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初めての魔法

 俺は、大勢の人の前に立っている。


 俺は大勢の人と向かい合っている。銀髪、目元を仮面で隠してる厨二病のような格好をしている俺がみんなを見下ろす形で。


「きゃあァァ!!!!!! 本物よぉぉ!!!!」


「こ、これは夢か!? 夢なのか!?」


「カッコいいぃぃぃぃぃ!!!!」


 などとすごい声の塊が四方八方から飛んでくる。


           バツンッ。


 俺は音魔法を放った。みんなが静かになったところで話し始める。


 「落ち着いたか。先に言っておく事がある。まずこれは俺を崇める組織じゃない。自分ために戦う集団なんだ。俺を崇める必要なんてない」


 本心を踏まえて話していく。


「今は俺が《エルジュ》の代表だが、すぐにでもこの座は降りることになるだろう。君たち次第で。さあ、共に行こう」


 よし、これで代表になりたいと思う人が増えるだろう。そうすれば俺の出番は終わりっ!!



   わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!



 なぜか歓声がおこる。なんで????????


「レスタ様。さすがのカリスマ性ですね」


 俺の少し下で並んでいる10人もそれぞれ反応していた。

 

  俺はみんなの歓声を聞きながらこう思った。


   うん、この地位を一生続けるのは嫌だな。


      いつ、この地位から離れよう。


 ◆◇◆◇


 今作の主人公、アイト・ディスローグ。


 後に一つの組織を率いることになる彼は、前世ではただの一般人だった。

 義務教育を経て高校、大学へと進み社会人に。つまり、ふつうにサラリーマンしていた。


 だが、ブラックという言葉が似合う感じの企業だった。当然、充分な休みはなし余裕もなし。疲労が溜まり、集中力が無くなる。

 ぼんやりし始める。そんな状態で歩くと、周囲への意識が向かない。気づけば車に轢かれてしまい、終わってしまった。

 彼の人生は不完全燃焼で終わる‥‥‥はずだった。




「おぎゃ〜!」


 ところが彼は、転生していた。それもフィクションにありがちな異世界に。


 彼の視界に映るのは大喜びしている男性と疲れた様子だが嬉しそうな女性。そしてベッドに寄りかかる小さな少女がアイトを見ている。

 つまり、転生した彼の家族である。そして彼は一家の長男として生まれていた。


 星暦854年、アイト・ディスローグ爆誕。



 すぐに彼は異世界でこれまでの鬱憤を晴らすことを考えたし、無双することも考えた(できたらの話だが‥‥‥)。


 だが、そんな無双系にありがちな特殊な力は持っていなかった。


(ディスローグ家、か)


 アイトが生まれたディスローグ家は小さなルーリス村とその周辺の土地を統治する領主で、それなりに豊かではある。だが、階級で言うと下級貴族。


(王都から相当離れてるし、貴族の中でもあまり有力じゃない感じだな)


 名門貴族の多くは王都ローデリアの近くに屋敷を構えており、ディスローグ家の屋敷は遥か北の辺境。

 つまり絶大な権力を持っているわけでもなく、勇者の血筋と言った特別な力も持っていない。


(別に与えられた使命なんて無いし、あまり堅苦しく考えずに生きよう)


 そのためアイトは前世と考え方を変えず、平穏に過ごそうと誓ったのだ。

 だがここで、アイトに1つ重大な問題が生じる。それは今の世界では、一般人でも当たり前のように魔法を使うこと。


「あともう少しでご飯できるからね〜」


 彼を産んだ母親が手から水を出したり、手から火を出して食材を加熱したりする。


「あはははっ!! すごいでしょ〜!!」


 アイトから見て姉にあたる人も、特に理由もなく手から雷を飛ばして遊んでいる。


(うん、魔法の凄さがよく分からないや)


