その15
ミコトと鈴露が板場から大きなホワイトボードとマグネット、マジックなどの一式を運んできた。
「メイさん、これでいいの?」
「ええ、ありがとう」
「メイちゃん…何を始めるの?」
メイは祭にウインクすると、ボードの前に立ち、書き始めた。
白虎さま、朱雀さま、玄武さまへの質問
★なぜ皆さんは清流旅館に集まったのか?
★若青龍さまをどうするつもりなのか?
★ミコトさんはどうなればいいのか?
書き終わると、ボードをひっくり返すメイ。
「では、出欠を取ります。白虎さま、いらっしゃいますか?」
「おるぞ」
びゃっこちゃんが、顔を撫でまわしながら答えると、メイは、ボードに〇を書き、その中に“ネコ”と書き入れる。そして、その下に白いマグネットを貼った。
「白虎さまは、びゃっこちゃんの中…。では、朱雀さま、いらっしゃいますか」
「我はここぞ」鳥のぬいぐるみが答える。
メイは、ボードに〇を書き、その中に“トリ”と書き入れ、下に赤いマグネットを貼った。
「朱雀さまは、鳥のぬいぐるみの中。では、玄武さま、いらっしゃいますか」
「ここにおる」カメのぬいぐるみが答える。
同様にボードに〇を書き、その中に“カメ”と書き入れるメイ。下に黒いマグネットを貼る。
さらに〇を4つ書き、その中に文字を入れた。“ミコト”、“祭”、“鈴”、“メイ”の4つだ。
「白虎さま、朱雀さま、玄武さまの居所は確認できました。別のところに移動された場合は、マグネットの位置を移します」
「わかりやすいわ」祭が感心する。
「ところで皆さま、若青龍さまはどちらですか?」
「祭壇におろう」
「翔太さんと紗由さんのお弔いですか?」
「仲が良かったからな…」つぶやく白虎。
「なのに、お二人のたっての願いは聞いてあげないって、なんか変ですね」
メイが言うと、朱雀は大きく咳ばらいをした。
「いつかは理解が及ぶ日も来よう」
「そうですね。先生の教え方次第だと思いますが」
「…ふん」
「いっそ、ネコもぬいぐるみにしてはどうか」
玄武が言うと、白虎がすかさず反論する。
「何かあった時、そなたたちを乗せて移動せねばならぬのでな。それはできぬ」
「我はどちらでもよい」小声の玄武。
「では、我を本物の鳥にいたせ。急な折にはカメを乗せて飛ぶといたす」
「私たちが抱えて走ればいいと思うけど…ま、いっか」ボードを再度ひっくり返すメイ。
「若青龍さまがいらっしゃらないのなら、ちょうどいいです。この3つの質問にお答えいただきたいのですが」
「秘密じゃ」朱雀が答える。
「何もしないとか、何もできないとかじゃないですよね?」メイが微笑む。
「四神の力を何と心得る!」
「具体的に力を見せていただかなければ、隠れた名店と同じじゃないかしら…」ひとりごちるメイ。「そっか。何もしないなら、元の宿に送り返せばいいんだわ」
「何を申す、小娘! 我らも若青龍待ちなのだ。何もできぬわけではない!」
「朱雀…余計なことを言うな」玄武が言う。
「ふん。まったく。どんな教育をしておるのじゃ」
「あのー。俺、ちょっと廊下の奥の物入れに行ってきてもいいですか」
「どうした、ミコト」
「思い出したんだ。昔、誕生日にもらった青いドラゴンのぬいぐるみがあったはずなんだ。それを若青龍さまに使ってもらったらどうかなって」
「なるほど。依り代があったほうがいいな。俺も探すの手伝うよ」
ミコトと鈴露は部屋を出ていった。
メイは、ミコトと鈴露の気配が消えたのを確認すると、祭の顔を覗き込む。
「ちょうどよかったわ。私、祭ちゃんに聞きたいことがあるの」
「なに?」
「祭ちゃんは、ミコトさんが怖くないの?」
「え?」
「変なことされそうになったんでしょ? いくら兄でも気持ち悪くならないの?」
「それは…」下を向く祭。
「私、祭ちゃんから、ミコトさんへの嫌悪感のようなものをまったく感じないのよね。そういう匂いがしないっていうか…」
「匂い?」
「鈴露もそうよ。ああ見えて生真面目だから、自分の彼女が襲われそうになったりしたら、若青龍さまを叩き潰す、あるいは追い払う方法を考えると思うのよね。だって…日本で一二を争う“命”なわけだし…」
「鈴露さまは、こちらに手を出せないから」
「本当に? 清流旅館の問題じゃなくて、西園寺家の問題なら、手を出す資格あるはず」
「……」
「そして、あなたは、本当のことを言わずにいるというタイプの嘘も付けない人よね」
メイは祭の瞳を見つめ、静かに微笑んだ。
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