その20
ミコト、メイ、鈴露、祭の4人と、ゲージに入ったびゃっこちゃん伊勢に着くと、「西園寺龍さまからのご案内です」と、とある大邸宅へと連れていかれた。
リビングへ通されると、そこには龍をはじめとする“命”関係者がそろって歓談していた。
「お疲れ様、みんな」
悠斗が声を掛けると、メイが駆け寄る。
「おじいちゃま! おばあちゃま!」
「そんな怖い顔しないで。かわいい顔が台無しよ」微笑む華音。
「ここは…?」
「うちの別荘なんだ」聖人が答える。
「家具の趣味がいいのよね、咲耶ちゃんチョイスだから」真里菜が微笑む。
「にゃ~ん」
咲耶という言葉に反応したのか、びゃっこちゃんが鳴く。
そこにワゴンを押しながら入ってきた咲耶。びゃっこちゃんに気が付き走り寄った。
「びゃっこちゃん!」
「なーん、なーん」
甘えるように鳴くびゃっこちゃんをゲージから出し、抱き上げる咲耶。
「この子、おいたしませんでしたか?」
「大丈夫です。おいたしてたのは白虎さまなので」
微笑むメイに苦笑いする咲耶。
「ミコト…体の具合はどう?」足早に近づき、ミコトの手を取る史緒。
「大丈夫だよ。おばあさま。心配かけてごめんね」
「うん。大丈夫そうだ」史緒の後ろにいた大地が微笑む。
「おじいさま。俺、メイさんにお世話になったんだ」
「メイちゃん。本当にどうもありがとう」深々と頭を下げる大地と史緒。
「い、いえ、そんな。私はまだ何も…」
「メイちゃんの意見通りに交渉したんだよ」龍が言う。
「え?」
「全員で“命”をやめるって言ったんだ。独立という言葉は使わずに」
「え!」
「西園寺憎しの奴らに、全部権限を委譲すると言ったら、大喜びでやめさせてくれたよ」
「でも、その影響で日本は悪い方向に進んだりしないんですか? 株価暴落とか、大災害とか…残ったのは使えない人だらけなんでしょ?」
「天との交渉は今まで通り続けるんだよ」悠斗が言う。
「やっぱり、おばあちゃまが西園寺本家の“命”になるの?」
「それには反対です」鈴露が前に出る。
「鈴露…」戸惑うメイ。
「ご無沙汰しております。悠斗さん、華音さん」
「鈴露…さん」悲し気に鈴露を見つめる華音。
「私たちの関係性は置いておきましょう。あくまで、一条の“命”としての意見です」
「聞きましょう、若宮さま」悠斗が答える。
「今の西園寺家が繁栄しているのは、龍の宮さまが他家との調整を図りつつ、陰で支えてこられたからこそ。現在の本家の“命”さまが退位せし後は、龍の宮さまが本家の“命”となるのが道理」
「私は本家の“命”にはならない」龍が言う。
「なぜです? 西園寺一門が独立するのであれば、あなたさまがトップに立たなくてどうするのです!」
「おまえがやればいいよ、鈴露」
「…何言ってるんだよ、ミコト」驚きミコトを見つめる鈴露。
“あ、あら? 鈴露は別の“集”に…”
“ごめん。メイちゃん。俺の思う通りにさせてもらう”
“ミコトさん…”
「じいちゃんと、ばあちゃんは、おまえが西園寺に籍を戻して、西園寺の“命”になるのを願ってた」
「じいちゃんと、ばあちゃんが?…おいおい、何考えてるんだよ」目をぱちくりさせる鈴露。
「あんなに、じいちゃんや、ばあちゃんと仲良くしてたのに、気づかなかったんだ」
「“命”として仲よくしていたわけじゃない」
「大切な祭の祖父母だし、可愛がってもらってたからだよな?」
「…そうだ」
「じいちゃんと、ばあちゃんは、“命”としてのおまえのことだって考えてた。西園寺のために、おまえは色んな犠牲を払ってきた。西園寺の血を引くばあちゃんは、特に申し訳ないと思ってたと思う」
「ミコト…」
「だからこそ、おまえには本来いるべき場所に戻ってほしいんだ。もちろん、一条の両親への愛情や恩義があるのはわかる。でも、おまえが一条の“命”をやめても、弟が継げばいいじゃないか」
「おにいちゃん!」祭が前に出る。「そんなふうに追い詰めないで! 皆さんも今さら勝手なこと言わないでください!」
「いや。言わせてもらうよ、祭。俺は鈴露の出生を知らなかった。客観的に見て、じいちゃんとばあちゃんが考えたことは間違ってないと思う。本来の形に戻すだけだ」
「でも、今までの鈴露さまの思いはどうなるの!」
「なら、祭。今までの俺の思いはどうなるんだ? おまえは俺に嘘をつき続けていたんだよな? じいちゃんと、ばあちゃんと、龍おじさんと一緒に。父さんや母さんまで騙して」
「それは…」うつむく祭。
「責めてるんじゃない。そんなことしても何にもならない。問題は、これからどうするのが最善かを考えることなんだ」
「おにいちゃん…」
「皆が幸せになるためについた嘘を、誰も責めたりしない。だから、鈴露の幸せを願って、じいちゃんとばあちゃんが考えたことも責めないでほしいんだ」
「考えさせてくれ」かたい声の鈴露。
「はあん? 何言ってるわけ?」腕を組み仁王立ちするメイ。
「メイには関係ない」
「あるわよ! あなたが悠斗さん、華音さんと呼ぶところの二人は、あなたを呼び戻すために、私の気持ちを利用したのよ!」
「メイ…」
「ミコトさんと私以外、あなたと祭ちゃんが婚約してること知ってたはず。私は“本当のことを言わない”という形の嘘をつかれ、あなたたちを結婚させるためにアメリカから呼び戻された」
「メイ、それは…」
「みんなが鈴露の幸せを考えているじゃない! 誰も私の幸せは考えてくれないじゃない!」ぽろぽろ泣き出すメイ。
「メイちゃん…」おろおろする祭。
「鈴露。あなたがならないんなら、私が本家の“命”になるわよ!」
「お、おい…落ち着け。おまえにそんなこと…」
「できるわよ! あの昇生おじさんがやってるのよ!」
「昇生くん、何気にディスられてるわね」どこか楽しそうな真琴。
「まあ、一理あるが」首を回す聖人。
「…じゃあ、行くわよ、鈴露」
「ど…こへ?」
「あなたの家に決まってるでしょ? 祭ちゃんを連れて、ご両親とおじいさまにご挨拶。西園寺に籍を戻したくないなら、とりあえず清流旅館に婿入りして、高橋姓におなりなさい」
「おなりなさいって…」額の汗を手で拭う鈴露。
「うん。それがいいな。そうしよう」
ミコトがニッコリ微笑むと、メイもニッコリと微笑んだ
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