猫は一匹になる
あれから一カ月程経ったように思う。
やったことと言えばママに甘えたり、兄弟たちといちゃいちゃしたりしただけだった。
他の兄弟たちがじゃれてると完全に黒い毛玉で中々可愛いものだね。
今頃気づいたんだけど僕らって目の色がなんて言うんだろう?
灰色に若干青色混ぜたような...そんな感じの色だ。だからって特別なことは何もないんだけどね。
さて、僕らの変わった目のことは置いておくとしよう。
今問題なのは目の前にいるママの口に垂れ下がっているねずみさんだろう。
...僕らもそろそろ乳歯が生えてきたからこれを食べろってことなんだろう。
鼠の口元からは血が流れ、だらりと垂れた尻尾は否応なしに
この生き物が死んでいる、というのを僕に実感させてくる。
くるのだが...これくらいなら意外といけそうじゃない?
「にゃあお」
ママが鳴く、その目線の先には地面に横たわる鼠と僕ら。
よし、それじゃあ僕から、頂こうか。
お腹の辺りにガブリと噛みつく。
あっ、これ、イイかも。
何というか、あれだ、牙がとか肉を裂く感覚が...たまんないなあ
うーん、なんて言うんだろう、感覚は違うんだけどプチプチをつぶした時のような
感じかな、ずっとやっていたくなるような感じだ。
味も意外と…血がしみだしてきておいしい、うん。
モグモグ モグモグ
どれどれ、もう一口...
「にゃ」←まま
「ふにゃあ」←ぼく
もう一口食べようとするとままに鼠から引き離されてしまった。
ちょっと咥えてないで降ろしてえ。
ふう、どうやらひとり、いや、一匹につき一口だけなようだ。
まあ仕方がないかな、さあ兄弟たちよ、お食べなさい
うむむ、兄弟たちも美味そうに食うものだ、
って、何というかなぜナチュラルに鼠を食べてるんだ...
まあでも美味しいから仕方ないね
まあ、こういうのに早く慣れるのは悪いことではないんだろうけども。
うーん、これは心が猫に近づいてるってことかな。
人の心も忘れないようにしないとね。
しかし鼠の肉ってこんなに美味しい物なのか。
鶏肉みたいな感じだね、これ、というか
カエルとかも鶏肉に近い味って言うけど牛とか豚は今世ではもう食べれないかもなあ
あ、そうそう、いきなりだけどここはやっぱり戦国時代だった。
先週くらいに武士みたいな人の一団が通りかかって、
「命を散らす戦で使う甲冑に猫が住まうとは...なかなか皮肉なものだ。」
とかいって水と干物(←これはまだ歯が生えてなかったから食べれなかった。悔しい)
をくれたのだ。水はおいしかったです。竹の水筒で飲ませてもらいました。
ていうか結構人がいたんだよね、300人くらい、もしかしたら戦が起きたりするのかな?
まあ、僕らにはあんまり関係ないかな。
でもあの人達はあんまり死んで欲しくないかなー、いい人たちだったし。
ふああ、ご飯食べたからかな?
うーん、眠くなってきた。
お休み。
ん?なんだ?何か気配が…獣の臭いがする。
荒い息遣いもするし、何だかわからないけどこれは不味い、さすがに分かる。
もしかして野犬か?それだったらママもただの猫だし...やばいやばい。
「ウニャアアアアアアアア‼」
ママは毛を思いっきり逆立てて敵に対して威嚇をしている。
そしてこっちをチラッと見て...これは逃げろと、そういうことだろうか。
いやでも、ママを見捨てるっていうのもあれだし、あああでも何ができるって言うわけでもないし。
そうして戸惑っていると一層唸り声を激しくし、さっさと逃げろと言わんばかりにこっちを見るママ。
ママは暗闇の中に妖しく光る眼の獣に対して威嚇を続けている。
その目線からは濃厚な殺意が伝わってきて命を握られている感覚、とても、恐ろしい。
...うん、逃げよう、ほら、お前らも行くぞ、兄弟たちよ。
甲冑の隙間から逃げ出し、バラバラに逃げ去っていく僕ら。
正直一緒に逃げたかったけど、まあ、仕方ないかな。
そして...ああ、今何というか、恐らくだけど、今、うめき声が聞こえた、ママが、噛み殺されたんだろう...
ウオーーーーン
必死に走っているとこの遠吠えが後ろから聞こえた...
狼だったのか、あいつ、息遣いとかは一匹だけだったから一匹狼とかいうやつか
ん?狼?ああ、まだニホンオオカミが絶滅してないのか。
それにしてもママは...死んじゃったんだよね?
まったく実感がわかないよ...
短い脚を必死に動かして走ってるけど、そういえば食料の確保とかも考えなければならない。
今はとりあえず生き延びることを考えなきゃ...
こんな子猫に食料が取れるのだろうか
多分十分くらいしか走っていないと思うんだけど逃げきれたかな?
もう動物の足音や息遣いとかは聞こえない、聞こえるのは葉っぱがすれる音や
小川が流れる音くらいだ。
...ふう、はあ、はあ、
子猫の足ではもう、限界です。辛い...もう休もう。
木の根の近くの柔らかい土を少しだけ掘って窪みを作ってそこで丸まって寝ることにしました。
今はただ、眠らせてください...
正直今の僕の心の中が正直ぐちゃぐちゃなので色々疲れました。
それではまた今度、おやすみなさい。