 つまり‥‥‥いったいどのレベルの魔法を使うのが一般人として適しているのかと。だがそれが当たり前の人たちに、『魔法の平均ってどれくらい』と聞くのはどうなのかと。


(まあ魔法は使えた方が生活するには便利か)


 だからアイトは‥‥‥魔法に関してはあれこれ考えるのはやめたのだ。それに何より‥‥‥彼はまだろくに話せない。生まれたばかりで行動範囲があまりにも狭い。

 精神年齢が大人だと、赤ちゃんである今の状態はかなりの苦痛である。アイトは、こう考えていた。


「おぎゃ〜、きゃっきゃっ」


 早くこちらの言葉を覚えてせめて会話くらいしたいものだと。



 星暦860年。

 6歳になった頃、アイトは再認識した。自分には特に使命など無いのだと。

 勇者一行が『魔王討伐』を成し遂げたという報せが辺境のディスローグ家にも広まって来たからだ。勇者は人間とエルフの混血で、特別な血筋から両目が魔眼として発現しているという。また、仲間の1人には背中に白い翼が生えた天使という希少種族もいると。


(やっぱり俺には何の関係も無かったな)


 アイトはその話を聞いた時点で、自分とは存在が違うと強く悟ったのだ。


「3人とも! そろそろご飯よ〜!」


「ご飯だって! 行くわよ!」


「え、でもまだ本の続きが」


「つづき〜」


 また、この6年のうちにアイトはこの世界について少しずつ知っていった。

 まず自分の名前、アイト・ディスローグ。前世と同じく黒髪。今のところ秀でた能力は無し。そして彼には、2人の姉妹がいた。

 まずは姉、マリア・ディスローグ。黒髪ポニーテール。彼より3歳年上。雷を飛ばして遊ぶお転婆少女。

 つぎに妹、アリサ・ディスローグ。黒髪ツインテール。彼より1歳年下。少し内気でアイトとマリアが大好き。


「続きはご飯の後に教えてあげるから」


「はい」


「え〜もっと聞きたいぃ〜」


 アイトは素直な返事、アリサは駄々を捏ねる。だがマリアは聞く耳を持たずに手を引っ張る。


「アリサも早く行くわよ」


「そんなぁ〜」


 本の続きというのはこの世界の歴史について。こっちの世界の文字をアイトはまだあまり読めないため、姉に本の内容を教えてもらっていた。

 まずアイトが住んでる家はグロッサ王国の領地内。貴族の義務教育として、15歳になるとグロッサ王都の王立学園に入学することになる。

 それに怪盗などという前世では作り話でしかない者を実在していた。魔法がある世界で、無理もない。


(色々ある世界だなぁ)


 一般人として過ごしていくと決めたアイトにとってはどうでもいい。今の内容も貴族としての最低知識だから学んでいるだけ。


 普段は父が雇った家庭教師がアイトを含む3人の子どもたちに武術や魔法、そして教養といったさまざまなことを教えた。

 アイトにとって訓練はキツかった。それはもうすっごくキツかったという。


(姉は9歳だが、俺はまだ6歳だぞ。小学1年生じゃん。低学年じゃん。小1で誰がこんな訓練を受けるんだ)


 アイトは前世の意識を捨て切れていなかった。ちなみに彼は教えられた魔法を誰にも見られてない場所で試し打ちしていた。理由は目立ちたくないから。ちなみに、彼はそこそこ使えた。

