決闘
翌日、”双蒼の烈刃”を集め、セレスはアイナの脱退を宣言した。
アイナの脱退、それに対する反応はやはりと言うべきか否定的な意見も多かった。
「良いんじゃない?アイナちゃんもそろそろ自由にしたって」
”千技”ミアはセレスと同じくアイナの脱退を支持していた。
彼女の場合は戦闘面ではなく、アイナがいる事によって休暇期間が設けられる現在のパーティーよりも、アイナが居なくなればその期間にも働く事が出来ると考えていた。
アイナが抜ければ多少難易度の低い依頼になり、報酬は少なくなるが、その分数をこなせると全員に説明する。
個人的な感情より、冒険者としての実利を計算して意見を言うあたりに彼女の性格があらわれている。
戦闘以外を担当する彼女にとって重要なのは冒険者としての収支なのだ。
「ダメだ、アイナがこのパーティーでどれだけ重要なのかわかってるのか?」
一方、その生涯を戦いに費やしているガレイはアイナの脱退に反対している。
”双蒼の烈刃”で盾役として最前線で戦う彼女は、アイナがいる事によって戦闘が支えられている事を知っている。
戦闘面についてしか考えないガレイはミアとは真逆の意見を言う。
「ガレイはいつまでアイナに頼るつもりなの?私達はもうアイナ抜きでも十分やってけるよ」
くすんだ金髪の”賢者”の片割れララは、アイナに頼りきりの現状を良く思っていない。
活発な彼女は意外にもパーティー全体の事を考えており、セレスと同じ様にアイナ抜きでの活動も可能と考えている。
”双蒼の烈刃”の面々はアイナ抜きでも戦闘力は他のSランク冒険者に劣らない事を理解している。
「ララ、あなたが好き勝手に出来るのも、アイナがいるからなのよ」
もう1人の”賢者”ルルはガレイの意見に賛成している。
治癒魔術に精通する彼女は、後方からパーティー全体の戦闘を常に見ている為、アイナが攻守両面で他のメンバーを常にサポートしている事を誰よりも知っていた。
「私とミア、ララが賛成で、ガレイとルルは反対。迷った時は多数決の約束です、3対2でアイナの脱退を認めましょう」
「これは多数決で決められるような議題じゃないだろ!」
”双蒼の烈刃”内の決め事は多数決で決めると約束があった。
だがそれを持ち出したセレスにガレイがすぐさま反論をする。
アイナの脱退で”双蒼の烈刃”はこれまでと戦略などを変える必要が出る。
それによる戦力の低下は免れない、それをガレイとルルは危惧している。
「ガレイ、貴様がなんと言おうが我は出て行く」
「テメェが集めておいて、勝手に出て行くってのか!」
「我は貴様と初めて対面した時言ったはずだ、ついてくるのは自由だが、我は我の好きなようにするとな」
アイナは確かに”双蒼の烈刃”の面々を集めた。
だがそれはアイナが助けた者達が、アイナに惚れ込み同行した結果、今の形になった。
アイナが自らの意思でメンバーを集めたのではなく、他のメンバーがアイナについて来たのだ。
「そうか、双蒼の烈刃といるよりもよりもその男が良いんだな?」
「そうだ」
「ちょっとアイナ!ガレイも落ち着きなさい」
ガレイのしつこさにアイナも頭に来ていたのだろう。
一触即発の雰囲気を察したセレスが制止をする。
だが2人の間から剣呑な雰囲気が消える事はしない。
「兄さん達も、勝手な事をしてくれるね」
ルルの怒りも収まらず、矛先をシン達に向ける。
それは間違いではなく、シン達がここを訪れなければアイナの脱退という問題も起こる事はなかった。
「どうしたら納得するんだ?」
シンは既に穏便に済ませる事が不可能だと判断している。
手っ取り早く納得して貰えるように条件を聞き出したいのだ。
「ならあなたが双蒼の烈刃に入りなさい」
「ちょっと、どういう事よ!」
「お前もうるさいね、こっちからアイナを取るんだからそっちも1人よこしなよ」
ルルの提示した条件はシンが”双蒼の烈刃”に加入する事だ。
ユナはルルの条件に反論をするが、ガレイに返され口を出さなくなる。
同じ事をしてるのだ、その条件に反論は出来ないとすぐに答えを出したのだ。
「ガレイ、ルル、シンさん達に対してそういう事は言えません」
「どうしてだ?アイナが脱退するのはそこのシンとかいう奴に付いて行くからだろ?ならそこの男が私らのパーティーに入ればアイナは出て行かなくて良いんじゃないのか?」
「シンさん達には目的があります、それは私達では達成出来ません。それにアイナは自らの出て行くと言っているのです。それは双蒼の烈刃の問題であり、シンさん達には関係ありません」
ルルとガレイはシンがここに残るならアイナも残ると思っていた。
だがそれは間違った解釈である。
その間違った解釈はシン達が本当の目的を話していないのも原因だ。
「セレスはどうして納得出来る?アイナが抜けるのは呪いが原因だろ?ならその男にここに残ってもらい、アイナが呪いを乗り越えるまで待てばいい事だ」
確かにアイナの事を考えるならそれは間違った考えではない。
だがそれはアイナの真実を知らないから出る答えである。
それにシン達にここに残るという選択肢はあり得ない。
「なら、こうしよう。兄さん達と私達、勝った方が好きな条件を出せる。もちろんこちらの条件は兄さんがここに残りアイナの手助けをする事」
