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幕間 避けられない悲劇

 (これは泣き叫びそうですね‥‥‥)


 オリバーはこれから起こるであろう悲劇に対し、とある予想を立てていた。


 それは当たってほしくない予想。しかしそうなるとしか考えられない。他の選択肢は出てこない。


 「おいオリバー。こっちの方角ってことは」


 両手を後頭部につけて隣を歩くカイルは何かに気づいたような声を上げる。


 「ええ。彼女に力を借りようかと。

  カイルと僕だけでは歯が立ちませんから。

  それにエリスさんは忙しいそうですし」


 「ま、確かにあいつしかいねえわな。

  でも、あいつを加えても成功するか?」


 「いないよりは良いはずです。

  それに彼女なら‥‥‥行きましょう」


 こうしてオリバーとカイルは戦力補強のためにとある部屋に訪れる。


 「そういえば来るの初めてだ」


 「僕もです」


 オリバーは部屋の扉をノックする。すると中で驚いた声が聞こえた後、扉がゆ〜っくりと開く。


 「だ、だれですかぁぁ!!!?」


 「突然ですいませんミスト。力を貸してください」


 部屋の主はミストだった。大声を出すミストに対して耳を塞ぎながら淡々と要件を伝えるオリバー。


 「わ、私に? な、何かわかりませんが!

  私よりももっと良い人がいると思いますぅぅ!!」


 ミストは目に涙を溜めながら扉に隠れてオリバーの視線を遮る。


 「いえ、現状ではミストしかいないんです。

  今、ミストの力が必要なんです‥‥‥!!」


 オリバーは握り拳を作りながら言うことで熱心さをアピールする。カイルは「おいおい‥‥‥」といった様子で見物していた。


 「ほ、本当ですか‥‥‥?」


 「はいっ! ミストがいないと解決できない案件です!

  そうですよねカイル!?」


 「あ、ああ。あいつからの扱いに慣れてい‥‥‥

  いや何事にも必死なお前が必要なんだよ」


 明らかに言い直したカイルに対してオリバーはジト目を向ける。


 「そ、そこまで私が必要なんですか!?

  ぜぜひ協力させてください!!」


 ミストは扉をバタンと全開放し、胸の前で両手を握りしめる。そしてやる気の目をしていた。


 (このチョロさは少し心配になりますね‥‥‥)

 (よしっ! うまくいったぜ!!)


 こうして新たな仲間(戦力)を加えたオリバーたちは本来の目的のために歩き出す。


 目指す場所は、悲劇が起こるであろう場所ーーー。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「2人とも騙しましたぁぁぁ!!?」


 目的地についた途端、ミストは涙目になり大声を上げる。そんな声を無視したカイルは、ミストが発狂した原因に話しかける。


 「頼むって!! いい加減ギルドに戻ってこい!!」


 「いやー」


 「だからぁ! 成功すればここ最近で1番の金になる!

  でもお前がいないとクエスト受けられねえんだよ!」


 「やだー」


 「受注人数は2人!! 条件はB級以上の冒険者!

  俺とお前しか受けられねぇんだって!」


 「めんどくさいー」


 (やっぱりこうなりますよね‥‥‥)


 悲劇が起こるであろう場所、アクアの部屋。さすが彼女の部屋というべきか、足を置く場所が見当たらないオリバーたちは

彼女の私物の上に渋々足をつけていた。


 カイルの説得も虚しく、アクアは首を縦に振る気配がない。


 (いくら下級魔族を1人で倒したからって、

  アクアにB級の冒険者ライセンスを渡したのは

  完全にギルドの落ち度ですね‥‥‥)


 約4ヶ月前にグロッサ王立学園と共同で行われた『魔物討伐体験』。そこで大々的に広まったのは、『ルーライト』隊員シロア・クロートによる上級魔族討伐(実際はアイト、シロアの2人で討伐したがアイトが頼み込んでシロア単独での討伐ということになっている)。


 だがその裏で、アクアとカイルはそれぞれ下級魔族を1人で討伐した実績を残していた。その実績によりアクアとカイルはギルドのランクがC級からB級へと昇格していた(ランクはS、A、B、C、D、E、Fに分類で、A、Bランクは+と−で細分化されるため全11種類)。


 そして今回のギルドに来た依頼は小型火竜の討伐。それを受注できる条件は『B級以上の冒険者』、受注人数は2人以上。


 「ーーーってわけなんですぅ!!!」


 ミストはそのことを早口でアクアに説明した。


 「B級? それなら他の人でもいいじゃんー」


 珍しくまともな発言をするアクアに、オリバーは理由を含めて言い返す。


 「他のB級冒険者と組んだら半減です。

  だから組織への利益を考えると

  アクアとカイルの2人で受けるのが最適なんですよ。

  僕とミストはまだC級ですし」


 「ふーん」


 アクアはベッドの上で足をバタバタさせながら相槌を打つ。その衝撃でベッドの上に乗っていたアクアの私物が音を立てて落ちる。


 (やっぱり真っ直ぐに頼むのはダメですね。

  ここはやり口を変えましょうか)


 これくらいは想定の範囲内。オリバーは考えていた会話に誘導し始めた。


 「アクア、依頼を達成して得た報酬金の大部分は

  レスタさんが帰ってきた時の歓迎会に使われます。

  ですから当然、彼も2人に深く感謝するでしょうね」


 「? あるじー?」


 アクアは枕に突っ伏していた顔を上げる。明らかにさっきよりも聞く姿勢を取り始めた。オリバーは「上手くいった」と内心微笑む。もちろん顔には一切出さない。


 だが実際、アクアが聞いていたのはレスタ(アイト)の名前だけだった。


 「ですから、ぜひご協力をーーー」


 「? さっきいやって言ったー」


 案の定、拒絶の即答をしたアクア。


 (!? こ、これでもダメですか‥‥‥!!)


