悩み相談の場所(3)
よほど興奮しているのか、日頃使いたがらないお金持ち口調が出ている。
「大丈夫なんだって! ボクの【呪い】はっ!!」
「【呪い】に大丈夫も大丈夫じゃないもありませんわ! ワタクシの能力を下げてアナタ、一体何をしようとしたのかしら?」
「【呪い】の勉強だって!」
「きっと、ワタクシの身体の動きを鈍らせて、心も弱らせて、そのまま服でも脱がせようとしたのでしょう……! ホント、男って嫌ですわ!」
「誰がお前のなん――」
今度は机が飛んできたので、さすがそれはしゃがんで避けた。
「あら? ワタクシが外しましたわね」
「――さすがに今のはシャレにならんぞ!」
「椅子だってシャレにならないと思うけど……」
なんてトーバードさんの声が、リーサリスさん――いや、リーサリスの耳に届くはずもない。
ちなみに椅子の一撃は何も無事じゃなくて、現在進行系で自分に向けて効力を逆転させた【呪い】を使って回復している最中である。
「シャレにならない? はて、人の尊厳を踏みにじる人は死んでも良いはずですから、何もおかしくはないと思いますけれど……?」
真顔でぶっ飛んだことを言うお嬢様だ。
「あ、そうですわ。次は【呪い】を使ってあなたの動きを鈍くして、足を止めてから机を投げればよろしいのですね」
「お前がボクに【呪い】を使うのはオッケーってのは違い過ぎるだろ!」
名案、とばかりに柏手を打つが、それは何も名案ではない。
「ったく……じゃあ聞きたいんだけど、二人はどうやってそこまで【呪い】を使えるようにしたの?
クラスメイトに向けても使わないなら、他にコツを掴むというか、使いこなすために練習する手段も無いと思うんだけど」
「まあ、一番伸びるのはルーベンスさんに教わることです――じゃなくて、教わることかな」
お嬢様口調から再びいつもの口調へと戻しながら、リーサリスが教えてくれる。
「って結局教わってるんじゃねぇか!」
「たまに来たときに、だけどね。
ここ一週間は来てないけど、彼自身に使って、それと似たレベルのものを使われて、浴びて浴びせて身体に身に着けていくって感じかな。
と言っても、コレはあたしの方法だけど。トーバードは違うもんね」
「え、えぇ……はい」
…………。
「いやそこからはっ!?」
「……っ……っ!」
話を続ける気は無いのか、ちょっとビックリしたような表情をした後は、再び教科書へと向き直ってしまう。
「あの子の場合は、沢山【呪い】を受ければ受けるほど、【呪い】が蓄積されていって、それを使うって感じみたい」
あたしもルーベンスに聞いた話だけど、とリーサリスがフォローしてくれた。
「ということは、一人一人やり方が違うってことか……」
「そういうこと。多分ルーベンスが来ないのは、転生人がこの国に来たからってそっち方面で色々と捜索してて忙しいってのもあるんだけど、あたしはもう卒業試験を受けれるほど成長してるし、トーバードが蓄積する分の【呪い】はあたしでも大丈夫だから、まあ放置してても大丈夫だからなんだと思う。
で、アンタの場合は、そもそもが【呪い】じゃないから大丈夫だと思われてるんじゃない?」
「…………え?」
サラッと言われたけど……。
「もしかして、ボクが【呪い】使いじゃないって、気付いてる?」
「【呪い】も使えるだけの転生人ってヤツなんでしょ、アンタは」
……隠していたほうが良いと考えていたボクの間抜けっぷりよ。
「ルーベンスから話は聞いてたって。でなかったら、転生人だって隠したままのアンタが何かヘマして、あたし達がソレに気付いた時、そのままアンタを【呪い】で無力化しちゃうかもしれないでしょ。
アンタの力が有用だからってことで、転生人なのも教えてくれた上で、このクラスに来させたんだから」
「それに……学校の中にこういう場所が出来たのは、あなたが原因だって言われた」
「ああ、そうだったそうだった」
トーバードさんのボソりと聞こえてきた補足に、リーサリスも思い出したように続けてくれる。
「アンタが入ってくるって教えてもらったときに、最初は学校の中にこんな学科は無かったって聞いたな~……トーバードはルーベンスが個人で教えてる頃からいたんだっけ?」
「……あの時はまだ、【呪い】を操作するとかじゃなくて、【呪い】を抑えてもらってたって感じだから、勉強って感じでも無かったけど……」
なるほどね……まあ、事情を全て知っていてくれてるなら、その方が良いのは当たり前か。