その17
ジェット機は伊勢の奥に到着した。
降りてくる人々を、手を振りながら出迎える有川恭介。現在の外務大臣だ。
「みんな、久しぶりだね」
「恭介くん、よくテレビに出てるから、あんまり久しぶりな感じがしないわ」微笑む真里菜。
「ええ。国会答弁の時に泣き出さないか、いつも心配してるのよ」
奏子の言葉に充が言う。
「まあまあ、マドモアゼル」
そのセリフに笑い出す、龍、翼、大地。
「変わりませんわね、西園寺保探偵事務所は」史緒もくすりと笑う。
「“奥”に場所を用意してあるよ。話はそちらで」
静かに言う恭介に、一同も静かにうなづいた。
* * *
恭介が龍に言う。
「龍の宮さまも、なめられたものだなあ…というか、若青龍の小芝居にそのまま乗るとは…」
「ミコトの部屋に形代の蝶を放っていたのは、やはり恭介くん…いや、有川の宮さまだったんだね」龍が微笑む。
「うちは、西園寺一門とは他の“集”なので、やたらと口出しはできないが、密偵を放つくらいはね」
「恭介くん、スパイ活動大好きでしたものね」うふふと笑う奏子。
「まあ、若青龍さまも意識的にいろいろお話されてたんでしょうけど、無理がありすぎるわよね、あの設定」真里菜がため息をつく。
「でも、そうするしかなかったんだろ、紗由ちゃんたちの願い…いや、我々の願いを叶えるには」翼が言う。
「紗由がいろいろと面倒をかけてすまない」龍が頭を下げる。「だが…何とか見守ってほしい。そして、我々は我々で、やるべきことを遂行したい」
「やだ、龍くん。当り前じゃない」龍の肩を叩く真里菜。「紗由ちゃんと翔太くんは、華織おばさまですらできなかったことを、しようとしてるのよ」
言いながら声が震えてくる真里菜の肩を抱きなばら、翼が言った。
「もう、この形はここで終わらせよう」
一同は深くうなずいた。
* * *
ミコトとメイは、翔太と紗由の祭壇のある部屋に入った。
キラキラとした光の渦に、足を止める二人。
次の瞬間、ミコトが一歩、進んだ。
「若青龍さま! じいちゃん! ばあちゃん! 俺、来ました!」
ミコトの声に応じて、部屋の中が、いっそう明るさを増す。
メイは、立ち止まったまま、その光を受け止めていた。
“何…これ…何…?”
わけもわからぬまま、ただ、メイの頬には涙が伝う。
ミコトは祭壇の上、翔太と紗由の写真の前に、ドラゴンのぬいぐるみを置いた。
「使ってください」
ミコトが言うと、光の渦から青白い光の筋が現れ、8の字を描くようにして、ぬいぐるみに入っていった。
「やはり、ここが一番落ち着く」
「俺、思い出しました。若青龍さまは、いつもここに入って、俺と遊んでくれてましたよね」
「ああ」
「じいちゃんと、ばあちゃんにも、ぬいぐるみ持ってくればよかったかなあ」
「遺影があるから大丈夫よ」
「写真がしゃべった!」思わず大声を上げるメイ。「す、すみません…ぬいぐるみがしゃべるのは慣れてきたんですけど…」
「驚かせてごめんよ、メイちゃん。ミコトの傍にいてくれて、ありがとう」翔太が言う。
「いえ、あの、質問です。ミコトさんて、本当は力がなかったんじゃなくて、封じられてただけなんじゃないんですか? もしかすると、かなり力が強いんじゃないんですか?」
「唐突だな」若青龍が笑う。
「すみません…でも、何だか、皆さんの言ってること、いろいろ変で…」
「さすがね、メイちゃん。当たりよ」
「ミコトさんの中に、獣神さまたちが入ったり出たりしていたのは、封印を解くための儀式のようなものなんですか?…えーと、朱雀さまはまだだったけど…」
「それも正解だよ。だが、朱雀さまもお入りになったよ。メイちゃんが、まりりんの鼻を使う前だから気づかなかっただけで」
「…そうだったんですか」
「そうだ、それから、若青龍さま。お願いがあります」ぬいぐるみに頭を下げるメイ。
「何だ」
「祭ちゃんのことは諦めてください。真里菜おばさまにお願いして、可愛い獣神さまを紹介していただきますから」
「まりりん、人間以外はどうだったかしら…」紗由が言う。
「承知。楽しみにしておる」
「はい。ありがとうございます…え?」
あっさりと引き下がる若青龍に、メイは驚き、目をぱちくりさせた。
「どういうことですか…?」
* * *




