侵入
「ロイズ、準備は良いか?」
獣王レオル・フリードは世界樹に向かった。
変装をして警備の者達とユーギリア城から出発した事をシン達は確認し、ユナ達へと連絡を入れた。
メリィはこの日の為に250人の戦力となる味方を用意した。
予定よりもユナ達陽動組の戦力は増え、ユーギリア城の兵士達にも拮抗出来るだろう。
「いいか、俺のイグジステンス・イーターの能力は俺から離れすぎると解除される。ダメージを受けてもダメだ、それに1回の制限時間は10分だ。獣王の像までどれだけ時間がかかるかわからない、常に俺の側にいてくれ。時間が来たら物陰に隠れてやり過ごす」
メリィの連れて来た戦力の中に序列10位アルファスの姿もあった。
彼はその能力で存在を消せる。
アルファスはシン達に恨みを持っていたが、それが間違いであるとメリィに説得された様だ。
アルファスにいい印象を持っていなかったシン達だが、侵入するのにこれほど心強い能力はない。
獣王選定でシン達の脅威となった能力はやはり制限があったらしく、効果時間は短い。
それ以上に使用するとイグジステンス・イーターの能力が解除されなくなり、元に戻れなくなるそうだ。
シン達は10分おきに能力を解除しながら移動しなくてはならず、次の能力を使用するまで3分間を置かなくてはならない。
そして常にアルファスから離れる事は出来ない。
能力の解除中に敵に見つからない為に、ユナ達陽動側はシンから能力解除中の通信が伝えられ、シン達の居る場所と違う場所で戦闘を行い敵の目をそちらに向けさせる。
「じゃあ、使うぞ」
アルファスがイグジステンス・イーターの能力を使用する。
シンとロイズ、アルファスには各自の姿が見えている。
だがユーギリア城の正門から城へと向かうシン達に兵士達は気付かない。
肉体自体が消えた訳ではないので、シン達は通りすがる人々にぶつからないよう注意深く進んで行く。
アルファスの能力は獣王選定の戦いで森の世界の住人達に知られている。
人にぶつかってしまっては、アルファスが能力を使用していると知られてしまう。
ユーギリア城まで辿り着き、中に侵入する。
世界樹を削り作られた巨大な城はシン達の歩みで軋む音がする。
アルファスの能力ではシン達の足音自体は消えても、それによって発生する軋む音までは聞こえない。
だがここには多くの人もおり、シン達の歩む音はすぐに消える。
「もうすぐ10分だ、あの階段の裏に隠れるぞ」
慎重にゆっくりと移動していた為に思っていたより時間がかかる。
10分と言う時間は長いようで短い。
階段裏に回りアルファスは能力を解除する。
ユナ達に侵入成功の報告をし、次の能力行使までの3分の経過を待つ。
シン達は物音を立てないようひたすらに静止する。
時々近付く足音にシン達の緊張感が高まっていく。
足音が遠ざかるとアルファスから能力の行使をすると合図がかかる。
能力を使用し、シン達は階段を駆け上がる。
事前の打ち合わせで、像のある部屋はユーギリア城の上層の部屋にある可能性が高いと決めていた。
獣王はユーギリア城の上層部に居る事が多く、獣王にしか入れない場所はそこに近い所にあるはずと考えていたのだ。
音を立てず慎重に階段を進んでいく。
1つの部屋に誰もいない事を確認し、入り込む。
アルファスが能力は解除しユナに連絡を入れる。
すると遠くの方から爆発音が鳴り響いてくる。
「メリィさんが獄炎を使ってますね」
メリィから放たれた炎の息吹がユーギリア城の周辺を焼く音がシン達に聞こえる。
侵入した部屋の外から兵士達の走る音と怒声が響き、シン達にもユナ達のが陽動が上手くいっている事が理解出来る。
「よし、行こう」
3分が経過しアルファスは再度能力を使用する。
部屋の外に出ると廊下を多数の兵士達が慌しく移動していた。
シン達は出来る限り壁側に寄り、走る兵士にぶつからないように注意し移動していく。
「あっだぁ!」
だが壁側に寄ったロイズに兵士の1人がぶつかり転んでしまう。
走っていた所での転倒に兵士が痛みを堪えられず声を上げる。
「何だ⁉︎どうした?」
転倒した兵士に他の兵士が歩み寄る。
兵士は何か異変を感じているように感じたシン達は急いでその場を離れる。
「走るぞ、この騒ぎの中なら俺達の足音もわからない!」
