その3
清流旅館にメイが呼んだジェットが到着しようとしていた頃、ミコトは動物病院の向かいの喫茶店でコーヒーを飲んでいた。
カップの横には、羽童が置かれている。
スマホで誰かと話をしているふりをしながら、羽童と話をするミコト。
「どうしてスマホに連絡が来ないんでしょう」
「盲点だよ。皆、誰かが連絡したと思ってる」
「超能力者たちなのに、そういうのわからないんですね」クスリと笑うミコト。
「…店員がこちらを見てるな。電話は外でしろと言いに来そうだ。心に直接話しかけるから、おまえも同じように返答せよ」
「ムリですよ!」
店員の視線を感じ、スマホを切るふりをしてカバンにしまい込むミコト。
大きく息を吐き、コーヒーを飲む。
“そんなことできるなら…”
“苦労はしないと言いたいのか?”
「わっ!」
驚くミコトの声に、店員が振り返る。
慌てて手を上げるミコト。
「和…牛弁当お願いします」
「オーダー入ります。和牛ひとつ!」
“わあ。聞こえた…”
“ところでミコト。これからどうする?”
“えーと…清流に集まっている人たちには、僕の考えていることは読まれてしまうんですか?”
“彼らに、こちらの張った結界を破ることはできない”
“羽童さま、すごいんだね。国内屈指の“命”さまたちとか、いろんな姫様とかより、力強いんだ”思いながら微笑むミコト。
“お前を守るためだ”
“…ありがとうございます。ていうか…迷惑ばかりおかけして、すみません。あの、僕のことはとにかく、祭のこと、よろしくお願いします”コーヒーに向かって頭を下げるミコト。
“…さっきの質問に戻る。これからどうする?”
“清流に戻ろうかと思います”
“…伊勢には行かぬのか”
“行きます。清流に戻って、若青龍さまを連れて伊勢に行きます”
“おまえ…わかってるのか? 若青龍に体を乗っ取られて外出するということは、若青龍の意のままに動くということだぞ”
“それを止めてください”
“…あ?”
“ですから、羽童さまのお力と、あそこで、びゃっこちゃんに入っている白虎さまのお力で何とかしてください。黄龍の羽龍さまも呼び戻して、皆で若青龍さまを抑えてください。それで伊勢に連れ戻してしまえばいいんです”
“…うむ”
“じゃあ、それで決まりですね”
“う…うむ”
“とりあえず、和牛弁当食べてからってことで”
* * *
“ふう。食った食った”
ミコトは、おかわりしたコーヒーをごくりと飲んだ。
“まずいな”羽童がつぶやいた。
“美味しかったですよ? まあ、うちの料理程ではないけど”
“実にまずい。急ぐぞ、ミコト”
“え?”
“急がぬとおまえは清流に戻れなくなる”
ミコトはわけもわからず、羽童を見つめた。
* * *




