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これが戦闘、これが異世界

 ラルドの剣の連撃を、持っている短剣でなんとか捌くアイト。


 (このオッサンめちゃくちゃ強え!!?)


 「うおおお!!!」


 アイトも反撃を繰り出すがラルドがそれを避けて後ろへ飛んで距離を取る。


 「なかなかの実力だ。しかもまだ子どもの身で」


 「だろ? そ、そう思うなら‥‥‥子どもに華持たせてくれない?」


 アイトはビビりながら必死に言葉を紡ぐ。


 「戯言を、それで貴様が満足するのか?」


 (え?超満足するけど?するに決まってるだろ別に戦いたくないんだから!!)


 「レスタ様、側近の女は気絶させました!」


 「なんだと‥‥‥ミストが負けた?あの小娘、何者だ?」


 エリスが朗報をアイトに持ちかける。ラルドは少し驚いてるようだ。


 「よくやった! 念のため【スプーリ】かけといて!」


 「了解です!」


 エリスは倒れているミストに睡眠魔法【スプーリ】をかけようとする。


 「それをみすみす見逃すとでも?」


 そう言ったラルドは凄まじいスピードでエリスの背後に急接近して剣を振りかぶる。エリスは反応に遅れている。


 「せい!!!」


 だがアイトが後ろ手に風魔法で空気を飛ばす。空気を飛ばした反動で前進しラルドの目の前に猛追。そしてラルドの背中を思いっきり蹴って吹き飛ばす。


 (アイツの体硬すぎ!!ちょっと足痺れてるわ!!)


 「レスタ様!この女を抱えてこの場から離れます。アイト様の邪魔にならないように!」


 「ああ! わかっ、え、、、?」


 アイトが気を取られている間にエリスはミストを抱えて凄まじいスピードで離れていく。


 (ま、待って!!? 援護、援護して!!)


 アイトはその絶叫を口に出す余裕が無かった。


 なぜなら次の瞬間にはラルドの猛攻がアイトに襲いかかってきたからだ。


 「まさかこの私が背後を取られるとはな。それに良い攻撃だった」


 『いや俺の目の前で自分から背中晒したでしょ』と思っているが口に出せないアイト。理由はラルドの猛攻(以下略)。


 「くっ!!? うわっ!!」


 アイトは力負けして体制を崩し床に倒れる。


 「ふんっ!!!!」


 ラルドは地面に倒れたアイトに剣を振り下ろし、突き刺そうとする。


 アイトは右に転がる。ラルドの剣はアイトに当たらずそのまま床に突き刺さる。


 「ッラァ!!」


 すぐに立ち上がったアイトは、エリスに教わった硬化魔法をかけた右足で剣の柄を握っているラルドの左手を思いっきり蹴飛ばす。


 「グッ!!!!!」


 ラルドがうめき声を上げる。アイトの蹴りはラルドの剣を弾き飛ばした。


 ラルドの手から離れた剣は2人から離れた場所に音を立てながら落ちる。


 (よし、これで親玉に武器はない!あとは短剣を刺せばーーー)



          バチンッ。



 そんな音が響いた刹那、アイトは背中から壁に激突していた。そして背中と脇腹を侵食する、凄まじい痛み。


 「!! ガハッ‥‥‥」


 アイトの口から酸素と血がこぼれる。そして仮面が外れて床に落ちる。


 (な、何をした? 全く見えなかった‥‥‥)


 意識が朦朧としているアイトはラルドの姿を見てようやく気づいた。両足がさっきよりも隆々としていることに。


 「よもや私に【血液凝固】を出させるとはな。これを戦闘中に使ったのは久しぶりだ」


 【血液凝固】。ターナが言ってたラルドの切り札。


 ラルドはアイトに武器を弾かれた瞬間に強敵だと認め両足に【血液凝固】を施す。


 強化された両足での移動は目に負えないスピードだった。一瞬でアイトの目の前まで移動し腹に膝蹴りを入れた。アイトは全く見えていない。


 (まさか、こんなに強いなんて‥‥‥)


 アイトは壁を背にしてなんとか立ち上がる。


 「ほう? あの攻撃を受けて立ち上がるとは。末恐ろしい少年だ。敬意を贈ろう」


 ラルドの賞賛はアイトには全く聞こえていなかった。アイトは考え事をしていたからだ。


 (い、痛い‥‥‥床についてる赤いシミって、もしかして俺の血か‥‥‥?)


 それは、床に付いた尋常ではない血の理由を悟り始めたから。


 (し、死ぬ?いやだ、死にたくないっ!!死にたくないっ、死にたくないっっ‥‥‥!!)




 ここでアイトは‥‥‥自分の命がかかった戦闘は今回が初めてだと気づく。


 エリスを重装備の男から助けた時は、ただ相手が弱すぎた。ターナの時は向こうの攻撃は当たらなかったしエリスもいた。


 だからアイトはこれまで直感的に死を感じることはなかった。


 だが今エリスはいない上、アイトが明らかに劣勢。それにラルドには切り札まである。1回の攻撃を受けただけで蹲るほどの痛み。


 アイトにとって、こんなにも死が近いと感じたことは今までなかったのだ。


 その事実が、アイトを震え上がらせる。動悸が激しくなり足が震える。先ほど以上に息が乱れる。完全に恐怖していた。


 (ど、どうする!!!逃げるか!?でもさっきみたいな速度で来られたら対処なんてできない!!!)


