悩み相談の場所(2)
「いきなり出来た場所とは言え、ここは【呪い】を教えてくれる学科なんだろ? それなのに普通の学校と同じことばかり……いい加減何かないの?」
「「…………」」
「いやどっちか反応してっ!?」
ボクのツッコみめいた言葉にトーバードさんはビクりと肩を震わせるだけで、こちらを見ることもしない。
「いやさ、騒がしいって言ってたけど、アンタの方が十分騒がしいから」
対して、リーサリスさんはしっかりと反応してくれた。
身体を横に向け、席に座ったまま面倒くさそうにこちらを見る。
「いやいや、隣の教室は人が多いが故の騒がしさじゃん? ボクの場合はうるさいだけだから」
「自覚はあったのね……」
ちなみに隣の教室と言ってはいるが、厳密には一つ飛ばしたも一つ向こうの教室が、普通学校の教室だ。
隣はここと同じ広さの空き教室でしかない。
この建物の一番広い部屋が、出入口から一番遠いあの場所なせいで、こんな配置になっている。
「そういう自分を見つめることが出来るんなら、もうちょっと静かにしてよ」
「なんでだよ。向こうは教わったり教えてもらったりしてるからあんなにガヤついてるんだろ? それなのにココだけこんなに静かにしとく必要はねぇじゃん」
「じゃ、アンタはあたしかトーバードに何か教えてほしいことでもあるの?」
「もちろん」
「無いんだね?」
「いや今のは有るって答える流れだっただろ!?」
「問答無用。どうせ嫌味みたいなもんでしょ? なんせアンタは、教科書一読しただけで全部覚えられた天才みたいだし」
「だからそれは――」
覚えたんじゃなくて思い出しただけ、とは言いづらい。
いや、ルーベンス先生に止められた訳じゃないんだけど、転生人の能力を消すために動いている人たちがいる前で、自分が転生人だと明かすのは、何となく気が引けてしまう。
「――まあボクが天才だからと言えないこともない気がしないでもないんだけど」
「結局嫌味か。死ね」
「辛辣!
というか、ボクが聞きたいのは勉強のことだけど、コッチの勉強のことじゃなくて」
と、自分の机に広げられている、この国の税制について書かれている社会の教科書を指差す。
この世界で数少ない、記憶の引き継ぎがなくて覚えることが出来なかった教科だ。
文字はこの世界で育っていたおかげで父親から教わっていたし、物理や計算などの理数系はさっきから言ってる通り。
だが物理に関しては誰か転生人が世界の改変を行った段階で無意味になる可能性があると、彼女たちに言われた。
……まあ、ボクの世界の物理がある程度適応されている段階で、その言い分は正しいのだろう。
【呪い】があって、転生人が根付けた魔法がある世界で、果たしてこの物理が役立つ時がくるかどうかは、確かに怪しいものだ。
「この学校で、【呪い】のことは教えてくれないのか、ってこと」
「【呪い】ねぇ……」
当然抱くボクの疑問にしかし、リーサリスさんは面倒くさそうに答えてくれた。
「アンタさ、そもそも勘違いしてない? ここは学校なのよ」
「勘違い? だから教えてくれるって話だろ?」
「は? 学校だから自分で学べって話よ」
「……なるほど」
目からウロコとはまさにこのこと。
この世界の学校はこういうものだと何度も理解していたというのに、未だに前世の学校の癖が抜けていなかった。
というか、記憶が想起されたせいで余計にそっちの方に意識されてしまったといったほうが正しいか。
という訳で――
「……っ」
――リーサリスさんに、早速【呪い】を使ってみる。
といっても、本来のほうじゃない。
一週間前、先生を相手にして身につけた【呪い】の逆転の方だ。
さすがに普通の【呪い】をクラスメイトにぶつけるのは失礼に当た――
「って、ちゅらいっ!!」
――ゴイン……!
突然、脳内が揺さぶられた。
……いや違う……これは……何かをぶつけられたのか……!
「いってぇ……!」
頭の表側と内側に、鈍い痛みが広がる。
「いきなり何する! っていうか椅子ってお前っ! 下手したら死んでるからっ!!」
近くに転がっているものを見てみれば、どう考えても投げ飛ばしてきたものはこの教室で使っている椅子しかない。
そして投げ飛ばしてきた人は当然、さっきボクが【呪い】をかけようとしたリーサリスさん。
「下手しなくても普通は大怪我だと思うけど……」
なんてトーバードさんの声が微かに聞こえてくるが、それ以上にリーサリスさんの大声が耳を突く。
「いきなりはこっちのセリフですわ!
アナタいきなりこのワタクシに向かって【呪い】ましたねっ!?」
「実際に学べって言ったのはお前だろっ!?」
「だからといって、クラスメイトに【呪い】をぶつける人がおりますかっ!!」