 オリバーはさっきの言い分でもダメかと勘違いする。アクアの話の聞かなさは黄昏トワイライトでダントツ1位。2位はミア。


 (ん? なんかオリバーのやつ動揺してんな)


 そして3位はこの男、通称『脳筋』のカイルである。


 「ふぁ〜眠たくなってきたから帰ってー」


 アクアは手で口を押さえながら欠伸をし始める。


 (やべぇ‥‥‥この女が寝たら全ての終わりだぞ!!)


 カイルに小声で話しかけられたオリバーは必死に考える。そしてふと視線に入ったものを見て、閃く。


 「アクア。僕たちは命令しているわけではありません。

  頼んでいるんですから、立場はもちろん対等です」


 「同じでしょー」


 「命令は一方的なものです。

  レスタさんがエルジュの代表であり、

  僕たちの指導者でもあるので仕方ありません。

  まあレスタさんが命令することは

  ほとんどありませんが。

  対して僕たちは同じ部隊の仲間。

  こういうのは、持ちつ持たれつと言うでしょ?」


 「ながいー」


 「簡潔に言います。僕たちの頼みを聞いてくれれば

  当然僕たちもアクアの頼み事を聞きます」


 「ふーん」


 ベッドに寝転ぶアクアは足をジタバタするのをやめた。それを好機だと感じたオリバーはカイルへと視線を移す。


 「お、おうよ!! お互いに頼み事があるのは

  当然だからな! 仲間の頼みならなんでも応えるぜ」


 「しかも今回はアクアにとって大変な事だと

  自覚してますから、頼みがあるなら

  できる限りなんでも聞きます」


 そう言ったオリバーとカイルは視線を合わせる。2人とも考えることは同じだったのだ。



         「「ーーーミストが」」



           「ふぁい!?」



 突然の名指しを受けたミストは首を無理やりオリバーたちの方へと捻じ曲げた。目をうるうるさせながら。


 「な、なんで私ーーー」


 「だって、アクアが僕とカイルにしてほしいこと、

  ありませんよね? もしあれば全力を尽くします」


 「たしかに想像もつかねえな。で、実際どうなんだ。

  もしあるなら、俺たちにできることなら何でもする」


 カイルは口をぽっかり開けたミストを放ったらかしてアクアに話しかける。アクアは枕に顔を埋めたままこう答えた。


 「ないー。どっちの枕も痛いに決まってるー」


 (枕‥‥‥?)


 普通ならそう考えるのが当然である。だがアクアの含みある発言を聞いたオリバーは確信を持ってこう聞き返した。


 「つまり、ミストにはあるんですね?」


 「んー? んー」


 「うえっ!? な、なんですかぁぁぁ!?」


 確かな返事をしたアクアを見て瞬時に目に涙を溜めたミストが叫ぶ。そしてアクアの要求が彼女の口から明らかになる。


 「気が済むまでひざまくらー」


 「ひええぇぇぇぇぇ!!!!!?」


 またしても絶叫。半泣きのミストは両手で自分の両膝を隠してしゃがみ込む。


 「‥‥‥ミストの膝枕がそんなにいいんですか?」


 冷静で機転が効くオリバーでもそんな返事が精一杯だった。ちなみにカイルは爆笑して床(アクアの私物)の上で笑い転げている。


 「フニフニなのに引き締まってる太ももー。

  ほどよい太さで良い匂いもする〜。

  あの時の感触、忘れられない〜」


 「へ、へえ」


 いつも眠たそうなアクアが、わずかに昂奮しているように見えた。オリバーは少し、いやかなりドン引きしていた。


 完全に変態ともいえる発言を聞いたミストはますます両太ももを隠そうとする。偶然にも今日は短パンを履いていたミスト。


 露わになっている彼女の白い太ももは体温の上昇でほんのり紅くなっていた。


 「あ、噛み噛みも追加ー」


 「噛み噛み!?」


 「えへへ、いただきま〜す」


 「ひぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 アクアは目にも止まらぬ速さでミストの手を掴んで引き寄せる。そして、彼女の言っていたことが既に始まっていた。


 「んぅ〜いい〜あむあむ〜」


 「いっ!? うぇぇぇぇぇぇん!!!」


 口では説明できない光景が始まる中、オリバーは目を瞑って感銘を受けていた。


 (もう成立したことになっている‥‥‥ミスト。

  君のおかげです。この犠牲は絶対に無駄にしません)


 深く感謝した後、笑い転げるカイルを引きずったままアクアの部屋を出ていく。なるべく部屋の中を見ないようしながら。


 この日、アクアの部屋には近づかないように「入るな危険」と書かれた札が貼られるのだった。


 当初の予想通り、ミストは泣き叫んだのだった。




 そして数日後、アクアとカイルがギルドのクエストを無事に受注して出発した直後。


 「んんんぅぅぅぅ〜〜〜〜!!!!」


 「すいませんミストしか頼れなかったんです!?」


 顔を真っ赤にして頬を膨らませたミストはオリバーの両肩を激しく揺さぶる。珍しく怒っている彼女は約15分は揺らし続けた。


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