 必死にどうするかを考える。何も浮かばない。自分が死ぬ姿しか、想像できない。


 (それに今から逃してくれるわけがない!!これが戦闘、これが異世界なんだ‥‥‥!!)



 「レスタ様! ミストに【スプーリ】かけ終わりました‥‥‥!?れ、レスタ様っ! 大丈夫ですか!!?」


 すると、ミストを抱えたエリスが戻って来る。そしてアイトの姿を見て心配する。


 「バカっ、離れてろ!! 殺されるぞ!!」


 「!! れ、レスタ様‥‥‥?」


 「安心しろ少年、あの小娘はまだ殺さない。聞きたいことがあるのでな。話を聞き終わったら殺すかもしれんが。まずは貴様を始末することが先だ」


 「!!!」


 ラルドの言葉を聞いてアイトはある感情が湧き上がった。


 (俺が負けたら、エリスが、殺される‥‥‥?嫌だ。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ!!!!!)


 アイトとエリスの関係は、いわば勘違いから始まったもの。


 だが一緒に生活し、訓練し、魔物を討伐していくことで‥‥‥エリスの存在が自分の中で大きくなっていたことに、この窮地だからこそ気づいたのだ。


 そんな今だからこそ、エリスの存在を強く認識する。負ければアイト自身が死ぬだけでは終わらないと。


 そう、自分を慕ってくれるエリスも死ぬ。手を組んだターナも、相応の代償を受けることになる。


 それを強く自覚した瞬間、アイトが恐怖を超えて感じた事は‥‥‥



     (エリスに手ェ出すな!!!!)



      煮え滾るような、怒りだった。



         「ぬっ!!!?」



 ラルドは驚いた声を上げる。予想外の凄まじい速さでアイトが接近し、短剣が心臓に届こうとしていたからだ。


 「悪あがきをっ!」


 ラルドはアイトの短剣を持ってる手を自分の手で払い軌道をずらす。アイトの短剣の突きはラルドの体からわずか横に逸れてしまった。


 ラルドは冷静に【血液凝固】を施した足の横蹴りで仕留めようとする。


 「ーーーッ!!」


 アイトはわざと両足を伸ばしてうつ伏せになって床に倒れ、ラルドの横蹴りを回避する。


 ラルドは蹴りを避けられたことに驚く。ラルドが蹴りを行ったことで隙ができる。


 そこからアイトはしゃがんだ流れで片足に硬化魔法をかけ、勢いよく足払いをする。それが見事にラルドの姿勢を支えている片足にヒット。


         「なに!!!!」


    ラルドを床に転ばすことに成功する。



      「がァァァァァッッ!!!!」



 アイトはラルドの上に跨り雄叫びを上げ、短剣を心臓めがけて振り下ろす。今のアイトは完全にタカが外れている。まさに獣と変わらない。


 だがアイトの手首をラルドが掴んで短剣を阻止。だがアイトの力が凄まじくラルドは徐々に押されていた。


 「貴様まだこんな力が!?

  小娘の前でカッコつけて死ぬ気かっ!?」


 「はぁ!?何言ってんだ!?命掛けてまでカッコつけたい奴がいるか!?そんなのただのバカヤロウだ!!」


 眼球が飛び出るかもしれないほど見開き、腕に力を込める。


 「あいつとの生活を知ってしまったら、もうあいつがいない生活なんて考えられない!!」


 「貴様っ、いったい何を言ってーーー」


 「もしエリスを犠牲にして俺が生き残っても、これからの人生ちっとも楽しくねえんだよ!!!」


 一方的に感情をぶちまける今のアイトは、まるで獣。


 「とっくに家族で大切なんだよっ!!!お前を殺すのことなんて、躊躇わないくらいになぁぁ!!!」


 叫びと共に、アイトの右手が徐々に下がる。短剣は、ラルドの左胸まで残り数センチまで迫った。


 「ぐっ!! がああぁ!!」


 しかしラルドがすんでのところで両腕に【血液凝固】を発動。


 「グあっっ!!?」


 そしてアイトは思い切り投げ飛ばされた。アイトは背中から地面に倒れる。そしてその衝撃で頭が冷えた。


 その間にラルドは立ち上がる。そして再び場が硬直した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「アイトさま‥‥‥」


 私はこの攻防を見て胸を打たれていた。


 その時に抱えていたミストを床に落としてしまったが、そんなことはどうでもよかった。


 アイト様が、あそこまで必死になっている姿を初めて見た。


 いつもは落ち着いていてクールで強くてカッコいいけど、今はまさしく激昂。あんな一面もあるだなんて。


 【血液凝固】を扱う敵に果敢に挑む度胸、そして覚悟。彼の精神はもはや、子どもの域を凌駕している。


 さっきの攻防は明らかにアイト様が優勢だった。敵はただ【血流凝固】に助けられただけ。


 暗殺組織のボス相手に圧倒するなんて。さすが、私の主。


 それに‥‥‥私のために、怒ってくれる。がんばってくれる。


 家族だと思ってくれてる。大切だと思ってくれている。


 「アイトさま‥‥‥私、わたし‥‥‥」


 これからも、ずっとあなたについていきます。

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