記録 精鋭部隊《黄昏》No.1、『覇王』エリス
これはエルジュ戦力序列第1位、精鋭部隊《黄昏》に所属したエリスの訓練生時代について記した記録である。
エリスは謎の襲撃者(後にゴートゥーヘルの構成員だと判明)に襲われた際に偶然居合わせた(エリスは運命だと思っている)アイトに助けられた。
その際に勇者の魔眼の秘めたる力の1つ『共鳴』により、後にアイトが大勢の前に立つ英雄の姿を知ったのだ(つまり彼の未来の一端を先んじて知った)。
そのことでアイトに仕えたいと懇願し、彼の部下になる。
その後、ターナの弟誘拐事件から隣国のアステス王国内で最大の暗殺組織 《ルーンアサイド》に乗り込むことになり、ボスのラルド・バンネールにアイトは勝利。
事件解決後、エリスとラルドの意思からアイトを代表とする新たな組織を作り始める。そしてその組織の名前がエルジュである。
エリスはエルジュの構成員になり、訓練生として訓練を開始。
身体能力、魔法、頭脳など全ての項目において文句なし。勇者の魔眼をもつ末裔としてふさわしいと言えるだろう。
ハーフエルフということもあって容貌も頭一つ抜きん出ており、異性はもちろん同性ですらウットリとしてしまうほどの美貌を持つ。
『序列第1位はエリスしか考えられない』。最終試験を受ける前の訓練生の大半がそう思っていたほどである。まさに別次元といった感じだ。
そんな完璧ともいえる彼女が挑んだ試験の最終項目、ラルド教官との実戦。
訓練場。
「準備はいいか」
「はい。いつでも大丈夫です」
エリスは鞘から剣(もちろん訓練用)を抜いて構える。その様子を見たラルドは額から一滴の汗が滴り落ちる。
(これが勇者の末裔の威圧感か‥‥‥
初めて見た時とはまるで別人だ。
約1年半の訓練で心身ともに成長し、
すでに今の段階で本物の強者になりつつある。
さすがレスタ殿が認めた最初の部下だ)
ラルドは気後れしている心を叩き起こして短剣(訓練用)を構える。
「‥‥‥行くぞ」
ラルドはエリスへと突進する。エリスを崩すには接近戦しかないと考えていた。
右手に持った短剣による突きをエリスは半歩横にずれて躱す。直後の薙ぎ払いもしゃがんで躱すと同時に足払いをラルドにぶつける。
「ぬうっ!?」
足を取られ身体が浮いたラルドは両手を床についてバク転し距離を取る。いや、取れなかった。
その動きを読んでいたエリスはすでにバク転を終えたラルドへと接近していた。右斜め下に剣を振り下ろす。
「ぐっ」
ラルドは両足に【血液凝固】を施し限界以上の速さでエリスの背後に回り込む。そして右手の短剣による連続攻撃を繰り出す。
大人気ないと言われればラルドは何も言い返せない。だが彼は何も言うつもりはなかった。エリスはそれほどの相手だと認めていた。
エリスはことごとくナイフを躱し続ける。エリスのナイフに対して回避と捌きを続けていく。魔眼の力による動作予知でラルドの攻撃を先読みしているのだ。
(教官である私が、全く相手にならん!!
これほどまでに差を感じるのは
数日前に手合わせしたーーー)
ラルドの思考はここで途切れる。短剣を持つラルドの右手首をエリスは左裏拳で弾き飛ばしたのだ。
ラルドの右手が水平に円を描くように外側へとブレる。体勢を崩したその瞬間を、エリスは見逃さない。
エリスが剣を深く構えて突進した瞬間、ラルドは反射的に両腕に【血液凝固】を発動。両手を胸の前で交差させて防御姿勢をとる。
それを見たエリスは微笑んでいた。
「がっ‥‥‥!!?」
ラルドは呻き声を上げてその場に膝をつく。
両手で守った箇所以外の脇腹、あとは右腰、左脛に激痛が走る。
エリスは既にラルドの背後で剣を鞘に納めている。
(な、なんだ今の動きは‥‥‥!?)
ラルドが目にしたのは、流れるように滑らかに動き剣を振るうエリス。ラルドには彼女の剣筋が全く見えなかったのだ。
【剣戟】。
勇者の魔眼、剣術、体術を合わせた彼女しかできない動きは、教官のラルドすらも圧倒した。
「‥‥‥完敗だ。強くなったな」
「ありがとうございます」
エリスは微笑みながら一礼する。その後、エリスとラルドはエルジュの代表レスタ(アイト)にいつ来てもらうか話しながら訓練場を後にするのだった。
これが冒頭に繋がり、構成員の前でレスタが挨拶をすることになる。
後に知らされた実戦の点数は100点。
身体能力、頭脳共に文句なし。さらに勇者の魔眼による先読みも成長しており、最後に見せた動き(【剣戟(ブレイドダンス】)も凄まじい。よって最高評価を得た。
エリスは試験の全項目において全て1位(同率1位の試験も含む)という文字通りの最高評価を記録した。
数日後、当然というべきかエリスは序列1位に選出され、《黄昏》への所属を果たす。
エリスは、世界の頂点に立つ素質を秘めている。
以上が、訓練生時代のエリスの記録である。