悩み相談の場所(1)
今回は再び転生人側の主人公のお話を。
この世界の彼らがいる学校と学科がどういったものなのか、を描ければ良いかなぁ、と思っております。
あと欲を言えばバッドエンドに持っていけたらなぁ、と。
……現状書けてる範囲だと、その流れに持っていけてないので確定ではないですが。
組織の中で特別視されたい。
そう考えて学校に通うようになって一週間。
初日はすぐルーベンス先生に連れて行かれたため、満足に会話することも出来なかったもう一人の転校生や、他のクラスメイトである女の子二人とも話をするようになり……まだ少しだけぎこちなさを残しながらも、世間話はそれなりに出来るようになってきた。
……いや、それは過大評価か。
ボクは、自分から話しかけることはあまり無い。
そして黒髪小柄な女の子、ミュウ・トーバードさんもまた、自分から誰かに話しかけることもない。
さらには、「金髪長身美少女」という言葉を体現したかのようなリーサリスさんも、こちらに話しかけてくれることが今のところ無い。
言い方を微妙に変えたのは、話しかけてこない理由がそれぞれで違うのが分かるから。
トーバードさんは引っ込み思案で話しかけようとしても戸惑っている感じだけど、リーサリスさんはボクなんかと話すことがないと思っているような感じか。
結果は同じなのにそこに至るまでの過程が違うというか……結果が同じなのだから同じだろう、と決めつけるには、あまりにも違う気がしてしまう。
主にボクのプライド的な意味で。
だからまあ、話をするにはボクから話しかけないといけない。
それなのに「世間話がそれなりに」は……やっぱり違うだろう。
……そう言えばリーサリスさんは本来、転校生としてボクが来た日には、この学校を卒業する予定だったらしい。
ボクのせいで出来た学科だから卒業のタイミングも先生の自由らしいけれど……その卒業試験のようなもので結果を残せなかったから留まったと、本人は言っていた。
先生は別に卒業でもいいと言ったらしいが、彼女本人が拒絶したのだから、相当の理由が本人にあるのだろう。
……とまあ、このぐらいの話をするぐらいには打ち解けたというのが、現状だ。
「…………今日も騒がしいなぁ……」
ふと、机に向けていた顔を上げ、向こう側にある教室を眺めるように壁を見る。
学校と言っても、薄っすらと記憶に残っている学校とは違い、皆が教室で自習をしているような感じでしかない。
そこで分からないところを教え合ったり、定期的に覗きに来る先生に教えてもらったりと、まったりとした空気の中で行われているので、ああした賑やかさが伝わってくるのだろう。
定期的に覗きに来ている先生も、きっと【呪い】に関するこの教室が出ていなかったら、本来は向こうの教室に常駐しているに違いない。
ちなみにこの場合の先生は、【呪い】を教えてくれているルーベンス先生ではない。
彼は今日、もう一人の転校生たるトウカにを連れて出ている。まあ、形式的に先生になっているだけなので、そもそも勉強が出来るのかどうかも怪しいものだけど。
思えば、学校というのも違和感がある。
マンガの中での記憶にある学校は、こうした自習メインの田舎の学校であろうとも、建物が二階三階あったように記憶している。
それに対してこの学校の建物は、一階だけ。
校舎、と表現するのは躊躇いを見せるレベルだ。住民エリアであるこの辺の建物は、平気で五階建てだったりするくせに。
技術的に不可能な訳じゃないのが分かるだけに、余計にそこが際立っている。
学校というより寺子屋だろう。
寺子屋世代じゃないので想像でしかないが。
「…………」
最近仲良くなったと思っている二人を、なんとはなしに見る。
窓側である左手側、一番前の席に座っているトーバードさん。後ろから見るその横顔は、学校から支給してもらえるテキストを、真剣な目で読み進めているのが分かる。
【呪い】だけでは食べていけない世の中だからこそ、この何もない間にも勉強を進めているのだろう。
もう一人、廊下側から二列目の真ん中の席に座るリーサリスさん。
トーバードさんとは対称的に、テキストは広げているもののあまり真剣には目を通しておらず、ノートを広げて鉛筆を手に持ちクルクルと回すだけで、そこには何も書いていない。この時間が暇だとばかりにボーッとしており、その息抜きに教科書やノートに目を通しているような感じだ。
まあ、元々はお金持ちの家らしく、しっかりと家庭教師に教わった上でここに来ているのだから、何も学ぶことがないのかもしれない。
それにソレを言い出せば、ボクだってほとんど一緒だ。
支給された教科書の内容は、一通り読んだだけで覚える事ができた。
というか、思い出したという表現が適切なのかもしれない。
前世で学んで転生して忘れたと思っていたけれど、記憶の奥底にはしっかりとあったものが想起されたのだろう。
これからも色々なことを、何かをキッカケがある度に思い出していくのかもしれない。
自分の座っているこの席だってそうだ。
この教室は五列×五席の二十五席ある中で、既に使っている席以外で自由に選ぶことが出来たのだけれど、ボクは自然と中央の列の一番後ろを選んで座っていた。
もしかしたら前世での席もここだったのかもしれない。
こうした無意識の行動こそが、勉強してきたことを思い出すための一端を担っていたのだと思う。
……それにしても……。
「前々から思ってたんだけどさ」
どちらかが返事をしてくれるだろうと思い、おもむろに口を開く。
「この座学、いつまでやるんだ?」
転校してきてから一週間、ずっとこんな感じなのだ。
こうしていつものように、ボクからいきなり話しかけて反応をもらってばかりの毎日だ。
なんせボクの勉強は初日で終わってしまったのだから、本当に暇で仕方がない。
それなのに朝は家の手伝いをし、ちょっと早いお昼ごはんを食べてお昼前にここに来て、夕方頃までこの調子なのだから、いい加減何か言いたくもなる。
まさかこちらとしても、教科書一読で勉強が終わるだなんて思ってもいなかった。
もし分かっていれば学校側からお金を出すと言われても、学校になんて来なかったのに。
なんの価値もない一日ばかりを過ごしてばかりだ。