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夏休みなんて、あっという間に終わる2



 魔王の闇のような魔法が俺に迫る。火や雷といった結果がわかるような魔法ではなく、今まで見たことがない黒い大きな何かが俺に迫り、恐怖しながらも俺は火の魔法を相棒に放った。


「悪い・・・食べることはできなさそうだ。」

 俺の動きは、魔王の殺気を受けて鈍っている。だから、火の魔法を放つだけで精いっぱいだった。もう、相棒を口に運ぶ気力も時間もない。


 ここまでの旅の思い出が、頭をよぎった。


 伝説の剣を奪われたこと。諦めた俺をポメラは励ましてくれた。だから、俺は最初の相棒を作った。


 最初の相棒が腐り始めたこと。次の相棒を作るため、竜と戦った。そのおかげで、俺の持つ武器と防具がある程度通用することが分かった。そういえば、あのときポメラにはものすごく心配をかけたっけ。


 相棒には必要のない素材で、ポメラの装備を作ることになったこと。追加でアクセサリーが欲しいと言っていたが、結局何も買っていないな。首輪を贈ろうとしたらけんかになったんだよな。


 神父に出会ったこと。最初はとても高い教材を売りつける悪徳神父だと思ったが、全くそういうことはなかったな。そういえば、ポメラとはいつの間にか仲直りしていたな・・・


 神父が旅についてきたこと。出発の日になって、急に一緒に行くって言いだしたんだよな。ポメラは、魔王退治が終わってから、改めて魔法を教えてもらうつもりだったようだが。


 ポメラがあっという間に、神父を抜いたこと。ポメラは、私の力ではないわと謙遜していたが、今までの努力が報われたのだろうと俺は思っている。俺がそう言っても、ポメラは微妙な顔をしただけだが。


 ポメラが神父と内緒話をしていたこと。どうやら、俺には何か話せないことがあるらしい。神父には話せるようだがな。いつの間にか、あの2人の距離は縮まって・・・何かを渡す約束をしていた。


 ポメラは、俺のいないところで神父と訓練をしていた。俺は、それを遠くで見ていたが、剣の腕も上がっていて、俺を超えていると思った。でも、それでも勇者は俺だし、俺は男だし、ポメラを守るのは俺だって思いたくて、一人で短剣の練習をした。



 俺が、ここに一人で来たのは、ポメラを守りたいって意味があった。でも、同時にポメラの力を借りずに、勇者として認められたいと思ったのかもしれない。だって、格好つけたいんだ。