アルファスの言葉と共にシン達は走り出す。
ギシギシと軋む音が大きくなるが、他に走っている兵士達の足音に混ざり違和感はない。
「ここからは獣王の住処だ。何かあるかもしれないから慎重に行こう」
獣王は居ないが、外敵に対する罠がある可能性が高い。
アルファスの能力があるとはいえ油断出来ない。
**
陽動へと参加しているユナ達は次々と現れるユーギリア城の兵士達に少しずつ苦戦していった。
1人1人はユナやナナに遠く及ばないものの、使命を果たした者達はその相棒達と連携を取りユナ達を押し返していた。
メリィ達が連れて来た者達も城の兵士達と同じ程度の実力を持っているが、3倍近い敵の数に苦戦は免れない。
「ナナ、私が前に出るわ!後ろは任せたわよ」
最前線に出ていたエルリックを援護するべくユナはナナに後方の支援を任せ走り出す。
メリィの炎の息吹とナナの武器の射出による広範囲の攻撃で何とか持ち堪えているが、メリィの炎の息吹は負担が大きくあまり連発は出来ない。
次第に押され始める前線に真紅の刀を持ったユナが現れると、流れは変わりユーギリア城の兵士達を押し返していく。
ユナ達は城の兵士を殺す事が出来ないが、敵はそうではない。
手加減しながら戦わなくてはならないユナ達は数の不利の上に、制限が大き過ぎた。
ユナの奮闘により敵の勢いは止まったが、すぐさま兵士が後から次々と現れる為、ユナの居ない場所から切り崩されてしまう。
「1度退却しましょう!」
別の場所から戦場を見つめていたリリアナから通信が入る。
目的はユーギリア城の陥落でなく時間稼ぎだ。
少しでも押され始めたら退くと事前に打ち合わせている。
ユナとナナ、メリィが敵を食い止めている間に退却を始める。
城の兵士達は最初は追いかけていたが、ユナ達の奮闘で次第に追撃をやめ、城の防御を固める。
「シン様達は城の上層まで辿り着きました。ここからの捜索はさらに時間はかかるでしょう」
シン達が城の上層まで辿り着くまで予想以上に時間がかかった。
獣王が戻って来るまで時間はまだあるはずだが、ユナ達も想像以上に苦戦している。
「城の防御を固めているので、最初と違いここからは攻めるのが難しくなります。ユナさんとナナさん、メリィさんを主軸に持久戦を展開します。無理に攻め入る必要はありません」
リリアナの指示で再度ユーギリア城に攻め込む。
1度に攻め入らず、攻めと退却を繰り返し敵の目をユナ達に向けるのがこの陽動組の役割だ。
だがその陽動組の後方に爆発音が響く。
ユーギリア城の兵士達からではなく、完全に陽動組の後ろからの攻撃だった。
「私の居ない間に城を攻めようなんて、そんな事させる訳ないじゃない」
後方にいたメリィの前に水色の髪をした少女が現れる。
ユナ達の後方に氷の雨が降り注ぎ、次々と味方が倒されていく。
「随分とお早いお帰りですね」
忌々しそうにメリィは言葉を放つ。
少し前まではシーナと呼ばれていた獣王レオル・フリードが氷狼の力で攻撃をしながら陽動組に襲いかかる。
シーナだった頃と違い、完全に氷狼の力を物にしている獣王は己の部下達と共に陽動組を挟み撃ちの形で追い詰め始めた。
「お前は、メリィだったか?選定の決勝で負けていたが、私は獄炎鳥の力でも良かったぞ?」
メリィに向け獣王レオル・フリードは歩み寄る。
その姿はまさに王と言える堂々としたものだった。
「なら今からでもシーナちゃんと私を交換しない?」
「私は負けた者に興味はない。何故、弱者の体を使わねばならん」
獄炎鳥でも良いと言った獣王にメリィは今すぐ変われと言うが、負けたメリィにもう興味はないらしい。
悔しさに口を噛み締めるが、メリィのやるべき事は1つだ。
「私も、手伝う」
獣王の姿が現れるとメリィの隣にナナが並び立つ。
親友とも呼べるシーナを取り戻す為、ナナもここを簡単に通すつもりはない。
「出来るのか?余所者が」
戦闘は、ナナが大量の武器を創り出し射出した瞬間に始まりを告げた。
唸りを上げ獣王に向かう無数の凶器は轟音を上げ突き刺さる。
直撃した、そう思った瞬間にユーギリア城の周辺が氷の世界へと作り変えられる。
「獣王に刃向かうとどうなるか、教えてやろう」
大木で出来た都市を極寒の世界に変え、獣王がナナ達に襲いかかる。




