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その8

「私たちがジェットで飛ぶ意味、あるんですの?」

奏子が珍しく龍をとがめる口調になった。

「いいじゃないか。久しぶりに華音ちゃんと悠斗くんも一緒に遊覧飛行だ」笑う龍。


「ごめんなさい、奏子ねえさま。メイたちがご迷惑をおかけして」

「あ…そんなことを言っているわけではないのよ」奏子が華音を見つめる。「ただ……四神さまたちにお任せしたのなら、今、私たちは伊勢に行ってどうするのかしらと…」

「恭介殿も来るらしいですぞ、マドモアゼル」充がニヤリと笑う。

「まあ。久しぶりに西園寺保探偵事務所のメンバーがそろうのね」奏子が笑う。


「でも恭介くんは、政府要人としてのお仕事で伊勢に来るのよね?」

 真里菜が尋ねると、翼が頷いた。

「ついでに“奥”のほうでも仕事してもらえばいい」

「四辻の者は人使いが荒いって、また文句言われるわよ、おにいちゃま」真里菜が笑った。

「そうね。でも、紗由ちゃんなら言うはず。“恭介くんは、やればできる子ですから”って」

 奏子が言うと、全員が楽し気に笑った。


  *  *  *


はや足で祭の行方を捜す鈴露。

ぬいぐるみを抱えながら、その後を追うメイは、息を切らしながら訪ねた。

「大事故とは何なんですか?」

「あれのことじゃ」苦々し気につぶやく朱雀。

 メイが気配のするほうに目をやると、ミコトの胸倉をつかむ祭の姿があった。

「放せ…」


「本日二度目…兄と妹のじゃれ合い?」

「よく見ろ、小娘」玄武が言う。

 言われて、ミコトと祭を見つめるメイ。

「え? え? えーっ?」

 メイの視線の先には、ミコトの胸倉を右腕で高くつかみ上げている祭の姿があった。

 ミコトの足は宙に浮いている。


「ちょ、ちょっと。鈴露、止めて!」

「四神間の戦いに“命”は入れぬ。我はこの“集”(つどい)の外に在りし者」

「“集”(つどい)?」首を傾げるメイ。

「“宿”のグループのことだ。未熟者には説明が必要か?」玄武が問う。

「…神様って慈悲深いから未熟者にもお優しくていらっしゃるのですよね」

カメのぬいぐるみを上から見下ろし微笑むメイ。

「ふん。…まあ、よい。我、玄武は“黒亀亭”に、そこな朱雀は“雀の宿”に、今、ミコトの中に入っている白虎は“縞猫荘”に、そして…今、祭に入っている若青龍は“清流旅館”に。四神で一つのグループをなしているのだ」


「ちょ、ちょっと待って! 今、変なこと言ったでしょ」

「何がだ」不機嫌そうな玄武。

「祭ちゃんに入っている若青龍って、変でしょ!」

「変も何も、入っているのだから、仕方ないのう」朱雀が言う。

「神様のくせに、仕方ないとか簡単に言わないで!」

 メイは鳥とカメのぬいぐるみを投げ捨てると、つかつかと、ミコトとメイに近づいた。


「ミコトさんをおろしてください、若青龍さま」

 メイの言葉に聞く耳を持たない、祭の中の若青龍。

「もう一度申し上げます、若青龍さま。ミコトさんをおろしてください」

 ミコトの体は吊り上げられたままだ。


 メイは大きく深呼吸すると、祭の頬を思いきり平手打ちした。

「いたっ!」

 驚いてミコトを放す祭。床に倒れこむミコト。

「あいたた…」頭を何度も振るミコト。


「何をする!」若青龍が怒鳴る。

「それはこっちのセリフです。祭ちゃんの体から出てください。でないとあと5発くらい殴りますよ」

「何を言うておる。そもそも、おなごに手を上げるなど…」

 祭に往復ビンタをくらわすメイ。

「次はグーで」


「…食えない娘だ」

 祭の体がふわっと崩れ落ちる。

「祭!」走り寄り、体を支える鈴露。

「祭ちゃん!」

「祭…?」ぼんやりと叫ぶミコト。

「…抜けたようだな」鈴露が言う。


「抜けた? どこに行ったの?」

「それは…」目を反らす鈴露。

「しっかりしてよ、鈴露。グループがどうとか言ってる場合じゃないでしょ! 力を持ってるあなたがちゃんと対処してよ。祭ちゃんがどうなってもいいの?」

「…ビンタしてたおまえが言うか」


「言いますとも。だいたいね、私の力を利用するとか考える前に、力がある人たちの力を利用することを考えなさいよ!」

「メイさん…」

 ミコトを振り返る鈴露とメイ。

「ミコトさん! 大丈夫?…えーと、白虎さまは…」

 ミコトは、二人の向こう側をゆっくりと指さした。


  *  *  *


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