 ポメラの前では・・・


 俺の頭には、いつの間にか相棒のことではなく、ポメラのことでいっぱいになっていた。


 闇が広がる俺の前に、そのポメラの小さな背中が見えた。幻覚かと思い、苦笑しながらも、その背中を見つめる。


「まったく、こんな時まで相棒のことしか考えてないのね。バッカじゃない?」

「・・・え?」

 ポメラの声に言葉。本物なのだと認識すると同時に、俺の前でポメラが剣を振り上げた。白い布の巻かれた剣は、魔王の闇の魔法を真っ二つにする。


「何!?」

 驚きの声は、魔王のものだ。ポメラはため息をついて、俺を振り返った。


「ほんと、バカなんだから。」

 どうしようもない子だと、笑うポメラが頼もしい。


「魔王、よくも私の唯一の友達を殺そうとしたわね!私、怒っているから!」

「・・・ポメラ、唯一の友達はやめようぜ。」

「そうですよ、私もいるではないですか。」

 背後から神父の声を聞き驚いたが、振り返りはしない。魔王から目を離すことは危険だ。


「・・・」

 魔王は何の反応もない。ただ、俺を見ていた。その目に殺気はもうないようだ。


「私が相手よ。」

 ポメラが俺と魔王の間に入り、俺を背後にかばうように立った。


「勇者はどちらだ?」

 魔王の問いに、俺は起き上がって答えた。


「俺が勇者だ・・・」

「伝説の剣とやらはどうした?勇者はいつもそれを持っているぞ。」

「借金のかたに奪われたんだよっ!」

「借金の・・・かた、だと?」

「そうだ、悪いか!」

 俺はポメラの前に出る。これ以上格好悪いところは見せられないという意地で。


「お前・・・なぜソーセージを・・・剣ではなく、ソーセージを持っているのだ?」

「それは、俺がソーセージ屋の息子で、ソーセージを愛しているからだ!2番目だけどなっ!」

「え、2番目!?」

「ソーセージ屋の息子だと!?」

 ポメラと魔王が同時に違う部分で驚いた。神父は特に何も言わないが、笑いをこらえているような声が後ろからした。


「勇者が、ソーセージ屋の息子か。・・・お前、ここへは何をしに来た?」

「表向きは魔王討伐だが、裏向きは魔王城には入ったという実績を手に入れるためだ。勇者として金をもらった以上、最低限の義務だと思ったからな。」

「・・・そうか。勇者よ、我らは仲間のようだな。」

「仲間だと?」

「そうだ。我も、ソーセージを愛している。」

「なんだと!?なんということだ・・・ソーセージを愛する者に、悪い奴はいない。」

「そうだ、だから我らは仲間だ。」

 俺は魔王の目を見た。それは嘘を言っている目ではない。つまり、魔王はソーセージを愛していて、俺の仲間だ。


「待ちなさいよっ!?今の状況を見なさい!あんた、殺されかけたのよ!?」

「・・・すれ違いというものは、誰しもある。」

「駄目だわ、これ。」

「女、お前は我をどうにかしたいのか?」

「え、私?・・・そうね、宿題的には倒されてくれたほうがいいけど、個人的にはどうでもいいわ。だって、あんた先ぶれを出すんでしょ?自然災害よりましよ。」

「ふっ、はははははっ。愉快だな。ソーセージ屋・・・の息子、お前は見学に来たのだな?」

「あぁ。」

「ところで、そのソーセージは、なんだ?」

「俺の相棒だ。俺の最高傑作「竜のソーセージ」、匂いから違うだろ?」

「くんくん、そうだな。では、それを頂くとしよう。」

「は?」

「見学料だ。その命の代わりに、それを差し出せ。」

「・・・わかった。」

「え?」

 ポメラが驚いた声を上げるが、何を驚くことがあるんだろうか。


「ポメラ、知らないのか?ソーセージは食べるためにあるものなんだぞ?」

「知ってるわよ!?」




「ということで、魔王は倒せませんでした。」

 俺は先生に自伝を渡しながらそう伝えた。自伝には、殺されそうになったところ、ソーセージを使って和解したことになっている。


「それは困ったね。この自伝の売り上げで君のソーセージ屋の借金を返済してもらうつもりだったのに。魔王が倒せなかったのでは、あまり売れないだろうな。」

「・・・はい?」


 先生の話を聞き、俺は全速力で家に帰った。


「親父!どういうことだ、この借金魔!」

「あー・・・先生に聞いたのか。悪い悪い。でも、自伝の売り上げで返済できるだろ?」

「歯ぁ、食いしばれぇっ!」

「ぐはっ!?」

「このくそ親父、テメーをソーセージにすんぞっ!」

「かはっ!?」

「俺は、結構死にそうだったんだぞ!?わかってんのか!?」

「ごふぼっ!?・・・強くなったな・・・」

「当たり前だ。俺は元勇者だぞ。」

「・・・え?もう、勇者じゃないのか?」

「一度負けたからな、勇者の肩書は返上した。あーもう、俺は狩りに行ってくる。」

「待て、ハム・・・狩りに行ったってたかが知れている、俺と研究を・・・」

「何言ってんだ?竜を2、3匹狩ってくるんだ、それで借金返せんだろ。くれぐれも、もう金を借りるなよ。今度は本気でそのソーセージ切り落として店頭に並べるからな。」

「ひっ!?お前、なんでそんな下品な息子になったんだ。」

「借金まみれの家で暮らしていればそうなるよ。行ってくる。」



「まったく、あの親父は何考えているんだか。」

「あんたも人のこと言えないわよ。自伝か・・・」

「なんだよ?」

「最後に魔王城に行った勇者として売れるかもよ?新勇者は、魔王城に近づかないでしょうし。」

「そうだな。あいつが魔王城に自殺に行くとは思えないしな。」

 新勇者は神父がなった。勇者とは、前の勇者かその家族が指名してなるものだ。つまり、俺が神父を指名した。神父がどうしても伝説の剣が欲しいというから、あいつを指名したんだ。


