  シロアにそう言い残して、お姉ちゃんである

  私には何の断りもなく出ていっちゃったもんね?」


 (そ、そうだった‥‥‥!!

  アーシャとの修行なんて言えないから

  シロア先輩にはそう言ったんだった!!)


 修行に出る前の日。涙をポロポロ溢れさせてぷるぷる震えるシロアの姿を思い出す。その時は修行を断念しようと思ったほどだった。


 「シロアは友達のあんたにそう言われて

  ずっと落ち込んでたんだからね?

  あの子、夏休みはあんたとしたいことがあるって

  目を輝かせて前からずっと

  カレンダー表に予定を書き書きしてたんだから」


 「そうだったの!?」


 その姿が容易に想像でき、申し訳なさが込み上げてくる。


 「今回の件が終わったら後で絶対顔を見せなさいよ」


 「う、うんそれはもう。って今回の件?」


 何か引っ掛かるような言い回しに、アイトは首を傾げる。それを見たマリアは嬉しそうだった。


 「お姉ちゃんも少しくらい勝手に動いていいわよね?

  人のことを気にせず」


 「どういうこ☆○×△〜!?」


 密着状態でマリアは雷を纏ったためアイトは質問を遮られた。そして首をホールドされたままマリアに連行されていった。



   「んふふっ‥‥‥! レスタくんおかえり〜!」



 その直後、『マーズメルティ』の扉が開く。メイド服に身を包んだ銀髪ツインテールの少女が笑顔で外に飛び出る。


 「はにゃ? さっき声が聞こえた気がしたのに」


 少女はキョロキョロ周囲を見渡すが、待っていた人物はいなかった。


 「カンナ、どーし?」


 開いていた扉から外に出たリゼッタがカンナに話しかける。


 「‥‥‥ううんなんでもない! さ、準備しよっか!」


 「ぅお〜」


 カンナは気のせいだと思い、店の中へと戻っていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「‥‥‥ん? ここは‥‥‥」


 約1時間後。目を覚ましたアイトは周囲を確認すると、見知った顔が目に入る。


 「あ、マリア先輩。弟くん目が覚めました〜。

  どこか痛いところはございませんか〜」


 アイトを上から覗き込んでいた女性がおっとりとした口調で言った。その女性は水色の長い髪をまっすぐに下ろしており、穏やか様子で微笑んでいる。まるで聖母のようだ。


 そんな彼女を、アイトは当然知っている。学園で、いやグロッサ王国でその名を知らない者はいない。


 「す、ステラ王女!?」


 アイトは視界に広がる彼女の名前を叫んだ。


 グロッサ王国第一王女ステラ・グロッサ。


 目覚めた途端に第一王女が自分の顔を覗き込んでいる。あまりにも予想外な展開だったのだ。


 「私のことはステラで大丈夫ですよ。

  ユリアちゃんのお友達なんですから〜」


 「いえいえとんでもございません!!」


 アイトは確かに第二王女のユリア・グロッサと親しい間柄(レスタのことを知られている)ではあるが、だからといって彼女の姉であるステラに馴れ馴れしい態度がとれるわけがない。それに別の理由もあった。


 (ユリアはなんか、畏まらなくていいんだよな。

  対してステラ王女はザ・温室育ちの王女様なんだよ)


 戦闘マニア(見る専門)で物事に突っ込んでいくお転婆王女ユリアと違って気品溢れる雰囲気を持つ。


 周囲を癒す効果がありそうな慈愛の笑顔を放つステラは、アイトにとってすごく話しかけづらい存在だったのだ。


 「わかったから! 王女なのに近づきすぎよ!?」


 近くに座っていたマリアが2人の間に割り込む。


 「ふふっ。マリア先輩は本当に良いお姉さんですね」


 真意を察したステラはにこにこ微笑む。マリアは真っ赤にした顔を背けた。


 「あ、それは無いです」


 「あんたが否定すんなっ!!!」


 だがアイトの発言によって背けた顔が戻ってきた姉の拳骨を脳天に受ける。


 「ってこんなことしてる場合じゃない!!

  なんで俺、ステラ王女と姉さんと一緒に

  馬車に乗ってるんだ!!?」


 そう、目覚めたアイトは2人と共に馬車で移動を始めていたのだ。


 「それはね。私たち3人の任務があるのよ。

  ま、私は護衛であんたは付き添いだけどね」


 「し、仕事? ステラ王女の仕事ってこと?」


 「はい。突然のことで申し訳ございません」


 向かいに座っていたステラは綺麗な所作で頭を下げる。


 「私の護衛には兄さんが指揮する『ルーライト』の

  隊員であるマリア先輩が選ばれまして。

  マリア先輩、忙しいのに本当にごめんなさい」


 「いやいや! ステラが気にすることじゃないわ!!

  学園の先輩である私ならステラも落ち着けるでしょ」


 「マリア先輩‥‥‥ありがとうございます」


 「今回の公務、いっしょにがんばりましょ!」


 拳を突き上げるマリアにステラはパチパチと拍手をする。


 (姉さんって学園の後輩に対しては良い人なんだな)


 弟目線のアイトは至極失礼なことを考えていたが、すぐに疑問が浮かび上がる。


 「ん? それじゃあ、俺は何でここに?」


 「それはね、ステラの公務であんたが適任だから」


 (え? 学園生活での俺を見て適任だと‥‥‥?)


 学園でのアイトは『ルーライト』隊員の姉がいることを除けば、1年Dクラスに所属する普通の学生。


 今のところ怪しまれていない学園生活で選ばれる理由があったのか考え込むアイトに、マリアは答えを述べる。


 「ミルドステア公国で行われる舞踏会よ。

  多くの高位爵位の貴族、ステラのような

  王族も参加することもある、伝統の舞踏会なの」


 「ぶ、舞踏会‥‥‥?」


 アイトは、思わず声を漏らしていた。

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