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悩み相談の場所(6)

 生きていくのが不安。

 その言葉を聞いた時、真っ先に思い浮かんだのは、彼女が大病を患っているのでは、ということだった。


 だけどもしそうだったとしても、ただ【呪い】を使うことしか出来ないボク達では、そんなものをどうにかすることなんて出来やしない。


 だから早々に、それは自分たちで解決できることなのか、とリーサリスさんが問いかけるのも、まあ無理もないことだった。

 それにカナコは、誤解を与えたことを恥じらうようにしながら、そんな大層なことじゃないから、と答えてくれたので、とりあえずは一安心。


 ただそこで、リーサリスは対応を止め、ボクに変わるよう言ってきた。


「って、なんでボク!?」


 呼ばれてお願いされたところで、小声でリーサリスに問いかける。


「普通に考えて、女の子同士のほうが話しやすいだろっ!?」

「だからって、トーバードには頼めないでしょ?」


 そこには肯定しか出来ない。


「じゃあこのままリーサリスがやれば良いじゃん」

「そうしたいのは山々だけど……彼女が【呪い】に掛かってないんなら、あたしは先にこのクラスが生徒の相談を何でも引き受けるようになった理由を探りたくて」

「探りたいって……そんなの、世界の改変だから分かりようがないだろ?」

「……やったかもしれない人にアテがあるのよ。

 だからその人に、こういうことを望んでたかどうか訊いてくる」


 でないと本当に何も出来てないかもしれないし、と深刻そうに、小声で自分に言い聞かせるような独り言を呟くものだから……これ以上、彼女に応対させることこそ、カナコに失礼になるだろうなと思った。


 気もそぞろなまま話をされても、ちゃんと聞いていないことは相手だって分かってしまうだろうし。


「……分かった。そういうことならボクが話を聞くよ。

 でもその前に、【呪い】に掛かってるか掛かってないか、っていうのは、どうやって分かるの?」

「感覚よ」

「なるほど……感覚か~……」


 ビックリするぐらい、何の参考にもならない。


「……それって、トーバードさんにも分かる?」

「もちろん。っていうか【呪い】使いなら誰でも分かるでしょ。

 ってあ、そっか。アンタはちょっと違うんだっけ」


 完全学習ラーニング能力で得た【呪い】と、ちゃんとした【呪い】使いとの差だろうか。

 ボクには誰が【呪い】に掛かっているのか、誰が【呪い】保持者なのか分からないようだった。


 転校初日に連れて行かれた相手にだって、【呪い】を直接ぶつけられてただただイライラしていただけだし。

 その周りにいる女の子たちが【呪い】に掛かっているなんて、気付きもしなかった。


 そこはもう、彼女たちに頼るしかない。


「じゃあまあ、今のところ、あの子は【呪い】に掛かってるから、あんなことを言い出してる訳じゃないんだ」

「そういうこと。

 だから、お願いね」


 それだけ言い残して、リーサリスは慌てるように教室を出て行った。


「……あの? なんで急に出て行ったんですか……?」


 さっきまで話をしていたのとは違って、一気に不安そうになる。


「ああ、いや。あの人はほら、急にお腹が痛くなって」

「え、大丈夫なんですか?」

「大丈夫じゃないから家に戻ったと思う。

 ほら、学校のトイレだと、ちょっと気まずいじゃん……」

「ま、まあ……」


 どう答えていいか迷っているような反応だけれど、この方が深く追求されなくなるのでちょうど良い。

 カナコに何も言わずに出て行ったリーサリスが悪い。


「それよりも、生きていくのが不安ってのは、具体的にはどういうこと?

 ボクはさっき、てっきり大病を患っているのかと思ったんだけど」

「いえまあ、本当にそういうのではなくて……」

「……もしかして、男であるボクだと、話しづらい?」

「ああ……うん」

「そっか……」

「あぁ、ごめんごめん。ちょっと、言い方悪かった。

 今のは、さっきの女の人と比べて、ってだけ」


 長身の金髪美女に話を聞かれるのと、冴えない一般的男子生徒に聞かれるのとでは……まあ、一般的な悩みなら、前者のほうが説得力が違うように思う。


 何だかんだ言ってリーサリスには、どこか一般的な人とは違う雰囲気が備わっている。

 それがお金持ちであるが故のものなのか、そこから育ってきているからなのかは分からないが、ともかく“ある”のだ。


 そうした人にこそ、相談内容の答えを聞くほうが、やはりスッと受け入れられる。

 ボクじゃあ良くて「異性の友人に話を聞いてもらう」程度にしかならないだろう。


 ……初対面なのに友人なんてランクにまでなれると考えてる時点で、十分過大評価になるだろうけど。


「なんなら、あの窓際で勉強してる子にする?」

「でもあの子、私の話に興味持ってくれる?」

「……持ってくれない、かなぁ……」


 聞き耳を立てているような感じはするけれど、勉強している手を止めない時点で、対応することを拒絶しているのは明白だ。

 人と話すのが苦手なんだろう。


 前世のボクが似たようなものだったのか、その気持ちがイヤに分かってしまうだけに、無理強いも出来ないし。


「じゃ、消去法か。

 ちなみに、歳はいくつ?」

「……十歳です」

「年下か~……」


 そこで天を仰がれても……。

 ……いやボクも、逆の立場で年下に相談なんてすることになったら、同じ反応になるか。


 トーバードさんとリーサリスがボクを十歳として扱っていなかったので、年齢を訊かれるまで、自分の年齢と見た目のことをつい忘れてしまっていた。

 それなのにこんな敬語も使わず普通に話しかけてくるなんて……大人ぶってる生意気なクソガキにしか見えない。


 それでも、ここで立ち去り、後日改めてという選択肢は無かったのか。

 カナコは諦めたように一つ、ため息を吐いて。


「じゃ、あなたで。えっと……」

「イオリで」


 さっきリーサリスさんが教えていたはずなのに、もう覚えていない。

 ……そもそもボクのことを認識していたのかどうかも怪しくなるな、これは。

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