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記録 エルジュ代表 No.0、『天帝』レスタ

 これはまだ少年と言われるほどの年齢でありながら、エルジュ代表でNo.0『天帝』と呼ばれようになるレスタについての記録である。


 出生はグロッサ王国のどこかと言うことしかわかっておらず、素顔や家族構成は彼直属の精鋭部隊《黄昏トワイライト》と教官のラルドしか知らない。


 外見は銀髪で仮面をつけている。このように数多くの謎に包まれた彼だが、一つだけわかっていることがある。


 それは、疑いようもなく実力者であるということ。


 その根拠は2つある。1つは後にエルジュ戦力序列第1位となって『覇王』と呼ばれるようになるエリスが自分から仕えたいと懇願したことが


 もう1つは隣国のアステス王国最大の暗殺組織、《ルーンアサイド》のボスであるラルド・バンネールを13歳という若さで単独撃破したこと。


 その戦いを終えた後、ラルドはレスタに惹かれてエリスと同様に仕えたいと決意。自分を含め、構成員300人全てをレスタの下につけようとした。


 納得がいかず離れていった部下も複数人いたが、ほとんどはレスタの下につくことになった。


 そして『天帝』と呼ばれるようになる彼は元ルーンアサイドの本拠地にやって来ていた。



 「悪いラルド。今日も頼む」


 「あとは実戦形式で試すのみだな」


 レスタ、ラルドの2人はお互い武器を持たず素手。構えを取った後、どちらからとも無く突進する。


 バチンッと火花が弾けるような音が2つ重なる。レスタ、ラルドの両者が【血液凝固】を発動したのだ。


 ラルドの右フックをレスタは左手の甲で払い、右アッパーを繰り出す。ラルドは首を逸らして回避するが、それを予測していたレスタは右縦蹴りでラルドを蹴り飛ばす。


 「ぬっ‥‥‥」


 ラルドは後方に飛ばされて着地した途端、両手だけだった【血液凝固】を両足にも発動する。四肢を強化したラルドは正真正銘の全力。対してレスタは右手だけに【血液凝固】を発動していた。


 「はぁっ!!」


 鋭い声と共にラルドは限界を超えた速さでレスタへと詰めよる。


 レスタは落ち着いた様子で構えをとる。膝を曲げて腰を低くし右手を少し曲げて前に出す。


 (いったい、何をするつもりだ?? 特にあの右手)


 そう考えたラルドはレスタの右手を警戒しながら拳撃を繰り出す。レスタはラルドの拳を冷静に捌く。


 「っ」


 ところが、ラルドの狙い澄ました足払いによりレスタは足を取られて体勢を崩す。


 好機と感じたラルドは溜めの入った右手の正拳突きを繰り出す。


 「来た」


 レスタはそう呟いた後、ラルドの右拳を右手で掴みこむ。そして。


 「【デコピン】」


 右手の上に交差するように左手をまっすぐラルドの額に伸ばし、低練度だが振動魔法の魔力を載せたデコピンを繰り出した。


 デコピンの衝撃でラルドが後方に吹き飛ぶ。脳が揺れたラルドは立ち上がることができなかった。


 「くっ‥‥‥参った。さ、さすがだなレスタ殿」


 ラルドは寝転がったまま降参を示す。レスタはラルドの元へと歩き始める。


 「いや、ラルドも前より攻撃が鋭くなってて

  危なかった」


 「まさか、【血液凝固】を囮に使うとは。

  もしや足払いも読んでいたのか?」


 「ん〜、そこまでは読んでない。

  でもあれだけラルドの両拳を捌き続けていたら

  不意をついた足による攻撃が来ると思ってた」


 (な、なんて戦術眼だ‥‥‥我とは器が違いすぎる)


 ラルドは心底レスタの実力に惚れ惚れし、高笑いを始める。レスタはそれを首を傾げて見ていた。




 「それでラルド、【血液凝固】はどうだった?」


 「申し分ない。これでもう大丈夫だろう」


 レスタがここに来た理由。ルーンアサイドの秘術、【血液凝固】を習得するためだった。これまでも定期的に足を運んでラルドに教わっていたのだ。さっきの実戦もその過程に過ぎない。


 「ありがとうラルド。また何かあったら来る」


 「うむ。またいつでも来てくれ。

  だがもしかすれば近いうちに呼び出すかもしれん」


 「その時はもちろん来る」


 (これで訓練生たちにレスタ殿と対面させてもいい

  許可は取れた。あとはその日をどうするか‥‥‥)


 ラルドは考え込んでいるレスタは外へと歩き出す。と思いきや少し歩いた後に振り返る。


 「そういえば、エリスは元気?

  こっちに来るたびにいないようだし」


 「ん? ああ元気だぞ。実力も前より伸びた。

  組織のために尽力してくれている」


 「組織のために‥‥‥《ルーンアサイド》に、

  そしてラルドに恩を感じてるんだな」


 「? まあ我に対しても感じてはいると思うが」


 「? 他に誰かいるのか?」


 「? 部下として、レスタ殿のために

  がんばっていると我は思うぞ」


 「別に部下って感じじゃないけど‥‥‥元気ならいい。

  これからもがんばれって伝えてくれないか?」


 「うむ。だがそれはもう伝わっていると思うぞ」


 「確かに。それじゃあ」


 レスタは再び歩き出す。次は止まることなく、やがて見えなくなった。


 「‥‥‥らしいぞ? 伝わったか、エリス」


 『‥‥‥は、はい♡』


 取り出した魔結晶から、甘ったるい声が聞こえる。1年半ぶりにレスタの声を聞いたエリスは歓喜の声に震えていた。


 (まあレスタ殿も勘付いておったことだろうし。

  気恥ずかしかったのか、魔結晶のことに

  気づいてない素振りで話すとは。

  レスタ殿にも年相応な部分があるのだな)


 ラルドはその後エリスに話しかけるが、しばらくの間音信不通となった。



 後にエリスとラルドは訓練生の成績発表と表彰式の際にレスタを呼ぶことを決めた。


 『覇王』エリスを始め、数多くの実力者をまとめる絶対的リーダー。世界を変えるのは彼のような才ある者だ。



 以上がエルジュ代表、『天帝』レスタについて記された記録である。

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