 そう、伝説の剣はすぐ近くにあった。ポメラが持っていた布の巻かれた剣は、伝説の剣だったのだ。借金取りから買って、俺に返そうとしたらしいが、俺が相棒に夢中なのを見て自分で持っていたらしい。


 そして、神父はさらなる高みを目指していた。それは、伝説の剣によって叶えられるもので、神父はポメラに頼み込んで、旅が終わったら勇者になることを条件に伝説の剣を渡されることになっていた。俺の関係のないところで、次期勇者は決まっていたのだ。


「あんたの借金は、いつ返し終わるのかしらね。」

「すぐだよ。」

「・・・なぁ、ポメラ・・・渡したいものがあるんだが。」

「え、何?」

「・・・これだ。」

「・・・あのね、ふざけないでくれる?」

 俺がポメラに差し出したのは、首輪だ。


「ふざけていない。」

「ぶっ飛ばすわよ?」

「ポメラ・・・お前さ、俺が魔王と話していた時驚いてただろ。ソーセージを2番目に愛してるって言ったときのことだ。」

「それは、あれだけソーセージを愛していて、それが2番目だったって聞いたら、誰だって驚くわ。」

「1番は何だと思う?」

「その家宝でしょ。エピソードが好きって言ってたものね。」

「違う。これも大切だけど、これは3番目だ。」

「あ、そう。だったらウィンナー?」

「それは、ソーセージに含む。」

「・・・全く、なんなのよ?だったら、いちばんは何?もったいつけないで、言いなさいよ。」

 ポメラは怒ってそっぽを向いてしまった。俺はそれを見てにやりと笑い、首輪をポメラの首に素早くつけた。


「な、なにすんのよ!え、外れない・・・ちょっと、鍵渡しなさいよ!」

「ポメラだよ。」

「は?」

「だから、俺が一番愛してるのは、ポメラ・ニアン・・・お前だ。」

「な、ななな何言ってんの・・・はっ、それよりこれを外して!」

「嫌だね。だって、逃がしたくないからな。」

「・・・ハム?」

 青ざめていくポメラを見て、かわいいなと思う。


「ソーセージより愛することを誓うから、ずっと俺のそばにいてくれ、ポメラ。」

「・・・あんた、もっとマシな告白はなかったの?ま、あんたらしいけどね。」

 ポメラは顔を上げて、不敵に笑った。


「でも、嫌よ。」

 ポメラが何事か唱えると、あっさりと首輪は外れた。


「そんな・・・」

「あんたとは、もう友達ではないわ。」

「ポメラっ!?・・・嘘だろ?」

「嘘じゃないわ。まさかこんなことをされるとは思わなかった。こんな・・・」

 俯く俺に、ポメラはなぜか抱き着いてきた。甘い香りがして、一瞬クラっとする。


「ポメ・・・」

 カチャリ。

 すぐ近くで、金属音がした。


「え?」

「私と同じようなことをしようとするなんて、思わなかったわ。」

 俺の首には、見覚えのない首輪が。


「あの、ポメラさん・・・?」

 青ざめる俺を、熱のこもった目で見つめるポメラ。その目を見て、心臓が高鳴った。


「かわいい。大丈夫、私は優しい飼い主だからね。知っているでしょう?」

「知らねーよ!?」

「私ね、首輪を贈るっていわれたとき、かなり腹がたったの。でもね、気づいたわけ。あんた想像力がないんだって。だから、実際に首輪をつけて、飼ってあげようと思ったのよ。これなら、私の気持ちわかるかなって・・・」

「もうわかったから、外してくんねー!?」

「身も心も私に捧げると誓うなら、いいわよ。」

「え・・・それって・・・」

「ま、まずは借金を返さないとね。でないと、お父様が許してくれないわ。」

 俺から離れたポメラは走り出して、振り返った。


「置いてくわよ、わんちゃん?」

「・・・はいはい、お嬢様。」





最後までお付き合頂き、ありがとうございます!

少しでも笑っていただければ嬉しいです。


明日から、「死神勇者は狂い救う」を再開しようかと思います。

ただ、書いていた最新3話が消えてしまったので、ショックが大きく・・・

もしかしたら、別のを連載するかもしれません。よろしくお願いします。


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