その4
鈴露と祭は動物病院の受付にいた。
祭は怪訝そうに受付嬢に尋ねた。
「…あの、西園寺咲耶が家政婦をつかわして、びゃっこちゃんを引き取りに上がったということ…ですか?」
「はい。先ほど、西園寺びゃっこちゃんをお引き取りいただきました」
「そう…ですか。わかりました。お世話をお掛けしました」
丁寧に頭を下げ、その場を立ち去る祭。
傍らで咲耶に電話する鈴露。だが、つながらない。
「状況が悪いようだな…」
「ジェットは結界を張って飛ぶでしょうから…つながらないでしょうね」
「いや。さっきから…周囲の…壁が揺らいでいる。近くにジェットとは別の結界があるようだ」
「…お富士さまの近くは、いろいろなものがありますから」
「我をはねつけるほどのものがか?」
黄龍の若宮モードになる鈴露に、祭は緊張する。
「いえ。それほどのものが存在するとは思えません」
鈴露が辺りに意識の目を伸ばしてサーチするのを感じた祭は、同様にその跡を追う。
「…時々、穴がある? どういうことでしょう、これは」
「我をはねつけるほどの結界だということだな」
「それはつまり…?」
「“命”以外の存在によるもの……もう少し、追うことにしよう」
言いながら手で額の汗を拭う鈴露。
「少々、お疲れなのでは…向かいの喫茶店でコーヒーでも」
「すまない。そうさせてもらおう」
二人は向かいの喫茶店へと向かった。
* * *
鈴露と祭が動物病院を出た後、受付嬢は、足元にあったゲージを手に取り、外に出た。
病院裏手の駐車場に向かう受付嬢。
ミコトの姿を見つけると、手を振る。
「待たせたな」
「うわあ…きれいなお姉さんが男声…」
「とっとと受け取れ」
ゲージを差し出す受付嬢。慌てて受け取るミコト。
「ありがとうございます」
「駅に向かえ。しばらくしたら、我は彼女を離れて木像に戻る」
「はい」
びゃっこちゃんのゲージと共に、ミコトは足早にその場を立ち去った。
* * *
「追いきれぬ…」
額の汗をハンカチで拭いながら、悔しそうにつぶやく鈴露。
「宮さま…ご無理はなさらないでください」
「今、無理をしなくて、いつするのだ」
「ですが…何かがおかしいです。私にも感じる違和感。ここはいったん引いた方が…」
「そうだな。今は引こう」
そう言った途端、鈴露の額から汗も引いていく。
「今、我をはじきし力…それがミコトを守るものであるよう祈ろう」
鈴露は目の前の紅茶をゴクゴクと飲み干した。
「ありがとうございます。この後、どういたしますか。清流に戻るか、伊勢に合流するか」
祭の言葉に鈴露がハッとする。
「そうか…! 我を足止めするための結界か…何から我を遠ざけたい?」
「…おにいちゃんでしょうか?」
「何のために?」
問われた祭の頭がぐらりと揺れた。
「おにいちゃんを邪魔しないため…」
「ミコトのために動く我が邪魔だというのか?」
「おにいちゃんのしたいこととは違う…」
「ミコトは何をしたい」
「じいちゃんと、ばあちゃんの、願いを叶えたい…」
「類まれなる龍の子と、西園寺の姫命宮の願いとは?」
「……」
「願いとは?」
「…おまえ自身がたどり着くがよい」
「黄龍さま!?」
ぐったりとイスにもたれかかる祭。
ハッとする鈴露。
「祭! しっかりしろ、祭!」
祭の隣に行き、手を握る鈴露。
「…鈴露さま…?」
意識を取り戻した祭が周囲をゆっくりと見回す。
「清流に戻ろう。俺たちは大きな間違いをしていたようだ」
鈴露は祭をやさしく見つめた。
* * *




