その2
真里菜は深潮の体をそっと抱きしめると、駆の前に立った。
「駆さん。ミコトが出ていく前にあなたと話したこと、全部教えてもらえるかしら」
「あ、あの、それでミコトは…」
「いいから答えて」
「は、はい。ちょっとそこまで出かけてくるから、いいかなって言われて、コンビニでも行くんだろうと思って、いいよと答えました」
「他には?」
「えーと…」考え込む駆。「そうだ。八代目の話になって…」
「具体的には?」
「父さんが八代目になるのはいつからかと聞くので、届け出が受理されてからだよと答えました…」
「ミコトは届け出についても聞いて来たのね?」
「はい…伊勢のことは言えませんでしたが、そういう組合に届けをだすと言いました」
「そうしたら?」
「そうしたら……あ!」真里菜を見つめる駆。
「ミコトは言ったのではなくて? 父さんより僕が先に届けを出したら、僕が八代目だとか、そんなことを」
「はい、でも…」
「冗談だと思うわね、普通」
「ミコトは、そのために伊勢に…?」
「まさか、ミコトのやつ…」鈴露が真里菜を見つめる。
「おそらくそうね」腕組みする真里菜。「自分を当主として届けて、当主の特権を使いに行った」
「それって、命懸けで願えば叶えてもらえるってやつですか…?」メイが恐る恐る尋ねた。
「ええ。あの子は命をかけようとした。だから私の元には“死の香り”が届いた。そう考えるのが論理的だわ」
「じゃあ、ミコトはまだ生きてるのね」深潮がホッとしたように駆と祭を見る。
「真里菜おばさま。ミコトさんは、いったい何を願おうとしているの? 確か、四代目から七代目までのぶん、4つを翔太さんはお使いになったのよね? それ以外にどんな願いを?」メイがまくしたてる。
「その4つを確認してから最善の方法を考える。ミコトならきっとそうする」鈴露が言う。
「ここにいる皆さんは、その4つをご存じなんですよね?」龍に尋ねるメイ。
「いや。命懸けの願いは、べらべらしゃべるわけにはいかないよ」龍が笑う。
「皆が漠然と思っているのは、ミコトの幸せ、祭の幸せ、清流旅館の繁栄、“命”システムの繁栄、あたりじゃないかということです」駆が言う。
「白虎ちゃ…さまや、羽童ちゃ…ん?の話を聞いたら、ミコトさんも、大体その辺りだと思いますよね…」メイが考える。「その上で5つ目に願うとしたら……うーん」
「ところでメイちゃん、さっき電話で注文してたジェット、いつ来るんだい」時計を見ながら訪ねる龍。
「そうですね…あと15分くらいだと思います。旅館の裏手の原っぱに停めます」
「ということだから、皆」龍が皆を見回す。「15分後に集合だ」
「承知しました」誰より先に答える史緒。
「それから、鈴露くんと祭は、びゃっこちゃんを迎えに病院に行ってもらいたい。引き取ったら、清流に戻って留守番を頼む」
「え?」同時に叫ぶと、目をぱちくりさせる鈴露と祭。
「できるよね、留守番」龍が微笑む。
「…若青龍さまの見張りということですね」
「ああ」
「そうだな、力の強い人間が若青龍さまの傍にいたほうがいい」聖人が言う。「今回、意外な形で、今まで言われていたことが事実ではないかもしれないことがわかったしね」
「そうですわね」咲耶が言う。「守り神様は基本、いろいろな条件が整わなければ宿から動けないはずなのに、白虎さまはミコトくんの体を借りて動いたということですものね」
「白虎さまの動きにも制約や条件はあったのだろうが、今の時点ではわからない」
「そう。だから、そこは鈴露くんに…いや、黄龍の若宮さまにご対処願いたい」
「…わかりました」
「どうか、おにいちゃんのことを、よろしくお願いします」
深く頭を下げる祭の手を、メイがぎゅっと握りしめる。
「任せて」
「はい」
祭は目に涙を浮かべて、メイの手を握り返した。
* * *




