その9
ミコトが指をさした方向には、鳥のぬいぐるみにじゃれる、びゃっこちゃんの姿があった。
「白虎さまは、びゃっこちゃんに戻ったんだな」鈴露が言う。
「まあ、見てる方も安心ね」
「何が安心じゃ、メイ! こやつをどけるのじゃ!」鳥のぬいぐるみが叫ぶ。
「はーい」
鳥のぬいぐるみをつかみ、上に上げるメイ。
ぬいぐるみに飛びつこうとするびゃっこちゃん、なのか、白虎なのか。
「我はネコじゃらしではない!」叫ぶ朱雀。
「では、お答えください。我が守り神、朱雀さま」
「何ぞ。とにかく、ネコを向こうへ!」
「ミコトさん。びゃっこちゃんを向こうへ連れて行ってください」
「は、はい」
ミコトは言われるままに、びゃっこちゃんを抱きかかえ、メイから離れた。
「では改めておたずねします、朱雀さま。若青龍さまは今どちらに?」
「…それを探すのも、おまえの力を開くことに通ずる。精進するがよい」
「承知いたしました。精進いたします」
鳥のぬいぐるみを、びゃっこちゃんのほうへ投げるメイ。
「なっ、何をいたす!」
鳥のぬいぐるみをキャッチするびゃっこちゃん。再び、戯れ始める。
鈴露と祭に近づくメイ。
「鈴露。祭ちゃんの意識が戻ったら伝えて。ミコトさんと私、二人きりにさせてもらうって」
「…どういうことだ?」
「うーん。私の中の何かが言ってるの。あなたがた、信用できないって」
「何だよ、それ」笑う鈴露。
「だって鈴露、あなた、おかしいわ」
「どういう意味だよ」
「私はミコトさんを開くために呼ばれたのに、そのために私がどうすればいいかを、何も教えてくれない」
「…それはお前とミコトの間の問題だからだ」
「違うわ。元々は西園寺の問題なんでしょ? だったら鈴露にはわかっていることが多少はあるはず。それすら教えてもらっていない」
「考えすぎだ」
「祭ちゃんもよ。力があるのに、今まで何をどうしていたの? その経緯の説明もなしに、私がミコトさんを開くことに頭を下げる。それって、どうなのかしら?」
「メイ…おまえ、過敏に反応し過ぎだよ」
「過敏に反応してほしくて、こういう事態になってるんじゃないの?」
鈴露とメイが揉めているところに、祭が目を覚ました。
「あ…」
「祭ちゃん、教えて。私がここに呼ばれた、本当の目的は何?」
「……」
「では質問を変えます。今、若青龍さまはどこに?」
「……」
「何も答えないのね。あなたがそういうつもりなら…」
“メイちゃん、私の“鼻”を貸すわ!”
「え?」
頭の中に真里菜の声が聞こえてきたメイは、目だけで辺りの気配を探った。
“鈴露くんや、主人たちは“命”だから、今、あなたに力は貸せないの。でも、私たち、“命”じゃないから”
“この会話、鈴露たちに聞こえてるんですか?”
“自分たちの思念を読まれないようにするために結界を張っているはずだから、逆にこちらの声も聞こえないはず”
“…けっこう、間抜けなシステムなんですね”
“とりあえず、私の鼻を使って、神様たちの匂いをかぎ分けて。誰がどこに入ろうとそれでわかるはず”
“ありがとう、真里菜おばさま”
“いいえ。この通信は、まこちゃんの力でやってるの。こちらと話したくなったら、まこちゃんの顔を思い浮かべてから話しかけてみて”
“わかりました”
“私の“書”も使ってください”
“史緒おばさま?”
“質問してくれれば、あなたの手が勝手に答えを書くようにしておきます。メモ帳をいつも携えていてください”
“はい”
“えーと、それ以外は追々ね”真里菜が言う。
“ありがとうございます。使わせていただきます”
「どうした、黙り込んで」鈴露が言う。
「祭ちゃんの答えを待ってるだけよ」
そう言いながら、鈴露、祭、ミコト、びゃっこちゃん、鳥のぬいぐるみ、カメのぬいぐるみと、匂いを順に脳裏に焼き付けるメイ。
「私には…わからない…」
「わかったわ。で、今の状況を整理すると…白虎さまはびゃっこちゃんの中に、朱雀さまは鳥のぬいぐるみの中に、玄武さまはカメのぬいぐるみの中ですね。若青龍さまは行方不明。ミコトさんと祭ちゃんの中には誰もいない」
「そういうことになるな」
鈴露がそう言った瞬間、メイの脳裏にある鈴露の匂いが変わった。
思わず鈴露の顔を凝視するメイに、鈴露はにっこりと微笑んだ。
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