 だがこの年齢で色々な魔法を発動しすぎると、親から将来を期待されるかもしれないという考えがよぎる。


 だからアイトはまだ幼くて魔法は扱えないことにした。姉のマリアは3、4歳で雷飛ばして遊んでいたが。

 そのため姉は間違いなく将来を期待されてるだろうとアイトは予想していた。



 いつもの家庭教育が終わり、夜。


 「う〜ん‥‥‥」


 アイトは紙に文字を書き綴る。この時刻、彼は自分にとって1番重要なことを考えていた。

 それは一般人として平穏に、幸せに過ごしていくにはどうすればいいのか。アイトはこれまで書いていた箇条書きに改めて目を通していた。


 ・外敵から自分の命を守ること


 この世界には魔物がいるため自分の命くらいは自分で守る必要がある。よって強くなる必要があるという結論。

 例えばこの周辺にドラゴンがやってきて、家を崩壊されようとした時に自分と家族を守れるくらいの力が必要だと。


 ・魔法はできるだけ使えるようにする


 魔法は使えれば使えるほど生活が快適になると考えたのだ。使えて損する時など基本ないと。それらから導き出される結論はこうだ。

 念の為、できるかぎりは強くなろうと。


 ‥‥‥散々考えた結果が2行ということは、あまり突っ込まない方がよさそうである。



 「よし、やるか!」


 アイトは、夜にこっそり抜け出しての特訓を習慣にしていく。ちなみに、最初は普通にバレた。

 夜明け頃に帰ってくると家族全員が起きていて、姉のマリアが泣きながらアイトに抱きつく。妹のアリサは何のことかわからない様子。

 いきなり計画が台無しになりかけたのだ。そしてアイトは、両親に魔力のこもった説教をされたのだった。



 やがて、アイトは名案を思いついた。


 寝ている家族に魔法をかけ、朝まで起きないように調整すれば特訓できるという案を。


 家の本棚には魔法について書かれた本がたくさんある。その中でアイトが目をつけたのは睡眠魔法。さっそく今晩に決行しようと決意する。

 ちなみにアイトは6歳だが、彼はもう自分の部屋で1人で寝てる。精神年齢は高いと家族から思われてるだろう。実際は高いという次元ではないのだが。


 ちなみにマリアとアリサは仲良く2人で寝ている。




 夜。両親のベッド前。


 「えぇ〜と、【スプーリ】」


 アイトは両親の額付近に手をかざして、昼に本で見た初級の睡眠魔法を試す。

 すると手に魔法陣が浮かび上がり、魔法の発動が証明される。


「よっし! これでぐっすり!! アリサにはかける必要ないだろうしあとは姉さんにかけるだけだ」


 アイトは意気揚々と姉妹の部屋の前に移動する。ここまでは予定通り。ここまでは。


「あれ〜アイトぉ? どうしたのー? 寂しいならお姉ちゃんと一緒に寝るぅ〜?」


「【スプーリ】!!!!!」


 おそらくトイレで起き、廊下で鉢合わせたマリアに急いで睡眠魔法をかける。マリアは立った状態から後ろに倒れて眠った。


「や、やべっ! ついやっちまった‥‥‥!!」


 アイトはまるで感情的に罪を犯してしまったかのような発言をし、寝ているマリアを抱えてベッドに寝かせる。それはまるで証拠隠滅のようだった。


 ちなみに発動した睡眠魔法を、アイトは焦って魔力を少し多くしてしまった。


(ま、まあよく眠れるだけだし、いいのかな?)


 たかがよく眠れるだけ、つまり健康的。そう捉えたアイトは、夜に心置きなく特訓したのだった。

 夜に特訓すると、睡眠時間が削がれるのでは‥‥‥という意見もあるかもしれない。


 だが、アイトはそのことに完全に手を打っている。

 彼は特訓が終わって1時間ほど仮眠を取る時、自分にも『スプーリ』をかける。これにより、質の良い睡眠を取っている。


 そして、8時間の睡眠と同じ効果が見込めるという卑怯な一手。アイトの策は、かなり用意周到といえる。ちなみに、初めて【スプーリ】をかけた日の朝‥‥‥マリアが起きてきたのは昼前だった。


(ほんとに目が覚めてくれてよかった‥‥‥もっと加減して魔法を発動できるようにならないと)


 相手に放った初めての魔法‥‥‥睡眠魔法。

 後に『天帝』と呼ばれる彼にとっては、絶対に知られてはいけない秘密なのである。

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