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第6話 夜行性

「お疲れ様です」

「…うす」


 ほとんどの人が会社内にまだ残っているという状況が

当たり前となっている。そんな中、最近俺の帰る時刻は

早くなっていた、まあ早いと言っても22時を超えているが…。


「山田君お疲れ様」

「あっ、お疲れ様です」


 目の下を黒くした倉木さんが挨拶をしてくれた、

見るからに元気がない。


「体調無理しないでくださいね」

「ふふっ、もう今更よ」


 退社し、いつも通り電車に揺られながら帰宅する。

しかし、心の中にはいつものような絶望した感情がどこにもない。


 先日、とある女子高生と思い思い言葉を吐き出した、今考えれば

すこし恥ずかしかったかもしれない。だが、そのおかげで自分の本当に

したい事というか、自分の夢を再認識することができた。


 やはり誰かに自分の気持ちを話すというのは大切なんだと、

今更ではあるがそう思った。


 電車を降り、自分の家ではなく真っ先に公園に向かう。

 もはやこの行動は習慣になってしまった。


「あー、仕事お疲れ様ー」

「んっ、しゃべりに来た」


 辺りは真っ暗闇、いつの間にかこの空間を癒しに感じている。


「じゃ、座りましょうか」

「そだな」


 プラスチック製のベンチに腰掛ける、体をグッと伸ばすと

大きなあくびをした、ああ、やはり癒しだな…ここは。


「最近帰る時間、ちょっとずつ早くなってない?」

「そーそ、なんか効率がいいのか、間違いなく仕事の

 処理が早くなった」


 ほう…やるじゃん、とでも言うかのようにニヤニヤと

見つめてくる。


「やっぱり、大事でしょ、お喋りって」

「ああ、最近やっと気づいた」


 腰を隣に一歩分、ぐっと距離を縮めてきた。


「急になんだよ」

「…ありがと」


「ん、なにが」


 いまさら何を言い出すのか、恥ずかしそうに(ひなた)は続ける。


「いやぁ、私の話聞いてくれて」

「そんなのいつもの事だろ」


「そーだけど、そうじゃない」


 言いたいことが纏まらず、むず痒そうにしている。


「お互い様」

「えっ…」


「俺こそ、ありがと」

「…うん!」


 自分の気持ちを身近な人に言うのはなんだか恥ずかしい。

 隠す理由を探すためにおもむろに立ち上がってしまった。


「どしたの」

「んっ…コンビニでも行こうかなって」


「ふーん、飲み物?」


 別に欲しいものは無いが、他になにも思いつかなかったので

首を縦に振った。


「じゃ、私も行く」


 暗闇の中、二人で歩き出す。ほかの人から見れば、

一人で歩いているように見えていると思うと、なんだか

不思議な感覚になる。間違いなく、俺には(ひなた)の姿が見えているのに。


 コンビニにつくと、真っ先に奥まで進み、飲み物ケースの前で腕組みをする。

陽の方はもう一つ横の列を見つめている。


「そういや陽って今何年生なんだ?」

「んーと、高校3年手前だね、だからまだ2年生」


「うそ、勝手に1年生と思ってたわ」

「いやいや、もうガキんちょじゃないから」


 学生証もあるよ、と顔の前にぐいぐいと押し付けてきた。


「分かったって、どちらにしろ酒はダメだぞ」


 20歳未満禁止の張り紙を指さす。


「だから分かってるって」


 先ほどからお酒コーナーの前に突っ立ている、飲みたいのが

見え見えだ。


「いつか一緒に飲んでやる」

「言ったからね、絶対」


 ボトルの缶コーヒーを棚から抜き取りレジに向かった。

(ひなた)はレジのお兄さんに話しかけて存在をアピールしている。


「おい、ふざけたことするな」


 ぎょっと店員が俺を凝視しすぐに肉まんのケースの後ろに

隠れた。…最悪、あの女は後で懲らしめよう。


 顔を一切見られずに会計を済まされる、絶対にヤバい奴だと

思われた、あんなことしたら仕方ないが…。


 レジ横のスペースにさっき陽が見せてきた学生証がある、

くだらない事をしているから忘れていったのだろう、何とも

馬鹿らしい。…そのまま置いておこうか迷ったが流石に拾ってやる。


 急に頭痛がした、仕事の疲れが今来たのか。日付も変わりそうに

なっているのでもうお開きにしようかな。

 

 缶コーヒーをジャケットの裏ポケットに入れお腹を温める。


 手持ち無沙汰に学生証を開いた、彼女の真顔の写真が載っていた。

あいつこんな顔するのか、なんだか口角が上がってきた。人の証明写真って

変な感じがするなと、学校名を見てみる。


 大雲…なんとか高校、たしか複数駅先にある高校、かなり近くだ。


 でも…こんな学校名だっけ…。


「ちょっと遅い、早く行こ」

「おー、ごめん今行く」


 視線は証明書のまま、陽のもとに歩き出す。


「ちょーあんまり見ないでよ」

「ああ、ごめんごめ…」


 

 名前 山田 (ひなた)  、…っん?


