その23
「あの…鈴露さんが、今すぐ清流旅館に戻るって言ってるんですけど…」
祭が言うと史緒が淡々と答える。
「戻りますよ、当然。あなたたちの結婚式を紗由ちゃんと翔太くんに見せないなんて、ありえません」
「おばあさま…」
「…というわけなので、祭ちゃん。鈴露くんに、少し落ち着くように言っておいて」
真里菜が笑うと、祭は足早に戻っていった。
「さすがの鈴露も気が動転してるかな」笑うミコト。
「ミコト!」胸ポケットの羽童が飛び出し、背後に飛んだ。
「どうしました?」後ろを向くミコト。
「黄龍の若宮は動転などしていない。神箒の箱が持ち去られたのを感じとっただけだ」
「え!?」
「どうしたのです?」史緒が聞く。
「あ…」顔を見合わせるミコトとメイ。
「ミコトさんと私、先に帰ります!」
メイはミコトの手を引くと部屋を出ていった。
* * *
ミコトとメイが清流旅館の前の丘の上に到着した頃には、もう日が暮れかけていた。
慌てて石像を動かし、中を覗き込むミコト。
「ない…」
「祭ちゃんについた嘘、本当になっちゃった…」座り込むメイ。
「でも、いったい誰が何のために? 神箒なんだよな、中身」
「関係者の意見をまとめると、そうなのよね。お祭りじゃないと使えないのに…」首を傾げるメイ。
「他の使い道があるなら別だけど」
「うーん。だって、お祭りのために作られたものなんでしょ?」
「とりあえず、若青龍さまに相談しよう…それでいいですよね、羽童さま?…ん? いない!」
「え!?」
メイが立ち上がり、ミコトの胸ポケットをバンバン叩く。
「痛い。痛いよ、メイさん」
「んもう。何でみんないなくなっちゃうの?」
メイはミコトの腕をつかみ、清流旅館に向かって走り出した。
* * *
メイは腕組みして、ドラゴンのぬいぐるみと、木の人形もとい羽童を睨みつけた。
「あのー、ちゃんとご一報いただきたいんですけど」
「すまぬ」
ドラゴンは木箱の上でもぞもぞと動いた。
「動けるんだ!」驚いてドラゴンをわしづかみにするメイ。
「つかむな!」
「つかむと、暴れる…ふーん」
「でも、その姿でこの宝箱を取りに行ったわけじゃないですよね?」
ミコトが尋ねると自慢げに答える若青龍。
「通行人の体を借りた」
「関係ない人を巻き込まないでください!」
「だが、直に雨天となる。あそこは雨が染み込む場所だ」
若青龍が言い終わるか終わらないかのうちに、窓の外で雨の音が響き出す。
「ありがとうございました、若青龍さま」
「うむ。まあよい。問題はこれからじゃ」
「問題?」眉間にしわを寄せるメイ。
「箱の中の古の青龍さまは、眠りにつかれる前、将来生まれる祭が九代目になるものと承知していた。ミコト、おまえが九代目になるならば、古の青龍さまに、それを認めさせねばならぬ」
「待ってください、若青龍さま!」メイがドラゴンを握る。「西園寺華織が、神箒に古の青龍さまを納めた時、九代目を祭ちゃんてことにしたってことですか?」
「そうだ」
「じゃあ、いずれ九代目となるあなたが云々というミコトさん宛ての手紙は何なんですか? ミコトさんと私のことを“二つの命の理”とかなんとかご宣託してたのも、いったい何だったんですか?」
ドラゴンの尻尾をぎゅうぎゅう握るメイに、若青龍が苦し気に声を出す。
「落ち着け…小娘。まずは手を放せ」
「あ…はい」ドラゴンを床に落とすメイ。
「落とすな!」
「……」不機嫌な様子でドラゴンを拾うメイ。
「華織は、ミコトのことを、いずれ九代目となる、と称している。いずれ、じゃ。手紙を読む時点で他の人間が予定されていても問題あるまい」
「…あ、そうか」
「そして、“二つの命の理”は別問題だ。それは二人で答えにたどり着けと、前から申しておろう」
「確かにそうでした」ミコトが頭を下げる。「ですが、なかなかの難問のようです。お力添えをいただければと思っています」
「こればっかりはのう…」尻尾を振るドラゴン。
「これ、じゃない部分にはお力添えいただけるんでしょうか?」
「…何をたくらんでおる」
「それは、おいおい」ニッコリ笑うミコト。
「ふむ」目をぎょろつかせるドラゴン。
「ところで、この宝箱、開けてみていいんですか? 古の青龍さまに認めさせるには、お目にかからないといけませんよね」
「多少は頭が働くようだな、小娘」
「はい。未熟な神獣さま」
「…そなたの持つ鍵で開けてみよ、メイ」
「はい! 若青龍さま」ニッコリ笑うメイ。
「おまえたちの想像とは違う何かが、そこにはあるかもしれぬ」
羽童の声に、メイとミコトは顔を見合わせ、メイはバッグから鍵を取り出した。
* * *




