その24
メイから鍵を受け取り、宝箱を開けるミコト。
中には、龍たちの言っていた通り、神箒が納められていた。
だが、箒に飾られていたのは青龍だけで、他の三神は絹布に包まれていた。
箒をそっと取り出し、机に置くミコト。
それをじっと見つめるメイ。
「神箒は動かないのね…」
「準備をしておられるのだ」若青龍が言う。
「若青龍さま。今、俺がすること、ありますか?」
「箱の中の正絹で拭いて差し上げろ。ポシェットに入っているだろ」
言われた通りにするミコト。
だが、しばらくするとミコトの頭がぐらぐらと揺れ、神箒に覆いかぶさるように、突っ伏してしまった。
「ミコトさん!」
「案ずるな、メイ。古の青龍さまが精査しておられるのだ」
「精査?」
「清流旅館の九代目にふさわしいかどうかをだ」
「ちなみに、ミコトさんが九代目にふさわしくなかった場合、どうなるんですか?」
「目が覚めぬ」
「覚めぬって…!」
「そなたが何とかせよ」
「往復ビンタとかですか?」
「…若青龍さま。彼女に任せるとミコトが脳挫傷になりそうです」心配そうな羽童。
「古の青龍さまにミコトを認めていただければよい。それだけのこと」
「どうやって?」
ドラゴンのぬいぐるみを両手で握りつぶすようにつかむメイ。
「乱暴するでない…! 今、ミコトは古の青龍さまと話をしている。まあ、面接のようなものだ」
「大丈夫かしら…」不安げな様子で、ドラゴンのぬいぐるみをポイと捨てるメイ。「ミコトさん、ちょっと天然だし…」
「これ、投げるでない」慌てる羽童。
「まったく…!」苦々し気に言う若青龍。「心配ならそなたも行けばよい」
その途端、部屋の中に竜巻が起こる。
「な、何これ…」
メイは、辺りを確認する間もなく、ふわっとソファに倒れこんだ。
* * *
ふと気が付くと、メイは清流旅館裏手の、ジェット機が発着陸した広場にいた。
芝生の上にはテーブルと椅子、ティーカップとお菓子がセッティングされていて、ミコトと見知らぬ初老の男性が座っていた。
「メイさん、いらっしゃい」
「そなたが朱雀の若姫か」
「…“命”さまたちは、そうお呼びになりますが…高橋メイです。青龍さまでしょうか?」
「いかにも」
ミコトに椅子を引かれ、着席するメイ。
「ミコトを助けに来たか」
「そうでした! ミコトさんを清流旅館九代目と認めてください。お願いします」
「どうしたものか」
「ミコトさんの目を覚ましていただけるなら、祭ちゃんが九代目でもいいのかなとは思いますけど。鈴露を婿養子にすればいいですし」
「ミコトはどうなるのだ」
「ドラゴンブルなどの系列ホテルの経営に回ればいいと思います」
「それは人間の都合だ」
「私には神様のご都合はわかりません」
「あ、あのー、それはともかく、鈴露はまず、西園寺に戻してやりたいな、やっぱり」ミコトが話に割って入る。
「けっこう、面倒なのよね、それ。まず、おじいちゃまとおばあちゃまの姓を高橋から西園寺にして、走馬さんと麗さんの姓も西園寺にして、それから鈴露の籍を移す」
「一気に西園寺が増えるね」笑うミコト。
「ねえ。そもそも、ミコトさんは九代目になりたいの?」
「正直、よくわからないんだ」苦笑いするミコト。「長男だから当たり前だと思う反面、ずっと清流を離れていたのに何が跡継ぎだよって思いもある」
「じゃあ、祭ちゃんは? 九代目になろうって考えたことあるのかしら」
「うーん。鈴露の嫁と清流の九代目が両立するとは思わなかったんじゃないか、さすがに」
「青龍さまは、どう思われますか?」
「え?」
「認めるとか認めない以前に、そもそも青龍さまは、どんなビジョンをお持ちだったんですか?」
「…どちらでもよい」
「あの…それでは今、ミコトさんを精査するのはなぜですか?」いぶかしげに尋ねるメイ。
「真大祭において初めて、二代から三代にわたる跡継ぎが一緒に舞を舞うのだ。翔太亡き後、駆と次の跡継ぎが舞う」
「今回は3人一緒でよろしいのでは。駆おじさまとミコトさんと祭ちゃん」
「だが…」
「だが、何でしょう?」
「青龍がメインの真大祭なのじゃ。きっちりと決めて白虎たちに示さねばならぬ」
「…はあ」不満げに青龍を見つめるメイ。
「あの…青龍さま。それではご猶予をいただけないでしょうか」
「猶予とな」
「当分は父の駆が何とかしてくれます。九代目はまだ先のこと。白虎様たちには、決めたけど秘密ってことでいかがでしょう」
「ふむ。それでよかろう」
「あのお…」
「何じゃ」
「この取り決めは皆さんには内緒にしておきます」ニッコリ笑うメイ。「ですので、ミコトさんを開いていただけないでしょうか」
「な、何を申す…!」
青龍は目を丸くしてメイを見つめた。
* * *




