その13
「跡継ぎって、父さんか僕だよな」ミコトが言う。
「あるいは祭だな」
「待って待って! 七代目がお亡くなりになったんだから、もうこの件は…この件がどの件かよくわからないけど、片付いたってことでいいんじゃないの? そうよ、そうしましょう」
「メイさんて、天然な感じするよね」笑うミコト。
「ミコトさんに言われるのは心外です」
口を膨らませながら、ふと考えるメイ。
「ところで祭ちゃんは? 一人にしたら、また若青龍さまに入られちゃうんじゃないの?」
「大丈夫だ。白虎さまに入っていただいた」
「…それって大丈夫の範疇なの?」
「まずいよ。朱雀さまとケンカになっちゃうよ」心配そうなミコト。
「ミコトさん…心配するの、そこなの?」
「とにかくいったん戻るぞ」
「…ところで聞かないのね、箱のこと。祭ちゃんから聞いたんでしょ?」
「ああ。おにいちゃんが箱と鍵を隠しましたって言ってた」
「…バレバレ?」
「じゃあ、箱どうする?」ミコトが確認する。
「隠したままにしておけ。どうせおまえが開かないと開けられないんだろ?」
「…どうして鈴露がそのメッセージ知ってるの?」
「俺を誰だと思ってるわけ?」
「……」鈴露を睨むメイ。「あなたから隠せと言われたのかと思ったわ、私」
「古の青龍さまは、真大祭に解かれ、お出ましになる。それまでゆっくりお休みいただけばよい」
「若青龍さまから隠せってことだったの?」
「書の姫を通じてのお言葉なら、古の青龍さまご自身か、西側の龍の言葉だろうな」
「西側の龍って何だ?」首を傾げるミコト。
「一条家の黄龍さまだよ」
「おまえんちの守り神様、味方なんだ。助かるなあ」うれしそうなミコト。
「どうかしら」
腕組みするメイを見て、苦笑いする鈴露。
「俺の中に入ってる時に、ビンタしたりするなよ」
「あ…祭ちゃんに謝らないと…」しまったという顔のメイ。
「大丈夫。祭、ああ見えて頑丈だから。それに、ビンタすれば若青龍さまは出てくってわかったわけだし」
「いや…」声を合わせる鈴露とメイ。
「でも、ミコトさん、どことなくうれしそう。ピンチに強いタイプなのね」
「うん。ちょっとうれしい。家族の一員として頑張れるわけだから」はにかむミコト。
その言葉を聞き、メイは胸が痛んだ。
彼はもう10年以上、家を離れて暮らしている。
家に帰ると具合が悪くなって、家族に迷惑がかかるからと、また東京に。
そんな生活での疎外感はどれほどのものか。
有能な七代目を前に、その無力感はどれほどのものか。
自分だけが、家族と違うという無価値観はどれほどのものだったのか…。
「メイさん! どうしたの?」
慌ててメイにハンカチを差し出すミコト。
「え?」
自分の頬を伝う涙に気付き、動揺するメイ。
ハンカチを受け取ると涙を拭う。
「ミコトさん、偉いなって思って…」
「鈴露。俺、ほめられた」
顔をくしゃくしゃにして笑うミコトを見ながら、メイは思った。
“この無邪気さ。放っておけないわよね、周囲は。ほんと、子供みたい…”
メイは自分の考えにハッとした。
“ミコトさんも若青龍さまも、子供っぽいんだわ。ミコトさんは無邪気。若青龍さまは、人間界のルールを無視して祭ちゃんを嫁にしようとする、わかりやすい我がままさというか…”
考えはそれより先には及ばなかったが、メイは心のどこかに引っかかりを感じていた。
「じゃあ、とりあえず、戻るか」
「宿に戻る前に、ひとつ教えて」
「なんだ?」
「四神さまは何のために集まったの? おじいちゃまとおばあちゃまが、わざわざ連れてきて置いて行ったってことは、目的があるんでしょ?」
「それこそ、俺はグループが違うから口出しできないよ」
「口出しじゃなくて、情報提供よ」
「帰ったら聞いてみれば?」
「…じゃあ、ミコトさんが聞く係ってことで」
「…わかりました。えーと、鈴露。俺からもひとつ聞いていいか?」ミコトが尋ねる。
「いいよ」
「さっきの跡継ぎの件だけど、祭だっていう可能性はあるのか?」
「…あるだろうな。おまえの一家全員に可能性はある。深潮おばさんもだ」
「そっか…」
「大丈夫よ、ミコトさん。何とかなるわ。ううん、何とかするのよ!」
* * *
その頃、びゃっこちゃんの本体は、鳥とカメのぬいぐるみを相手に爪とぎしていた。
「白虎。そろそろ、このネコに戻れ」転がされながら言う、カメのぬいぐるみの中の玄武。
「ミコトたちが戻ったら戻る」そっけなく答える、祭の中の白虎。
「青龍の姿が見えぬようだが」鳥のぬいぐるみの中の朱雀が言う。
「奥の祭壇で翔太や紗由と戯れているのであろう」玄武が言う。
「さて、ウォーミングアップも済んだ…ここからが本番だ」
祭の体がぐらりと揺れ、ふんわりとソファーに倒れこんだ。
* * *