平行線をたどる話し合いにしびれを切らしたルルは決闘を申し出た。
冒険者達の間では揉め事は決闘で決着を付けるのは有名な話だ。
「兄さん2人に姉さん2人とその鳥、私達はアイナを除いた5人で決闘。それでどう?」
「ちょっと、私達は反対していません?」
ルルの提示した決闘はシン、ユナ、ティナ、ロイズ、メリィとアイナを除いた”双蒼の烈刃”によるものだ。
だがその条件に反論したのはセレスとミアであった。
アイナの脱退を認めている彼女達は決闘をする必要がない。
「良いだろう、ただひとつだけ条件がある」
「何?Sランク相手だと怖いの?大丈夫よ、手加減ぐらいはしてあげるから」
シンがひとつだけ条件出すと言うとルルは挑発をするように話しかける。
その瞳には己の実力に対する絶対の自信が伺えた。
「俺1人でやる」
「はっ?」「ちょっと、シンさん⁉︎」
シンの出した条件にルル達は信じられないと言うような表情を見せる。
人類の最終兵器と呼ばれるSランク相手に1人で戦うと言うのだ、当然の反応だろう。
「なかなか言うじゃないか、小僧」
ドガっと黒曜石の机を殴りつけ、ガレイがシンに向け怒りを露わにする。
舐められている、そう肌で感じ取ったのだ。
「シンさん!取り消して下さい!」
「いや、もうダメよ。良いわ、兄さん、覚悟する事ね」
慌ててセレスがシンの発言を取り消そうとするが、ルルがそれを許さない。
ガレイと同じく怒りを露わにするように拳が握られている。
「ユナさん達も何か言って下さい!シンさんが死んでしまうかもしれないのですよ!」
シンの身を案じているはずのユナ達に助けを求めるが、そのユナ達の表情に危機感は感じられない。
「シンなら心配いらないわ」
ユナからは余裕とも感じられる態度で言葉を返される。
「何やら面白くなってきおったの」
リリアナの姿に変わっているティナは事の顛末を楽しむように笑っている。
Sランク冒険者との決闘も魔王である彼女には余興にしかならない。
「ようやく、君の本気が見られるのかな?」
獣王選定でシンと戦ったロイズだが、あの時は一方的なロイズは負けた。
それから行動を共にしたが、シンが本気で戦闘をする場面を見た事がない。
相手はSランクだ、シンの実力を知るのにこれ以上ない相手である。
「私達はアイナなしでも強いですよ?」
「我の師を甘く見るでない。セレス、本気でやらねば負けるのはお前達だぞ?」
セレスとしてはシンの身を案じて最後の忠告のつもりだったが、アイナに言われ彼女も覚悟を決めたのだろう。
先ほどまでの優美な雰囲気と違い、強者の雰囲気を立ちのぼらせている。
「決闘は2日後、それまで精々足掻くんだな」
「あっ、その日はダメよ。3日後にして」
「何故だ?まあいい、1日でも生き長らえる事を感謝するんだな」
ユナが何故か1日の延長を申し出たが、ガレイは特に気にする事なく承諾する。
日付を決めるとルルに続いてガレイも退出をした。
3日後の予定を打ち合わせする為に残る他の面々もシンの事を凝視していた。
アイナの脱退には賛成のララとミアだが、シンの言動はそのプライドを刺激した。
「場所はルノー雪原で行いましょう。あそこなら気兼ねなく戦闘が出来ます」
ルノー雪原はスーリアから竜車で2時間ほどの距離にある平原だ。
障害になる木や岩などがなく、ララやルルの魔術の制限もない為、選んだのだろう。
「本当に良いのですね?」
「ああ、問題ない」
シンに対し最後の確認をするがその意思は変わらない。
そうなればセレスとしてももう戦う以外の選択肢はなくなる。
「では、3日後またお会いしましょう」
セレス達に別れを告げ、シン達は屋敷から外に出る。
アイナはそのまま屋敷に残るように言ったが、決闘をする相手の世話になるつもりはない。
「本当に勝てるのかい?」
「何言ってるのよ、勝つに決まってるじゃない」
ロイズはシンの実力を全て知っている訳ではないがやはりSランク相手となれば不安もあるのだろう。
だがそんな彼にユナは自信を持ってシンの勝利を宣言する。
「早く宿を見つけないとな、リリアナにはもう少しかかると連絡をしたいといけないし」
スーリアの宿屋はこの屋敷から遠くにある為、着く頃には日が暮れているだろう。
前まで宿泊していた宿屋もなかなか空きが見つからず、苦労していた。
ロイズの心配を他所に、シンは非常に落ち着いている。
1人で戦う必要はないのだが、何故だかそうしなければならないと直感したのだ。
「早く行きましょうよ、明後日とかはお出かけしたいし」
シンにのみに聞こえるようにユナは言う。
スーリアの店舗が気になっていたユナは早く買い物をしたいのだろう。
それだけこの街の品物は性能が高いのだ。
「明後日?」
買い物ならば明日でも良いだろう、だがユナははっきりと明後日と言っている。
その理由がシンにはわからなかった。
「なんだ?シンは知らんのか?」
先に進むユナを追いかけるとティナがシンに話しかける。
何があるのかシンはわからない。
「明後日はユナの誕生日だぞ、シンも何かやってやらんと気を損ねるぞ?」
「えっ⁉︎」
”双蒼の烈刃”との決闘より、シンには難題が残されていた。
ユナの激怒した姿を想像したシンは、Sランク冒険者達との戦闘を想像する時よりも背筋が凍えるような感覚にとらわれていた。