 ひどく酔っているかのような感覚に堕ちる。

 頭痛がじわじわと襲ってきた。


 入学年度 2037年 4月………。

 

「…へっ、いま何年だった…」


 頭痛がどんどんと激しさを増す。…スマホ、えっ、

今って…、2018年11月。…へっ…。

 そして苗字、どこにでもいる、いたって普通の苗字だけど…。


 陽の顔を見つめる。

 視界がぼやけだす、陽の顔が徐々に薄くなってきた、


「…ああ、やっぱりそうだよね」

「いや…、何言ってんの、てかこれ」


「そうだと思った」


 ハッ?、そうだと思うって何が、訳が分からない。

コンビニの外で足がふらふらとしながらうずくまる、

やばい、頭が…。


「最後にちゃんと話しできて良かったよ」


 まだ何か、陽が喋っている…が、もう何も聞こえない。

耳鳴りも酷くなってくる、…まずい、視界が…。




 そういえば、どうして彼女の顔をちゃんと見てこなかったのか…。

 暗闇だったからか、いやそんなことではないはずだ。

 

 学生証の中にいた彼女の姿、それは、何といえばよいか…輪郭というか

雰囲気というか、何処となく。


 鏡の中の俺に…すこし似ていた。


_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _

 

 太陽の光を直接浴び、頭が活動を始める。


 暫くじっとしていたが、背中の痛みで徐々に夢から

覚めてきた。はっと、辺りを見渡すとコンビニ前の自転車置き場にいた。


 まじで何してたんだ…。


 仕事帰りに疲れてこんな所で寝てしまったのだろうか、もうここまでくると

自分が不甲斐なく感じてくる。


「えっ、ていうか時間」


 7時半…。


 やばい…、やばいやばいやばいやばい。

全速力で帰宅する、変な匂いがしたシャツだけ着替えると

大急ぎで出勤した。


 電車の中、とりあえずスケジュールだけ確認しておく。

スマホの充電が30%を切っている、すぐにカレンダーを開いた。


__________

11月27日 ××社営業

     企画書提出『…@*…e¥w?!”…』

11月28日 各案発表『…@?!”…e¥w*…』

11月29日 会議 

     ○○社営業『…?!”…e¥w…@*』

11月30日 データ納期『…@*e¥w…?!”…』

12月 1日 ○○社営業『…*…?!”…e¥w@』

12月 2日 ××社営業『…?!”…e¥w@*…』

12月 3日 会議 

     ○○社営業『…@?!”…e¥w*…』

_________


「へっ?」


 変な声が漏れてしまった。

なんだこの気持ち悪いスケジュール表は、バグか…ウイルス、いやそれは無い、

誰かに書き込まれたのか…いや誰に、こんな事するやつは会社にはいないし…。


 意味の分からないまま、会社の最寄り駅に着いてしまう。


 なんとか時間には間に合い、ディスクに座るとすぐに朝の挨拶が始まり、

その後はいつも通りの仕事が待っていた。


「山田君、昨日言ってたデータもう送っといたからー」

「ありがとうございます」


 倉木さんの機嫌が良い、以前は目元が黒く引き攣っていたが

今はそのような様子はない。


 昼休憩になり、買ってきたクリームパンをかじりながらパソコンに

向かう。


「山田君頑張るねー」

「まだ、残ってますから」


 最近倉木さんと仕事以外の話もするようになり、なんと、つい最近

食事に行くことがあった、もちろん二人で…まあ、それ以上でもそれ以下でも

なかったが…。


「はい、コーンポタージュあげる」

「まじすか、あざす」


 そしてもう一つ、倉木さんがたまに奢ってくれたり、または差し入れを

くれるようになった。奢ってもらうのは男としてどうかと思うが、飲み物や

100円ショップの小物だったりするので有難く頂いている。


「ん?どしたの、じっと見て」

「いやいや、最近奢ってもらってばかりでなんか申し訳ないなと…」


 大丈夫っ、とニコニコとしながら話続ける。


「これも全部私に帰ってくるから!」

「あっ、はい!また必ず奢りますよ」


「違う違う、そういうことじゃないの」


 なんのことか分からないが、とりあえず元気そうで安心した。


「じゃあ俺は仕事するんで…」

「ねえ、山田君」


 笑顔を絶やさず、距離を近づけてくる。


「いやぁ、大したことじゃ無いんだけどね」

「はい」


「山田君、引き寄せの法則って知ってる!」

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