恐怖へのカウントダウン
「これで揃った。」
真夜中になる前の静けさが、私に冷たい風を送る。これから起こる出来事に対しての、忠告のようにスッと髪を通り抜けて。
「さあ、始めましょう。」
ギシギシと鋼の音を響かせながら道を削り歩く。ゆっくりゆっくり一歩ずつ、人に見つからないように、気を付けながら。
気を高める、目の前だけに集中を向けて。一歩の重みを感じながら、人の命の尊さを知りながら。それでも彼女は、お姉ちゃんをいじめる奴を倒しにいく。
「あなた達は、どんな叫びをするのかしら。」
残酷までの微笑を浮かべて、彼女は今動き出す。救いの無い自分勝手な未来の道へ。彼女自身身勝手な行いで、それは実行される。
自分の家族への信頼を守り抜くための決意表明のために今、残酷なまでの花を咲かせる。
「これはだって遊びだもの。」
人の命の尊さを知りながら出る。その言葉は、人を遊び道具のようにする遊女のようだった。
「着いた。」
そうこうしているうちに、駅の前まで来ていた。私は時間を確認する。
「まだ時間じゃない。」
駅に着いた時間は、ちょっとだけ早く7時五十分を指していた。私は時計の近くの茂みに隠れた。モーニングスターを横へ起きばれないようにこっそりと、息を潜めて駅前を眺める。
すると、お姉ちゃんと同じ年ぐらいの、男の人が目の前の時計の下に来た。私はすぐにお姉ちゃんの、ラインアカウントに切り替え送る。すると男の人は、スマホを取り出し確認した。
『こいつか。』
私は確信した。この男の人がお姉ちゃんを、いじめている犯人だと。だから私は茂みの中から出て話かけてみた。
「すみません。」
「よー、来たじゃねーか。」
やはりこいつだ。この一言の言葉で、この男の犯行は確定したのだ。
「あなたでしたか。」
私は隠し持っていたモーニングスターを、茂みから思い切り引っ張り出す。そして、それが空中にある時に手首を曲げて男に向かって投げる。
「マジか。」
男は茂みの奥へと吹っ飛ばされる。私はすぐに男のことを追って、茂みの奥へと進んだ。ゆっくりと足を動かしながら、男の近くへと向かう。
「ごめんなさいね。手加減ができなくて。」
「お、お前は。」
私ら男の顔を見て絶句する。まあ察してはいたことなのだけど、いざとなってその姿を見るとこちらも同様してしまう。
「霧島希じゃないな、でしょ。」
男はその言葉の、二の次が言えない。だって私が言ったのだから。それに男に当てた箇所は腹部だ。だから言葉を話すことすらままならないのだろう。
「あばら骨の五六本ってとこかしら。」
「誰なんだ。」
「あー私のことですか。私は希の妹と言った方が分かりやすいですか。いじめっこさん。」
最後の言葉が、緑の生い茂る林の中に威圧感を与える。今までの静けさが、嘘のように裏切られて男の人は絶句する。それが絶望だとも知らずに。
「俺をどうする気だ。」
男の息はままならないと言うのに、言葉を短く分かりやすく切り捨てながら私と話す。
「簡単ですよ。単なる処刑です。」
彼女の言葉から放たれたことは綺麗な様子の彼女とはあいまみえぬはずの言葉だった。男はどんどん心を貪られていく。綺麗にキレイに切り取ってどこかへ、その希望を捨てられていく。
「死にたくない。」
男は声になれない言葉を、小さな声で放つ。希望を求めた男からの、最後の伝言のように。
「大丈夫ですよ。そんなに痛くありません。やってしまえば、あとは楽に天国へ行くだけです。いえ、間違えました。あなたは、地獄でしたね。」
「やだやだやだやだ。」
やだの言葉が、だんだんと力なく抜けて行く。彼はおかしいと思い腹部を見てみた。そこには、血が溢れていて、血は体の大半は流れ出ていた。そして彼は悟ったここで死ぬのだと。
「やだ、なんて言うから死んでしまうんですよ。」
彼女は男の最後を見とると、言葉を残してそこをすぐに立ち去ろうと、自分の体全体を見回してみた。
「やっぱりか。」
体ではないがモーニングスターには、男の血がべっとりとついていて、血独特の異臭を放っていた。私はすぐにそれを拭き取り、洋子の所へ持っていこうと思った。だって彼女なら絶対に隠してくれるもの。
「君、何をしているだ。」
私は茂みから出た瞬間、運悪く警察の人に見つかってしまった。まずい、このままだとばれてしまう。ごまかさないと。
「えっと、ここ塾の近道なんですよ。」
「えーそうなの。気をつけて帰りなよ。」
うまく警察のことを撒けたみたいで、私は何も言われなかった。だって塾やそろばん習い事はこの時間帯ではあり得る。だから警察も私のことを見逃したのだろう。後少しでも長居したらヤバかった。
「よし向かうか。」
私は来た道を戻る。本当にこれでお姉ちゃんのいじめは無くなるればよいと、空想を描いて未来を見つめながら。洋子の家にこれを置いていくために。
「あいつおせえな。」
「マジうぜー。」
柄の悪い姉ちゃんと兄ちゃんが、スマホをいじりながら時間を確認して会話している。
「あいつ連絡すらない。」
「マジか。」
黒色の会話が駅の中に潜めている。駅の内部はガヤガヤと女子高生が部活帰りらしく騒いでいる。それにハイヒールを履く人や、下駄や草履といった音のでる靴を履いているせいで、さらに周りに会話を聞こえなくする。
「じゃあ、こんどおごりかな。あいつ。」
「いいじゃんそれ。」
「それじゃ、今日のところは撤収てことで。」
「OK。」
彼ら彼女らの話は、まるで一つの軍団を納めるような口振りで仕切っている。
「じゃあねーみんな。」
その一つのグループは解散した。たった一言、その解散を宣言したことにより四五人のグループはすぐさま解散した。