その6
ミコトが見上げた先には祭の姿があった。
「祭!」
「祭ちゃん!」
「おにいちゃんが自分で何とかできるなら、じいちゃんもばあちゃんも、そうさせてる!」
両拳を握りしめる祭。
「で、でも、彼女自身、よくわかってないようだし…初めて会った人に迷惑かけられないよ…」
「お取りこみ中、すみませーん」
「鈴露!」
「よっ! ミコト!」
「あ…おじいさんのお使いで石を届けに来たのか?」
“違うよ”
「じゃあ、何で?」
“メイの手助けと、祭を守りに”
「メイさんの手助けって、まるでお前も能力者……あれ? おまえ、今、俺の頭の中に話しかけた?」
「うん」
鈴露の答えに、ミコトは目を丸くして見つめる。
「おまえ…もしかして…羽童なのか?」
「そっちかよ!」眉間にしわを寄せる鈴露。
メイがコホンと咳をする。
「あのー、鈴露はこう見えて、日本で一二を争う“命”さまらしいです」
「へえ… “命”って顔で決めてたんだ…」
「…違いますが」
「ところでメイちゃん、ジェットで伊勢に行ったんじゃ…」祭が不思議そうに尋ねる。
「龍おじさまに言われた集合時間に行ったら、ジェットが飛び立ったところで、先に行くっていう手紙と、カメのぬいぐるみと、鳥のぬいぐるみが置かれてたの」
「ジェットって?」
「皆で伊勢にミコトさんを探しに行くために、華音おばあちゃまのジェットを貸りました。…でも、ミコトさん、ここにいるし…」
「もう少し早く着いてれば、ジェットで伊勢に行けたのか…残念」
「行けるわけないでしょ!」祭がミコトの胸倉をつかむ。「みんなで止めるわよ!」
「ねえ」メイが鈴露の腕を引っ張り、耳打ちする。「ミコトさんて天然?」
「ははは」力なく笑う鈴露。
「みゃーん」
びゃっこちゃんの鳴き声に一斉に振り向く4人。
「そうだ! ネコ缶あげないと」スーツケースからネコ缶を取り出し、びゃっこちゃんのゲージに駆け寄るミコト。
「にゃ~ん」嬉しそうな、びゃっこちゃん。
「あの…鈴露と祭ちゃんが、びゃっこちゃんを迎えに行ったのに、何でミコトさんが連れて来たんですか?」
「童さまに言われた通りにしただけだけど」
ネコ缶をおいしそうに食べる、びゃっこちゃんの頭をなでるミコト。
その様子をじっと見つめる鈴露。
「なあミコト。玄関先で立ち話というのもなんだ。ミコトの部屋に行こうぜ」
鈴露はニッコリと笑った。
* * *
ゲージに入ったびゃっこちゃんは、鈴露とにらめっこを続けている。
「何なの、あれ」メイがちらちら、鈴露たちのほうを見る。
「鈴露はネコ好きだったんだな」
「なんか殺気立ってるんですけど…」
「あのさ、祭。聞いてもいいかな」
「何?」
「鈴露のこと、いつも、すんごく邪険にしてたのに、なんか今日違うよね。鈴露が実力者で俺のことでお世話になるから無理してるの?」
「えっと…」顔を赤らめる祭。
「祭ちゃんと鈴露は婚約してます」
「えーっ! じゃあ、じゃあ、祭が結婚を考えている相手って鈴露?」
「はい」不機嫌そうに答えるメイ。
「そうだったんだ…うん。大丈夫だよ、祭。鈴露はチャラそうに見えて、顔だけの男じゃないから…そうか…そうだったんだ。幸せになってもらえるように、俺、頑張らなくちゃなあ…」
「う、うん。ありがと」複雑な表情で頷く祭。
「あとですね、メイさん、鈴露のこと、呼び捨てにしてますよね。親しい方なんですか?」
「いとこです」
「いとこ?」
「私の父と、鈴露の父は兄弟です。つまり、二人とも華音の息子です」
「え? そうなの? てことは、鈴露は俺とも親戚? 確か…紗由ばあちゃんのじいちゃんが西園寺保だろ。総理だった人。そのお姉さんが西園寺華織ですよね。華織さんのお孫さんが華音さんで、さらにそのお孫さんがメイさん…鈴露、そんなこと一言も言ってなかったなあ。ていうか、家のこととか話さないし…」
「私、飲み物持ってくるね」祭はミコトの話を遮るように席を立ち、部屋を出ていった。
「そうだわ!」メイがバッグを開ける。「ミコトさんを開く以前に私、ミコトさんに鍵を届けに来たんです」
「鍵?」
「弁護士さんが、あなた宛ての手紙と鍵を私に送ってしまって…これがその鍵です」
「あ…」
ミコトも何かを思い出したようにスーツケースを開けて、宝箱を取り出した。
「これの鍵かな」
「みゃーん!」
いきなり大声で鳴くびゃっこちゃんに驚き、ミコトとメイが振り返った。
と、その時、ゲージから飛び出すびゃっこちゃん。
メイの手にあった鍵を加えると、猛スピードで部屋を出ていった。
「あ! びゃっこちゃん!」
慌ててその後を追うミコト。
メイも後に続こうとするが、その腕をつかむ鈴露。
「白虎さまの好きにさせておけ」
「え? 白虎さま、びゃっこちゃんの中にいたままなの? そんな気配全然…」
メイがハッとする。
「まさか…」
「そのまさかだ」
鈴露は睨むようにドアの外を見つめた。
* * *




